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- 随筆家・武田百合子さんがお手本「魅力的な生活者」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、随筆家の「武田百合子」さんです。何気ない日常を切り取った、日記のような武田さんの随筆から感じた、日常の「粋」とは……。
好きな先輩「武田百合子(たけだ・ゆりこ)」さん
1925-1993年 随筆家
横浜の富豪に生まれるものの、戦後に生家は没落。神田の喫茶店兼酒場に勤めていたとき作家の武田泰淳(たいじゅん)と出会い、51年長女出産を機に結婚。76年に泰淳が亡くなった後、随筆を発表。独特の感性で高い評価を得た。
憧れの父に初めてすすめた随筆『富士日記』
武田百合子を知ったのは『富士日記』(中公文庫)。こんな世界観、こんな感性があったのかと思いました。幾度読んだか知れません。読むたび、新鮮な驚きに包まれます。
1964年、東京の家と行き来するようになった富士山麓の山の家での13年間の日記です。おもしろい!と読みはじめましたが、この文章の瑞々しさは唯事ではないと思うようになりました。
夫で作家の武田泰淳(たいじゅん)はそれを見抜いていたのでしょうね、日記を書くことをすすめます。それがはじまりです。
地元のひとたちとのやりとり。山暮らしのまわりで起こる自然の変化。それをみつめるまなざしは澄みきっていて、そしてお茶目なんです。
いまから25年ほど前、「この本知ってる?」と父に『富士日記』を見せました。
「武田泰淳は知っているが、夫人も書くのか」とつぶやいて本を持ってゆきました。その後間もなく父からはがきが届きました。
「『富士日記』を紹介してくれてありがとう。すばらしいね。じつにユニーク」
父はわたしの読書の師であり、父の本棚はあこがれの対象でした。その存在に向かって初めてすすめたのが『富士日記』だったのです。
人の暮らしは案外ちっちゃなことが大事
ロシア旅行を綴った『犬が星見た』『日日雑記』(ともに中公文庫)ほか、どの随筆も、読んでいると、自分がそこで同じものを見、同じ体験をしている心持ちになります。
そうそう、おいしいものもたくさん出てきます。豆腐が1丁35円、うどん玉(3玉)30円、もやし10円、ビール1打(ダース)1350〜1500円という時代です。
風変わりなところでは、コンビーフ茶漬、湯豆腐の残りにケチャップを入れる(泰淳発案百合子反対)、パンにマヨネーズ(主人「バターより味があるし、するする塗れて面倒臭くなくていい」と言う)など。
ええ、そうなんです、武田百合子の本を読むと、ひとの〈暮らし〉が秘めている魅力、おもしろ味を、あらためて気づかされる思いがします。案外ちっちゃなことが大事なんだなということも。
魅力的な生活者という有り様(よう)を、わたしももう少し大切に考えて、ときめきたい!
武田百合子お得意の文章の区切り方「ある日」の連なりこそが人生ですもの。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2017年5月号を再編集し、掲載しています。
>>「武田百合子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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※ハルメク365では、雑誌「ハルメク」の電子版アーカイブを12か月分見ることができます。詳しくは電子版ハルメクのサイトをご確認ください。
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