作家・寮美千子さんと考える「音に出す言葉の力」#2

少年刑務所で生まれた1行の詩が、彼らを変えた

公開日:2021/03/13

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奈良少年刑務所の少年たちに月に1度「絵本と詩の教室」の講師を務めることになった作家の寮美千子さん。絵本を朗読することで自分を表現し、周囲に受け止めてもらえることを経験した少年たちは、今度は詩を書くことになります。そこで起きた反応は――。

少年刑務所で生まれた1行の詩が、彼らを変えた
少年刑務所で生まれた1行の詩が、彼らを変えた

詩を書くことに初めて挑戦した少年たち

詩を書くことに初めて挑戦した少年たち

刑務所の少年たちは、詩なんて書いたことがない子がほとんどでした。「次の授業までに書いてきてください」と言われても、何を書いていいのか、見当もつかなさそうだったので、小さいときの楽しかったことや悲しかったこと、これからの希望や不安でもいい。今日は暑いなあ、でもいい。何でも書きたいことを書いていい。どうしてもなかったら、好きな色について書いてきてください、と言いました。

そんな宿題、逃げ出したい子もいたかもしれませんが、みんな一生懸命書いてきました。やっぱり色の詩が多かったですね。いくつかご紹介しましょう。

「金色」
金色は
空にちりばめられた星
金色は
夜 つばさをひろげ はばたくツル
金色は
高くひびく 鈴の音
ぼくは金色が いちばん好きだ

受講生はみんなしゃべるのが苦手で、これを書いたのも言葉数の少ない少年でした。彼からこんなポエティックな詩が生まれてくるとは思いもしませんでした。鶴も鈴も、色そのものではないのに、それを金色と感じる彼の気持ちに胸を打たれました。

「黒」
ぼくは 黒が好きです
男っぽくて カッコイイ色だと思います
黒は ふしぎな色です
人に見つからない色
目に見えない 闇の色です
少し さみしい色だな と思いました
だけど
星空の黒はきれいで さみしくない色です

この少年は育児放棄され、コンビニの廃棄弁当を盗んで食べるような生活をしていました。そういう子が、人に見つからない闇に紛れて、ほっとしているのだけど、同時に寂しく感じている。そして見上げた夜空はきれいだった――彼がどんな罪を犯したにせよ、彼の心の中にはこういう思いがあったのです。

たった1行の詩が仲間たちの心を動かした

たった1行の詩が仲間たちの心を動かした

授業中、いったい何度泣かされそうになったことか。こうした授業を2年半ほど繰り返し、5期目となった授業で、ある少年がたった1行の詩を書きました。

「くも」
空が青いから白をえらんだのです

なんて美しい詩だろう。そう思いました。

授業では、自分で書いた詩を読んでもらい、聞いている仲間が感想を言い合うのですが、その少年は、薬物中毒の後遺症があって、ろれつがうまく回らず、自分の詩を大きな声で読むことができませんでした。

「もう一度、みんなに聞こえるように、ゆっくり大きな声で読んでくれないかな」と言っても、自信がないせいか、早口になってしまう。何度かお願いしたら、ものすごくがんばって一生懸命読んでくれ、仲間たちもみんな大きな拍手を送りました。その彼が、「先生、僕、話したいことがあるんですが、いいですか」と言うのです。最初のひと言はこうでした。

「僕のお母さんは、今年で七回忌です」

彼の話はどもったりつっかえたりでしたが、要約すると、お母さんは体が弱く、お父さんがいつもお母さんを殴っていた。彼は小さくてお母さんを守ることができず、お母さんは病院で亡くなったのですが、亡くなる前に「つらくなったら空を見てね。お母さんはそこにいるから」と言い残したそうです。「だから僕はお母さんのことを思って、お母さんの気持ちになって、この詩を書きました」

