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住民票異動のメリット・デメリット、相続時の注意点
老人ホームに入居すると住民票は移す必要があるのか
社会福祉士/ハルメク 介護と住まいの相談室 相談員
坂本 愛
公開日:2023.07.28
老人ホームに入居する場合、基本的に住民票はそのホームに移します。しかし、住民票の異動には一部デメリットが生じる可能性もあります。本記事では、老人ホームに住民票を異動するメリット・デメリット、住所地特例制度の詳細を解説します。
老人ホームの入居時に住民票を移すのか?
老人ホームに入居する際には、基本的にそのホームに住民票を移します。ただし、住民票を移さなければ老人ホームに入居できないというわけではありません。
また、短期間の入居であれば移す必要はないのですが、通常の入居で、過去の住まいを引き払ったり、誰も住んでいない状態であると、住民票を移し、郵便物の転送を設定しなければ大切な郵便物を受け取れなくなります。そのため特別な理由がない限りは、入居のタイミングで住民票を移すことになります。
なお、老人ホームの入居前に複数人で暮らしていて、世帯主が入居した場合でも、住民票をそのホームに移すのが基本です。その場合、住民票の異動が完了した後、新しく単身世帯の世帯主になります。
介護保険の住所地特例とは
住民票の異動をする際に、介護保険の住所地特例の説明を受けることがあります。介護保険の住所地特例とは、住民票を新しい区市町村に移しても、移す前の区市町村が引き続き保険者となる仕組みのことです。
介護保険の保険料は、40歳以降、区市町村に納めます。介護保険にてサービスを利用するときになって、異動後の区市町村で利用すると、異動後の区市町村では保険料の収入はないのに、実際の費用負担が発生してしまいます。これを防ぐための特例として、住民票を移す前の区市町村が介護保険の保険者のままとなる住所地特例があります。
老人ホームに住民票を移すメリット・デメリット
老人ホームに住民票を移す場合、メリットとデメリットの両方が考えられます。
住民票を移すメリット
まずは、住民票を移すメリットを2つの項目に分けて解説します。
メリット1:郵便物が入居先に届く
住民票を老人ホームに移すと、郵便物が届くようになります。自治体からの連絡など、重要な郵便物も受け取れます。転送漏れもなく、親族に転送してもらう必要もありません。
メリット2:住民票の異動先の独自地域サービスを受けられる
住民票を異動させれば、異動先の地域の独自サービスを利用できます。例えば、公共施設の割引や、介護タクシーの補助、介護用品の補助など、自治体によって異なる独自のサービスを、住民票異動後の地域サービスを受けられます。
住民票を移すデメリット
住民票を移すことで生じるデメリットもあります。本項では、2つのデメリットをそれぞれ解説します。
デメリット1:元の地域でのサービスが受けられなくなる
住民票を移すと、元の地域でのサービスが受けられなくなります。住民票の異動後、引き続き同じサービスを利用しようとしても、元の地域のものは適用されなくなるため、サービスを切り替える必要があります。
異動先のサービスを享受できるので基本的に問題ありませんが、場合によっては手続きに手間を要するため注意が必要です。住民票を異動させる前に、異動先でも問題なくサービスを利用できるのかを確認しておきましょう。
デメリット2:ホーム側にプライバシーを知られる可能性がある
2つ目のデメリットは、ホーム側にプライバシーを知られる可能性があることです。住民票を移した先に郵便物が届くため、もしもプライバシーに関する書類があった場合、ホーム側にそれを知られるリスクがあります。該当する主な書類は以下の通りです。
- 借金の督促状
- 運転免許証の更新案内
- 区市町村から届く公的書類
入居者によっては、これらの書類を「老人ホームのスタッフには絶対に見られたくない」と感じるかもしれません。その場合は、住民票を元の場所に残し、郵便物はどなたかに持ち込んでいただくことになります。
住所地特例制度の詳細|対象者・対象施設・手続き方法
住所地特例は前述した通り、住民票を移す前の区市町村が引き続き保険者となる制度です。この制度が設けられた理由は、区市町村に給付費の負担が偏り、施設等の設備が円滑に進まなくなる可能性を防ぐためです。
この住所地特例制度があることで、老人ホームに入居して住民票を異動させたとしても、元の区市町村の介護保険が適用されるため、保険料が変わることなくサービスをそのまま享受できます。
ただし、この特例を適用させるには一定の条件があり、自ら申請を行う必要があります。入居先でご案内いただけるとは思いますが、本項にて、本制度の対象者・対象施設・手続き方法をそれぞれ見ていきましょう。
住所地特例制度の対象者
