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- 優しい本 「めぐらし屋」 堀江敏幸
幼少の頃から読書が大好きな久田さんが、定期的に行っている読書会についてや、文学にちなんだ場所巡り、おすすめの本について紹介。今回は読書会にて、堀江敏幸「めぐらし屋」を読んだお話です。
読書会で堀江敏幸「めぐらし屋」を読む
「めぐらし屋」のヒロイン,蕗子さんは離れて暮らしていた父が亡くなり父の部屋を片付けにきて幼いころ父の誕生日のお祝いにプレゼントした黄色い傘の絵が描かれているノートをみつける。表紙に筆ペンで「めぐらし屋」と大書きされていた。
『部屋のなかが、すうっと暗くなる。電灯を切ったのではなく、調光つまみを急いでオフのほうにまわして、おびただしい段差をなめらかに滑っていくのに似た光の落ち方だ。バスを降りたころから、春先特有の、靄の立つこまかい雨が降りはじめ、蕗子さんはここまで傘を差して歩いてきた。』
物語の初めのほうに出てくるこの文章がいいなぁと思った。
まるで女性作家が書いたような感じを受け、繊細でやさしいと思った。メンバーのAさんからもそんな意見が出ていた。淡々として流れる父と娘の時間、一緒に暮らしていなくても親子っていいものだと思った。
路子(みちこ)と娘の名前を決めて、届けに行ったはずなのに、役場の人とのやり取りから蕗子(ふきこ)になってしまった。
『路が人をここではない別の土地へと導いてくれる線だとすると蕗はそのわきに生えている草みたいなもの。まっすぐに進むことができずに寄り道ばかりしてもそれが名前なのだと居なおることができる。』
まるで蕗子さんの生き方を一言で表しているとみたいとみんなで言い合った。
父がめぐらし屋を始めたいきさつも丁寧によく描かれている。父の残しためぐらし屋(宿探し)の仕事を蕗子さんもやってみようとするところで物語はおわっているが、最後はやはり傘のお話が出てきて構成はみごとである。
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