空が青いから、あなたによく見えるように、私は真っ白になって空に浮かんでいますからね、という母の気持ちになって書いたのかと思うと、胸がいっぱいになりました。

ところが、まだ続くのです。彼がそう言って着席したら、他の受講生たちが挙手して次々に感想を言い始めました。

「僕は、〇〇君はこの詩を書いただけで親孝行やったと思います」

「僕は、〇〇君のお母さんはきっと雲みたいに真っ白で清らかな人だったんじゃないかなと思いました」

「〇〇君のお母さんはきっと雲みたいにふわふわで、やわらかくて、優しい人だったんじゃないかなと思います」

どの子もこの子も、なんていい子なんだろう。それなのに、いったいどんな罪を犯してここにいるのか。こんなに優しい気持ちを持っているのに、どうして、何が、あなたたちに罪を犯させたのか。そう思っていたら、また別の少年が――その子は自分の犯した罪が大き過ぎて、自傷行為が止まらず、いつも真っ暗な表情をして、今までろくに発言もしたことがなかったのです。その彼が、すごく勢い込んで、挙手をしました。

「僕は、お母さんを知りません! でも、この詩を読んで空を見上げたら、お母さんに会えるような気がしてきました!」

私は、受講生たちがどんな罪を犯したのかは知らされませんし、半年の講座が終了すれば、その生徒たちとはもう二度と会うことはありません。でも、偶然、この「お母さんを知らない」と発言してくれた少年については、その後の姿を見ることができました。

たまたまテレビが、この授業の半年後の彼を取材してくれたのです。彼は、まだ刑務所にいましたが、なんと工場の副班長になっていました。表情は明るく、背すじが伸び、背が高くなったように見え、しかも「最近僕は、休み時間には、仲間の人生相談を聞いています」と話すのです! 私はひっくり返るほどびっくりしました。そして、よかった、もう彼は世の中に出ても大丈夫かもしれない、と思いました。

彼は癒やされたのです。

彼を癒やしたのは、たった1行の仲間の詩。

活字で読むだけなら、ただ「美しい詩だなあ」と感心するだけだったかもしれません。でも、声に出して読み上げ、仲間みんなで感想を言い合える場がありました。みんなに拍手をしてもらったから、あの詩を書いた少年は心を開くことができた。彼の心がわかったから、他の仲間も心の扉を開いて、優しい思いをあらわにできた。その連鎖反応から、母の顔を知らなかった少年も、今まで誰にも言えなかった心の内を吐露することができ、それをみんなに受け止めてもらえた。

 「大変だったね」「さびしかったね」「がんばってきたんだね」「僕も、小さい頃にお母さんがいなくなっちゃったんだ」そんな言葉が向けられたから、彼には笑顔が戻ってきたのです。

彼らの言葉と優しさに癒やされて

つくづく言葉は文字ではないと思います。その言葉を表現できる場があること、それを聞いてくれる人がいること、そして安心して語り合える場があることで、文字で記されるだけよりも、何倍もの価値が生まれます。

前回もお伝えしましたが、私は最初、得体のしれない犯罪者の中に入って授業をすることが怖かった。でも、それは最初だけ。あとはずっと、彼らの優しさに癒やされていました。

私は、この授業を繰り返し行いましたが、一度として、少年たちが誰かをおとしめたり、傷つけるような言葉を聞いたことがありません。マウンティングしたり、他人の足を引っ張るような子もいませんでした。いったいなぜだったのだろう。なぜ、みんなあれほど優しさにあふれていたのだろう。次回はそのことについて考えてみます。

寮美千子さんのプロフィール

寮美千子さんのプロフィール

りょう・みちこ
作家。1955(昭和30)年、東京都生まれ。毎日童話新人賞、泉鏡花文学賞を受賞。2007~16年、奈良少年刑務所で、社会性涵養プログラムにおける言葉の講師を務める。絵本に『おおかみのこがはしってきて』(ロクリン社刊)、著書に『あふれでたのはやさしさだった』(西日本出版社刊)他多数。受刑者の詩をまとめた『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』はこの夏の「新潮文庫の100冊」に選ばれた。第2詩集『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』(ロクリン社刊)には、「詩の教室を開く12のポイント」とベテラン教官に聞いた「子どもを追い詰めない育て方」を収録。2021年5月開催のハルメクのオンライン講座に登場予定。
 

※この記事は、雑誌「ハルメク」2020年10月号を再編集しています。

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