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- 美空ひばりさんの苦悩や悔しさ…その先のスター街道
「ハルメク」でエッセイ講座などを担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、数々の名曲を遺してきた昭和の大スター・美空ひばりさん。今も歌い継がれる名曲の背景にあったものとは……。
大好きな先輩「美空ひばり(みそら・ひばり)」さん
1937-1989年 歌手
終戦翌年に9歳でデビュー。国民的歌手として活躍し、平成となった年に52歳で永眠。翌月、女性初の国民栄誉賞を受賞。「悲しき口笛」「リンゴ追分」「柔」「悲しい酒」「真赤な太陽」など数々の名曲を遺す。
「人一倍、努力する」という決意
「これでは卒業できないかしら。でもわたし、旅先でだって一生懸命勉強したのだし。小学校には落第はないから、きっと大丈夫だと思うわ」
こう自分に云(い)い聞かせたのは、昭和25年当時、小学6年生だった美空ひばりです。おない年の子どもたちが学校で勉強している同じ時間、美空ひばりは劇場から劇場への公演、撮影所から撮影所への仕事つづきの日を送っていました。
6年生になったときには、出席日数は三分の一以下という有様でした。
結局、ひばり少女は小学校卒業式の日、仮免状を受けとることになりました。それを自身は悔しくも、情けなくも思わずにはいられなかった……。
時の小学校校長はこのとき、芸能・文化に理解がないと非難されました。しかしほんとうは、美空ひばりの未来を想うこころで、安易な卒業認定を拒んだのでした。
卒業式の翌日からの一週間、学校長、担任教諭はじめ横浜市立滝頭(たきがしら)小学校のせんせい方が補習授業を行ったのです。
子守りの奉公に出ていて2年卒業が遅れている少女がいっしょでした。最終日にふたりが卒業テストを受けました。テストは口頭のかたちで実施されましたが、加藤和枝(かとう・かずえ)さん(ひばりの実名)は優秀な成績だったそうです。
卒業証書は、春休み、モーニングで正装した学校長から手渡されました。
のちに美空ひばりは「学校へ行きたいのに行けない者だけが知る悲しみ」について書いています。その悲しみの上に、ひと一倍努力して立派な芸能人にならなければならないと、誓うのです。
見えているようには生きていない
わたしが知っている美空ひばりは、すでに押しも押されもせぬ大スターでしたが、少女時代には、こんな苦労もあったのでした。そればかりでなく、たくさんの偏見と妬(ねた)み嫉(そね)みにもさらされました。
ひとというのは、見えているようには生きていないものですね。それぞれのこころの内に思いがけないものを秘めているものですね。誰にもそれぞれ物語はあります。
それを感じながら、ひととひとが認めあえたなら、いいのに。そんなふうに、敗戦の焼土から生まれた天才少女はわたしにおしえてくれました。
美空ひばりがつくり上げた日本の伝統的な音楽の数々を、あらためて聴いてみようと思います。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2016年9月号を再編集し、掲載しています。
>>「美空ひばり」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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