コロナ禍と更年期。どん底で見つけた生で会いたい人
【推し活・体験談】56歳カナコ、声優に沼落ちして人生が動き出す(前編)
【推し活・体験談】56歳カナコ、声優に沼落ちして人生が動き出す(前編)
公開日:2026年03月23日
「推しがいるだけで、毎日に張りが出る」
そんな声を耳にすることは増えましたが、実際に人生が変わるほどの力を持つこともあります。
株式会社クロスマーケティングが2025年6月に行った調査によると、10代から70代で推し活をしている人の割合は36%。若年層ほど割合は高い一方で、50代でも34%が推し活をしているという結果が出ています。推しの対象は、「漫画・アニメ・ゲームのキャラクター」「アイドル」「ミュージシャン」「スポーツ選手」「俳優・女優」などさまざま。
今回話を聞いたのは、ある声優に魅了され、ライブに通い、やがて“追っかけ”のようになっていったカナコさん(仮名・56歳)
「以前より生活が充実している」
「嫌なことがあっても、推しのことを考えると気持ちにゆとりが生まれる」
そう語る表情は、年齢を超えた“青春”のまぶしさを感じさせました。
推し活は、ただ楽しいだけではなかった。人間関係に疲れ、疑似恋愛のような高揚に戸惑い、苦しい時期もあったといいます。それでも彼女は、推しを通じて自分の人生を取り戻していきました。
無趣味だった私が、56歳で「追いかけたい人」に出会った
ここ5年くらい、推し活に夢中です。私は首都圏に住んでいますが、時には関西など遠方まで遠征することもあります。彼に会えることが、一番の楽しみなんです。
もともと私は、ずっと無趣味でした。26歳で結婚して、一男二女の3人の子どもに恵まれましたが、夫はあまり家庭的ではなく、子育てはほぼワンオペ。長男と長女は年子だったので、本当に大変でした。
地方出身なので、親も親戚も近くにいません。義両親もまったく手伝ってくれなかった。もちろん夫にも言い分はあったと思います。6歳年上の夫は、結婚後どんどん仕事が忙しくなっていきました。会社の中枢を担うという自負もあったのでしょう。
「もう少し子どもたちのことを手伝ってほしい」
そう伝えたとき、夫はこう言いました。
「オレは仕事、おまえは家庭。分担しているんだから、自分の役目はきちんと果たしてほしい」
子どもは生きものです。何が起こるかわからず、気を抜けない毎日です。でも夫にとっては、仕事もまた生きるか死ぬかの大勝負だったのでしょう。 この人とはわかり合えない。そう思いました。
だから私は、家事と育児を黙々とこなすしかなかったんです。
家庭の中で、夫だけが少しずつ遠くなっていった
もちろん、子どもはかわいい存在でした。末の次女が生まれた頃には長男は6歳で、子どもたちも少しずつ家のことを手伝ってくれるようになりました。
そうしているうちに、家庭の中には私と子どもたちの世界ができていったんです。夫は、そこに入りづらさを感じていたのかもしれません。
今思えば、夫との距離がはっきり開き始めたのは、3人目の妊娠がわかった頃だった気がします。夫は「産むのか」と、あまり乗り気ではない様子でした。子どもは2人でいいと思っていたのに、「できちゃったのか」と言いたげで……。精神的には、そのあたりから夫と距離を置いていたのだと思います。
とはいえ、夫にも長所はありました。週末は自分の趣味を優先し、家庭を顧みないところはあっても、子どもたちのためのお金は惜しまなかった。習い事をしたいと言えば、何でもやらせてくれたんです。続かなくても、「いいんだ、何でも挑戦することが大事なんだから」と言う人でした。
その器の大きさがあったから、結婚生活も続いたのでしょう。もし子どものための出費まで渋る人だったら、私はとっくに家を出ていたかもしれません。
長男は今年30歳、長女は29歳、次女は24歳になりました。みんな立派な大人です。でも、まだ誰も結婚していません。私たち夫婦のありようを見て、いろいろ思うところがあったのかもしれませんね。
今、一緒に暮らしているのは次女だけ。でも付き合っている人がいるようで、毎日帰ってくるわけではありません。それぞれの人生だから、それぞれが幸せになってくれたらいいなと思っています。
推しとの出会いは、娘の「好き」から始まった
