「デリケートゾーンの悩みは恥ずかしい」は卒業しよう

2024年06月07日

陰部がムズムズ、ニオイが気になる……

「デリケートゾーンの悩みは恥ずかしい」は卒業しよう

「デリケートゾーンの悩みは恥ずかしい、相談しづらい」。そんなふうに感じ、悩みを抱えてしまう方がたくさんいます。そもそも、デリケートゾーンも歯や手足などと同じ体の一部なのに、どうして「恥ずかしい」と思うのでしょうか?専門家に聞きました。

教えてくれたのは増田美加(ますだ・みか)さん

女性医療ジャーナリスト。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を多数行う。NPO法人女性医療ネットワーク理事、一般社団法人日本フェムテック協会理事。著書に『もう我慢しない!おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)など。

 

恥ずかしいと思うのは「教育」のせい

長年、女性医療の現場を多く取材してきた増田美加さん。前述の疑問を投げかけてみると、ズバリ「教育のせいです」と増田さん。

「私が小学生のときにもそうだったんですが、教室に女の子だけ集められて、先生から『生理が来るよ』といった話をふわっとされませんでしたか? それを男の子が『何をしてるんだろう』って窓からのぞいたりして(笑)。

そのときに、例えば生理による痛みや女性ならではの病気、女性ホルモンの話など掘り下げた話はされませんでした。実はその状況、当時から今まで大差ないんです。そんな国って先進国では日本だけです」

確かに40代の筆者も、小学校でナプキンの使い方や捨て方などは教わった記憶がありますが、他の記憶はほとんどありません。近年は“フェムテック(※)”が話題になっていますし、もっと情報が行き届いているのかと思っていましたが……。

※フェムテック=フェムテック(Femtech)とは、Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語。女性の健康にまつわるさまざまな悩みをテクノロジーで解決する製品やサービスに加えて、女性の健康に関するヘルスリテラシーをあげるためのムーブメントも含まれる。

性教育=セックスというのは思い込み

「歴史的に、日本にはたびたび性教育バッシングというものがあって。国や政治家が、『性教育なんか子どもにするなんていかがわしい』という流れがあるんです。性教育=SEXのこと、と思い込んでいるんですね。

でも違うじゃないですか。性教育は、ジェンダーの教育なんです。女性と男性では、性が違うからホルモンも違う。女性ホルモンと男性ホルモンは全然違う。だからなりやすい病気も違う。がんについては、乳がんは女性に圧倒的に多いし、子宮頸がんなどは女性だけのものです。子宮筋腫も卵巣がんも女性ならでは。

でも、そういった性差による体や病気のことを日本人は教えてもらってきていない。月経(生理)とはどういうものなのか、避妊や月経痛緩和、月経をコントロールするためにも使える低用量ピルってどんな意味があるのか、妊娠、出産、将来すこやかな赤ちゃんを産むためにどうしたらいいのか、更年期とは何かなど、学校教育の中で全然教わってきていない。それが日本なんです」と増田さん。

確かに、筆者の月経痛のことを思い返しても「病気ではない、我慢するべきもの」という思い込みがあったように思います。低用量ピルについても、恥ずかしながら知識はほとんどありません。では、海外は全然違うのでしょうか?

おおもとは日本の男女格差。なんと世界で125位!

「例えばフランスやオランダは、幼稚園の頃から性の話をするし、低用量ピルは学校の保健室に置いてあったりするんですよ。欧米で低用量ピルは1960年代に承認されているんです。女性が自ら選択して飲んで避妊できるものとしてスタートし、いまや月経痛をやわらげたり、経血量を少なくしたり、月経をコントロールするためにも使えます。

これは画期的な出来事で、当時、フランス人の女性による『今世紀で一番メリットが高かったものは低用量ピル』という新聞記事が出たくらいです。

でも当時、低用量ピルの存在を日本女性は誰も知らない。現在も、低用量ピルの日本での普及率・内服率は圧倒的に低くなっています。日本で低用量ピルが承認されたのは、アメリカから遅れて30年以上たった1999年です。そのくらい日本は遅れているんです。

低用量ピルは女性が自分で自分の体や妊娠をコントロールできる、女性が選択して自立的に生きるためのものなのに、国は認めなかった。避妊についても『男がやればいいだろう』という考え方で、コンドームしかなかったんです。

今、日本でもジェンダーギャップの問題が盛んになってきていますが、日本はいまだに世界146か国中125位なんです(※1)」

そんなに下なんですね……!

