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- 日本一のフローリストが教える花の命と感性の磨き方
前回に続き、第一園芸のトップデザイナーであり、日本一のフローリストの新井光史さんをご紹介します。花活けを生業とする者が避けられない「花の命と向き合う」ことについて、「忘れられない思い出」として新井さんが語った“ある出来事”とは?
第一園芸・新井光史さんのプロフィール
あらい・こうじ。第一園芸のトップフラワーデザイナー。1960(昭和35)年生まれ。花の生産者としてブラジルに移住後、花で表現する喜びに目覚める。2008年ジャパンカップで受賞、フローリストとして日本一に輝く。国内外で幅広く活動中。近著に『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社刊)。
花の命について考えさせられた忘れられない思い出
結婚式やパーティーなど大規模なイベント会場では、必ず見事な花が咲き誇るフラワーデコレーションが施されています。新井光史(あらい・こうじ)さんは、40年近く結婚式やパーティーなど大規模なイベントのフラワーデザインを手掛けてきました。
その中で、特に忘れられない出来事があったと話します。今から26年ほど前、1年間に千件近い披露宴が行われるホテル内のフラワースタジオの店長だったときのことです。
「イベント用の花は、本番で最も美しく咲くように調整しており、当時終了後は次の準備に向けてどんどん廃棄する現状でした。ある日、新人スタッフに『商品価値がなくなった花とはいえ、あんなにも無造作に廃棄することを仕事として続けていく自信がない』と言われたんです。私も始めた当初こそ違和感はありましたが、スケジュール優先で働き続ける中では気にも留めなくなっていました。人として大事なことを思い出させてもらったと、ハッとしました」
その出来事をきっかけに、今では花を捨てる際に「ありがとう」と感謝を述べる習慣がついたそう。
またハルメク365の動画レッスンに出演しブーケ作りを披露した際には、ブーケには使用しない個性的な一輪を見つけて、その特徴を生かして花活けをする、というこだわりも見せてくれました。
自分のために花を生ける時間に癒やされた
そして改めて、新井さんが「花の命」とじっくり向き合うことになったと話すのが、コロナ禍でした。ちょうど定年を迎え働き方が変わり家にいる時間も増えたことで、改めて花を“自分のために”育ててみたり、生けることにしたと言います。
「あのとき、花に本当に救われましたね。コンテストやイベントのように誰からの評価を受けることもなく、花一輪に真摯に向き合って、素敵な角度をじっくりと探してみたり。自分のために生けてみると、浄化されたようにすがすがしい気持ちになりました。
花に話しかけながらお手入れを行っているのですが、花からも『水が欲しい』って言ってくれればいいのに、なんて考えるほど、思うようにはいかないものです。育てることで一本一本咲くのにかかる労力も再々再認識して、花一輪一輪を活かしてあげたいという思いは強くなりました」
日本一のフローリストの感性を磨く秘訣は?
コロナ禍が収束に近づくにつれて、これまでのようにイベントやコンペティションが催されるようになり、新井さんはより積極的な作品作りに取り組んでいきたいと意気込みます。
作品作りのため、何か感性を磨く上で心掛けていることはあるのでしょうか。
「自分の心の琴線に触れるものは、その場で心に留めておくことでしょうか。自分の場合は、『色』で気になるものがあると、じっと見てしまいますね。色は森羅万象にあるもので、当たり前の日常で見つけられますよね。『赤黒い夕焼け』や『コンビニのポスターの色合わせ』だったり、『街を歩く人の服』といったものです。色が好きだから、つい見てしまいます。
あとは自分だったらこうするかなと、偉そうにも考えてますね。突き詰めると、興味があって好きなことがあることが大事で、自分の場合はそれが『色』だったということでしょうね。なんとも、安上りですけれど(笑)」
新井さんの作品に触れると、心の奥底にしまってあった美しい景色が呼び起こされるような感覚を覚え、心が震えます。それは、新井さんの心の琴線に触れた、美しい「色」の記憶が花を通じて伝わってくるからなのかもしれません。
最後に、イベントのときだけでなく、ぜひ日々の暮らしに花を取り入れてみてほしいと、新井さんは言います。
「花は存在自体が完璧なものですから、それぞれの独自の感性で生けて、誰しもが偉大な芸術家になれるものだと思っています。花と向き合う時間は幸せなものですから、ぜひ楽しんで生けてほしいですね」
取材・文=竹上久恵
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