住所地特例制度の対象者は以下のいずれかを満たし、対象施設に入居した方です。
- 65歳以上の方
- 40歳以上65歳未満の医療保険加入者
これらの条件を満たしていれば住所地特例制度の対象となります。
住所地特例制度の対象施設
対象者が以下の対象施設に入居するときに住所地特例制度が適用されます。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 有料老人ホーム
- 養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム(ケアハウス)
- サービス付高齢者向け住宅(有料老人ホームに該当するサービスを提供するもの)
- 介護医療院
住所地特例制度の手続き方法
住所地特例制度は自ら申請しなければ適用されません。まずは、保険者となる区市町村(元々住んでいた区市町村)の役所・役場に「住所地特例適用届」を提出します。
その後、老人ホームから保険者となる区市町村に対し、「施設入所連絡票」を送ってもらう必要があるため、老人ホームにその依頼をしましょう。そして、住所地となる区市町村から保険者となる区市町村に「住所地特例者連絡票」を送付すれば、住所地特例制度の手続きが完了します。
住民票の異動が相続に影響する?
老人ホームに住民票を異動させることで、相続に影響を与えることがあります。相続において「小規模宅地等の特例」や、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(いわゆる「空き家特例」のこと)を利用しようとした際に、住民票を異動し、他の居住者が住んだ場合など、もともとの居住者の居住実態がなくなったとみなされるケースがあるのです。
また、住民票を老人ホームに異動していなくても、健康な状態で入居していた場合などは、居住実態が移ったと判断されることがあります。自分の場合は特例を利用できるのか、気になる方は税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例は、相続時に、もともと住んでいた自宅の評価額を大きく減らし、相続税の金額を少なくできる特例です。
小規模宅地等の特例を適用することで、土地や建物の評価額を最大80%まで減額できます。特例の対象となるのは土地の面積が330平米以下であるなど、その他の要件もありますが、相続税額を大きく下げられるため、積極的に利用したい制度です。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例とは?
通常、不動産を売却した際には、その売却益に対して所得税がかかります。しかし、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を適用すると、売却益から譲渡者一人あたり最高3000万円の特別控除を受け、所得税を大きく減らせます。
売却益とは、物件の売却価格からその物件の取得価格(相続した時点の価格など)を差し引いた金額のことです。
この特例を適用するにも、要件を満たす必要があります。例えば、相続の開始があった日から3年を経過する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であること、などです。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
特例の利用を予定している方は、税理士に相談し、適用できるか確認しましょう。
住民票の異動は状況を踏まえて実施しよう
老人ホームに入居する場合、基本的に住民票は異動させることになります。住民票を異動させることでメリットやデメリットが生じる場合があり、小規模宅地等の特例、または被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を利用する場合、相続に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
「基本は老人ホームに住民票を異動させる」という事実を念頭に置いた上で、ご自身の状況を踏まえて住民票の異動を検討しましょう。
なお、老人ホームの選定や住民票異動で迷ったときは、シニア住宅の知識が豊富なスタッフに相談できる「ハルメク 介護と住まいの相談室」をご利用ください。多くの選択肢の中から、ご自身に合った住まいを見つけましょう。
記事監修:坂本愛さんのプロフィール
さかもと・めぐみ 社会福祉士。急性期病院のメディカルソーシャルワーカーとして受診相談や退院支援業務を経験。退院後に必要なケアをもとに、ご自宅での療養生活のアドバイスや、介護施設の紹介を実施。雑誌『ハルメク』の記事執筆にも携わる。
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