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- 魔除けの風鈴
涼やかな音色が暑さをやわらげてくれる風鈴。もともとは魔除けのためのものだと知った時、幼いころの夏の一コマがよみがえってきました。
父と風鈴
まだ私が小学生だった、とある夏のこと。会社から帰ってきた父はちょっと楽しげに、
「風鈴を買ってきたよ」
掌に乗るほどの小さな箱を私に差し出しました。
「わあ、風鈴!」
ガラスに描かれているのは金魚かな、朝顔かな、と、わくわくしながら箱を開けた私は、
「えっ……」
中から現れた、黒く重いモノに言葉をなくしてしまいました。お寺の釣鐘みたいな形に地味な文様。ずしんとした鉄の風鈴は、涼しげでもなければ華やかでもありません。
がっかりした顔の私に、父は一言、
「鳴らしてごらん」
仕方なく私は釣り紐を持って風鈴を持ち上げ、そっと揺らしてみました。と、
り、りりりりりん……
何とも言えない澄み切った音が、部屋中に響いたのです。
「音がね、いいんだよ」
ぱあっと表情が明るくなった私を見て、父はとてもうれしそうでした。
風のかたちが見える
それからその風鈴は、南向きの窓際が定位置となりました。
風が吹くと、私が揺らした時よりもっと澄んだ音が鳴り、部屋の中へ涼を呼んでくれます。
見えない風のかたちが見える気がして、私は畳に寝転んで、ずっと風鈴を眺めているのが好きでした。
風鈴のルーツ
ずいぶん大人になってから、私は風鈴というものがもともと魔除けのために作られたのだということを知りました。
仏教と共に中国から伝来した青銅製の風鈴は「風鐸(ふうたく)」と呼ばれ、この音の聞こえる範囲では災いが起こらないとされていたとのこと。
そのため寺院の軒先などに魔除けとして吊られていたのだそうです。
それを知った時、私の耳には父の買ってきたあの風鈴の音色が響いてきたような気がしました。
魔除けとして
昭和の半ば、路地奥の小さな家の窓に吊られていた鉄の風鈴。私たちは決して豊かではなかったけれど、よく笑ってよくしゃべる明るい家族でした。
父の買ってきた風鈴は立派な魔除けとして、私たちの幸を守ってくれていたのかもしれません。
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