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- 詩人・茨木のり子さんから学ぶ隣国・韓国を思う思い方
「ハルメク」でエッセイ講座などを担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、詩人の茨木のり子さんです。韓国語を習っていた茨木さんから山本さんが感じた「ふところ深く抱くお隣さんを思う思い方」とは……。
好きな先輩「茨木のり子(いばらぎ・のりこ)」さん
1926−2006年 詩人
1953年に川崎洋(かわさき・ひろし)らと詩誌「櫂」を創刊。「現代詩の長女」と称される。「倚りかからず」「わたしが一番きれいだったとき」などの詩で知られる。91年には『韓国現代詩選』の翻訳で読売文学賞を受賞。
「韓国語を習っています」の言葉から生じる動機への疑念
出合いは「自分の感受性くらい」(岩波文庫『茨木のり子詩集』などに収録)。
この詩には心底驚かされました。驚くという表現では足りません。そうです、いきなり頰をはたかれました。
苛立ちやうまくゆかないことを、時代やら、誰かのせいにはするな、とわたしを叱り、結びは「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」です。はたかれて、これほど感動したこともなかったなあ、と思い返しています。
茨木のり子の詩の連なりは、わたしのなかで輝きを放っている……。
けれども、これからここに置こうとしているのは、茨木のり子の詩のはなしではありません。彼(か)のひとが韓国語を習いはじめたときのことです。1976年、茨木のり子が50歳になろうとする年でした。
「韓国語を習っています」と口にするたび、「それはまた、どうしたわけで?」と訊かれたそうです。英語を習っているとか、料理を習っているとか答えたなら生じない、動機への疑念でした。
美しいものに心惹かれて、民族や国、文化を愛する美しさ
同じころ、当時わたしが勤めていた出版社の、大先輩が韓国語を学んでいました。背中合わせの席でしたから、しばしば茨木さんと話しているらしい電話の声を聞きました。その気配からはいつも、韓国に対する敬意と、憧れと、愛情が伝わってきたのです。
茨木さんも先輩も、韓国語学習への出発地点は、惹きつけられてやまない朝鮮系統の仏像(百済観音〈くだらかんのん〉、夢殿〈ゆめどの〉の救世観音〈ぐぜかんのん〉、広隆寺の弥勒菩薩〈みろくぼさつ〉など)や、陶器(白磁、粉引〈こひき〉、刷毛目〈はけめ〉、三島手〈みしまで〉など)であったということです。
美術に心うばわれ、その作者である民族への興味をかき立てられてゆくとは、なんと自然で、なんとうつくしいなりゆきでしょうか。
『ハングルへの旅』(朝日文庫)に茨木のり子は、まわりからの問いかけに結局、「隣の国のことばですもの」ということにしたと書いています。隣の国・韓国ことば(南も北も)、ハングルです。
隣同士であっても、中国、韓国とわが日本とは、あるときから似て非なる国になったといえましょう。が、惹きつけてやまない文化を持つお隣さんたちを、わたしたちは見切ってはなりません。
まだまだわたしの知らないものをふところ深く抱くお隣さんを思う思い方を、茨木のり子はわたしにおしえます。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2016年6月号を再編集し、掲載しています。
>>「茨木のり子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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