私が推しの声優・Mさんを知ったのは、次女の影響でした。次女は中学生くらいから漫画やアニメにはまっていて、最初は私も「アニメより勉強しなさい」なんて言っていたんです。でも、好きなことを話すときの次女って、本当にキラキラしていたんですよね。
それで、一緒にイベントなどへ行くようになりました。次女が高校生になってからも、一緒に楽しんでいましたし、私自身も自分から情報を探すようになって、アニメや声優さんの奥深さに少しずつ引き込まれていきました。
ところが、高校3年生になったとたん、次女は「目標ができたから大学に行く」と言い出したんです。それまでは専門学校に進んでアニメを作る側になると言っていたのに、まったく違う道を選びました。私はそのタイミングで、一度アニメから離れました。
次女が大学に合格して、楽しそうに学生生活を送っているのを見たとき、私のほうから「また推し活しない?」と聞いてみたことがあります。でも次女は、「私はもういいや。お母さん、一人で楽しんでくれば?」と言いました。
でも、そのときの私は、なんとなく一人では行けなかったんです。
コロナ禍と更年期。どん底で見つけた“生で会いたい人”
その後、パート先でたまたまそんな話をしていたら、「知り合いにもいるわよ。最初は子どもがはまって、それに付き合っていたら自分がハマっちゃった人。一人であちこち行ったり、グッズを買ったりしてるみたい」と聞いて、そうか、私も一人でイベントに行ってみようかな、と思ったんです。
ところが、その矢先にコロナ禍になりました。パートも一時は自宅待機。夫は家ではできない仕事だから出社していましたし、1年ほどで子どもたちも少しずつ元の生活に戻っていきましたが、私はなかなか気持ちが上がりませんでした。
コロナ疲れもあったし、今思えば更年期が一番つらい時期でもありました。体調も気持ちも、どん底でしたね。
家にいて、パソコンでいろいろなアニメを見たり、アニメソングを検索したりしていたときに見つけたのがMさんです。声優としての彼も素敵だけれど、歌手としての彼がまたよくて。
「この人を生で見たい。生で聴きたい」そう本気で思いました。
SNSで仲間ができ、人生初のライブへ
Mさんのファンが集まるSNSグループに参加しました。最初は見ているだけでしたが、「新参者ですが」とコメントをつけたら、返事をくれる人がいて。それが本当にうれしかったですね。
同じファンとして語り合うことが、こんなに楽しいなんて思わなかった。パソコンの前に4時間も座っていたことがあるくらいです。
彼のファンのことを、みんな「M友」と呼んでいました。そのM友さんたちとサイト上で仲良くなった頃、彼のライブがあると教えてもらって、すぐにチケットを予約しました。仲良くしてくれている2人の女性と連絡を取り合い、一緒に行くことになったんです。
昔、好きな歌手のコンサートに行ったことはありましたが「ライブ」は初めて。どんな場所なのか、客層はどうなのかもわからなくて、緊張しました。
でも友達がいたから安心できました。
1週間前からもう興奮して眠れなくて。そんなこと、生まれて初めてでした。恋愛に近いようなドキドキ、ワクワクでしたね。
その話を次女にしたら、「お父さんとの恋愛時代はドキドキしなかったの?」と笑われたんです。
結婚では得られなかった「女として大事にされる感覚」
そう言われて、ふと考えました。私は夫と、ちゃんと恋愛したのだろうか、と。
会社の先輩後輩という関係がそのまま交際に発展して、結婚生活になった。だから逆らえないところもあったし、私の中には「男を立てなければ」という古い価値観もありました。
でも、その“報酬”は子ども以外、何もなかった気がするんです。私は女として夫に愛された感覚がないし、大事にされていると思えたことも、あまりありませんでした。
だからこそ、ライブで感じた高揚は特別だったのかもしれません。
Mさんの生歌に癒やされました。いや、癒やし以上に、興奮しました。最後にはハイタッチ会があって、前後にいたネットで知り合った友人が「この人、カナコさんっていって、今日初めてMさんのライブに来たんです」と紹介してくれたんです。
Mさんは「そうなんですか? ありがとうございます」と、とても感じよく返してくれて。ハイタッチしたとき、手の温かさが伝わってきて、クラクラしました。
もう…完全にハマりました!




