青森県五所川原市の名物“ミサオおばあちゃんの笹餅”

75歳で笹餅屋を起業。95歳桑田ミサオさんの人生

公開日:2020.06.02

更新日:2022.04.26

「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)で話題になった桑田ミサオさん(93歳、取材時)。青森県五所川原市金木町の名物“ミサオおばあちゃんの笹餅”の作り手です。笹採りから餅作りまですべて一人で手掛けるミサオさんの力の源泉とは。

つやつや肌とキラキラと輝く瞳が美しいミサオさん

ミサオさんの笹餅は「スーパーストア金木タウンセンター」(住所:青森県五所川原市金木町沢部460)で、毎週火・土曜日に数量限定で販売。
ミサオさんの笹餅は「スーパーストア金木タウンセンター」(住所:青森県五所川原市金木町沢部460)で発売されていましたが、2022年4月現在は笹の葉がとれないため販売中断となっています

津軽半島の中ほどにある五所川原市。ここに、とびきりおいしい笹餅を作る名人・ミサオさんの加工所があります。「ようこそ、遠くまでよくいらっしゃいましたね」と、やさしい笑顔で迎えてくれたミサオさんは、93歳(※)とは思えないほどお元気で、肌もつやつや。キラキラと輝く瞳が美しく、凛としたたたずまいに思わず見とれてしまいます。※2019年取材当時

「昨日はちょうど消費者会の会合があって、お湯っこ(温泉)に入ってきたからかしら。あとは小豆を煮たり、餅生地を蒸したり、お餅作りで四六時中、湯気に当たっていることも肌にいいのかもしれんね」とちゃめっ気たっぷりに笑います。

津軽地方に伝わる笹餅は、あんこを餅で包むのではなく、こしあんにもち米を粉にした餅粉を混ぜて餅生地を作り、笹の葉に包んで蒸して作ります。ただし、ミサオさんの作り方はちょっと違って、こしあんと餅粉を混ぜてとろとろにやわらかい生地を作り、1時間ほど寝かせたら生地だけを蒸します。蒸し上がったら、生地を丸めて笹で包み、もう一度蒸し器に入れて1分だけ蒸します。

「こうすると、口当たりが滑らかでやわらかいお餅になり、笹の葉も色よく仕上がるんです」

 

必ず売り切れる笹餅のおいしさの秘訣は、惜しみない手間ひま

手作りあんこと餅粉を混ぜて作った生地はお餅というよりプリンのようなやわらかさ。これがとろける食感の秘訣。
手作りあんこと餅粉を混ぜて作った生地はお餅というよりプリンのようなやわらかさ。これがとろける食感の秘訣

ミサオさんが作る笹餅は、「ミサオおばあちゃんの笹餅」という商品名で週2回、地元のスーパーで販売されています。

1袋2つ入り、1日150袋、一人5袋までの限定で販売される笹餅は、地元のみならず全国各地から買い求めに来る人がいるほど人気。お昼にはいつもすっかり売り切れてしまうといいます。

原材料は、砂糖以外はすべて地元のもの。知り合いの農家から購入したもち米を自ら製粉機にかける粒子の細かい餅粉、手作りのこしあん、おいしい湧き水。笹餅を包む笹も、自ら山に入って収穫したものを使っています。

笹を採りに山へ行くときは自転車で。力強くこぎ、スピードも速い。加工所内では布草履を愛用しています。
笹を採りに山へ行くときは自転車で。力強くこぎ、スピードも速い。加工所内では布草履を愛用しています

「あれもこれもやりたくなる性分で、お餅を作りながら畑仕事もし、以前は小豆も自分で育て、その小豆であんこを手作りしていました。もう90歳を超えましたからいい加減休もうかと思いまして、2、3日休んでみたんです。そうしたらかえって体のあちこちが痛くなってしまって。老いてこそ、毎日適度な運動が必要なんですね。でも、かかりつけの先生からは、『やれるからといって無理はダメだよ』といつも言われます。だから去年から、小豆を作るのはやめました。その他は今まで通り。笹を取りに山に行くときは、自転車に乗って行きますよ」とこともなげに話します。

手間ひまをかけることを惜しまず、一つ一つ丁寧に作るミサオさんの笹餅。東北の方言で、手間をかけることを‟までぇ”と言いますが、ミサオさんの笹餅は、まさに“までぇな笹餅”です。
「今もこうして笹餅を作り続けられるのは、家族や地域で支えてくれる方々、そしておいしいと喜んで食べてくださるみなさんのおかげ。ありがたいことです」と、やさしく微笑みます。

 

ミサオさんが笹餅を作り始め、起業した理由

蒸しあがったばかりの笹の色はこんなに鮮やか。粗熱を取るために天板にずらりと並べた様子も美しい
蒸し上がったばかりの笹の色はこんなに鮮やか。粗熱を取るために天板にずらりと並べた様子も美しい

ミサオさんが本格的に餅作りを始めたのは、60歳のとき。保育所の用務員を定年退職後、地元の農協の婦人部の方から、無人直売所を始めるから協力してほしいと言われ、餅菓子やお赤飯を作って出したのが最初でした。その後、地元のスーパーから笹餅を売らせてほしいと声が掛かり、商品として取り扱うには、製造元として会社登録することや保健所の検査などが必要と言われ、起業することになったそうです。

「75歳でしたが、求められるならやってみようかと。むしろこういうことも、この年ならば自由に楽しみながらできるのではないかとも思いました」

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