「日本女性は、ヘルススリテラシー(※2)も、欧米はもちろんですが他のアジア地域の女性よりずっと低いんです。識字率や学校への就学率や教育のレベルは高くていろいろなことに優れているのに、ヘルスリテラシーが低いのは不思議ですよね。性(ジェンダー)の部分だけ抜け落ちた教育をずっと受けてきたからだと思いますね」(増田さん)

そんな日本にも明るい兆しが。昨今のフェムテックブームです。

※1「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)2023年より。146カ国の男女格差の現状を各国のデータをもとに評価。
※2   自分にあったエビデンスのある健康情報を探して、理解し、使える力のこと。

キーワードは「我慢しない」。つらいときは声をあげて!

フェムテックという言葉が誕生したのは2015年。欧米で生まれ、さまざまなサービスや商品ができて、経済が動いたことがきっかけだったといいます。それでも、日本で知られるのは2018~2019年頃だったとか。

「コロナ禍で健康意識が高まったこともあり、2020年にフェムテック議連が立ち上がり、そこがフェムテック元年と呼ばれています。その頃にMe Tooや『生理を隠さない』などのムーブメントがあって、女性の更年期にも注目が集まり、そこにフェムテックという言葉がついてきたという流れです。

ここで女性たちだけでなく、やっと『月経や妊娠・出産や更年期に対して社会全体が、何かできるのではないか』と気付き始めた。

私は、これは最大のチャンスだと思っているんです。みなさんが、さまざまなサービスや商品をご自身の健康問題と結び付け、いかに活用するか。もともと男性に管理されてきた社会から一歩抜け出す、大きな変革期だと思っています。

こうやってメディアに取り上げていただいたり、フェムテックという言葉なら記事にしやすく読まれやすかったり、そういうことを通じて、日本女性が置かれている現状を知ってご自身にとって心地よい環境に進んでいける、大きなきっかけだと思っています。

私は今61歳ですが、読者のみなさまの中にも50代から60代の方はたくさんおられますよね。そして、更年期や閉経後のデリケートゾーンのお悩みを抱えている方が多いと思います。声をあげられない、あげにくい立場の人もいらっしゃると思うけれど、隣のお友達にでもいいから話してみた方がいいです。

そうすれば、『私もよ』となり、『私も、私も』がつながって、情報を得て、ラクになる方法が見つかるかもしれません。我慢する必要がなくなります。今は昔と違い、解決策がたくさんあるのですから。

また、産婦人科でも泌尿器科でも、お悩みを受け入れてくれる医師が増えています。ぜひ相談して積極的に治療しましょう。キーワードは『我慢しない』です!」

そう熱く語る増田さんご自身も、女性特有のお悩みと向き合ってきたお一人。次回は増田さんのご経験や、セルフケアについてご紹介します。

取材・文=水野 愛(ハルメク 健康と暮らし編集部) 写真=渡辺裕之
 


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増田美加さんが理事を務める「日本フェムテック協会」では女性の心や体の変化について学べます。

一般社団法人日本フェムテック協会とは?
「女性のライフステージに応じて、どんなときも体と心のバランスをとりながら自分らしく活躍できる社会になってほしい」という願いをもって設立。女性特有の悩みを解決するため、女性の心や体の変化、ホルモンバランスについての正しい知識の啓発活動を行っています。
https://j-femtech.com/

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水野 愛
水野 愛

2019年12月より「ハルメク 健康と暮らし」食品記事編集に携わる。好きなものは漫画・歴史・音楽・一人旅。特技は赤ちゃんをあやすこと。今の夢は、習い始めた三線で、沖縄のおばあ・おじいたちとセッションすること!

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