50代・大手百貨店から中小企業の何でも屋に転職して
2022.03.312023年06月02日
定年前を見据えて仕事を辞めるのは、得策ではない?
転職で悩む50代正社員女性のためのキャリア戦略
仕事をずっと続けてきた50代の女性の中には「今の仕事でいいの?」と悩んだ経験があるかもしれません。10年後に後悔しない、充実した職業人生を送るためにはどのような選択肢があるのでしょうか。
50代女性が「転職」を考える前にすべきこと
新卒で入社し、男性と肩を並べて働き続けてきた50代の女性は、組織の中で不条理な思いを抱えながらも、なんとか折り合いをつけて働いてきた方が多いのではないでしょうか。
また、同じ会社でずっと一般事務として働いてきた場合は、後輩から頼られる指導社員のようなポジションに就きながらも、キャリアの行き詰まりを感じている女性も少なくないようです。
そんな50代の女性の中には「人生100年時代、50代のうちに新たな一歩を踏み出したい」と感じている方もいるかもしれません。
50代の女性が転職について考えたとき、どんな準備をしておくべきなのか、『50歳からの逆転キャリア戦略』『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(共にPHPビジネス新書刊)など、多数の著書があり、400社以上で人材育成・研修を行う株式会社FeelWorks代表取締役の前川孝雄さんにお話を伺いました。
「50代、キャリア女性」の転職市場の今
私が見てきた、総合職として働き続けてきた50代の女性は、総じてものすごく優秀です。男性優位の日本企業の中で、同年代で高い役職についている男性よりも仕事ができるケースも珍しくありません。
しかし、50代の女性が「これまでの経験を生かせる良い条件の職場」に転職をしたいと思っても、非常に厳しい現実が待っています。
転職市場、特に公募での転職は依然厳しい状況は続いています。ハローワークやインターネットの転職サイトなど、広く公開されている求人情報の中からこれまでと同様の条件での求人を見つけても、現実は年齢を理由に書類選考の時点で落とされてしまうケースがほとんどでしょう。
バブル入社世代がぶち当たる現実
また、大量採用入社が行われていたバブル入社世代が50代半ばとなり、大企業では早期・希望退職募集を募るなどリストラの動きは強まっています。その背景には、事業構造やビジネスモデルの変更が求められる時代に入り、環境が求めるスキルと、50代が続けてきたこれまでの働き方がアンマッチになってきていることがあります。
これまでの日本の大手企業は、いわば「メンバーシップ型雇用」でした。新卒入社したあとは、自分のキャリア形成を考えなくても、社内のジョブローテーションを繰り返すことでステップアップして昇進するパターンがほとんどでしょう。しかし転職市場では、個人のスキルが求められる「ジョブ型雇用」がメインです。特に即戦力を求められる中高年人材はそこを考えたいところです。
働く目的は何か、まず見つめ直すことから
先にお伝えしたように企業によっては、職位と給与が高い50代男性を人員整理の対象にしているケースもあるほどです。また20年以上同じ会社で働いてきた人の場合、知人から誘われるリファラル採用か、ヘッドハンティングなど引き抜きを受けるキャリアがなければ、転職してさらに高い給料を目指すのはほぼ難しいでしょう。
準備不足の状態で衝動的に会社を辞めてしまう前に、働く目的を見つめ直し、その後のキャリアプランについて綿密に計画を立てておく必要があります。
国の政策は、長く働くことを推進
政策では、2021年に高年齢者雇用安定法が再改正となり、「70歳までの就業確保」が努力義務化されました。定年延長の期限が65歳から70歳までさらに延長されたこと等に加え、雇用の枠組みを越え、個人事業主等として業務委託契約を結ぶことも選択肢に入るという大きな変化がありました。
年齢が上がるほど転職は厳しく、60代以降のシニア独立も視野に入ってきています。私も『50歳からの幸せな独立戦略』(PHPビジネス新書)を書きましたが、東京都などの自治体でも、シニア独立を支援する動きが出てきています。
50代女性に考えられる転職の選択肢は3つ
現状で考えられる選択肢は以下の3つ。
- これまでの経験を活かした転職
- 転職せずに仕事や私生活を充実させる工夫をする
- 働きがい重視にシフトした転職や独立
それぞれの選択肢の準備方法や心構えを解説していきます。
これまでの経験を活かした転職をする場合
転職したいと職を探すときに、求人サイトやハローワークを見るのも一つの手ですが、転職を希望するなら以下の3つを利用してみましょう。そして、「どんな求人があって、自分の年齢・スキルで働ける仕事はどんなものがあるか?」という点を分析して挑みましょう。
【人材紹介会社】
求人を出している企業と求職中の人をマッチングする会社。キャリアカウンセラーと相談しながら、自分に向いている仕事や転職マーケットについて知ることができる。インターネットには公開されていない求人情報を紹介してもらえることも。市場価値のある専門性の高いスキルを持っている場合には好条件の職が見つかる可能性も。
【知人の紹介】
「リファラル採用」と呼ばれ、会社で働く社員が紹介した人を採用する方法。SNSの浸透もあり個人のネットワークが活用しやすくなってきている。社員の紹介であれば信頼もできる上、採用コストも抑えられるので、積極活用している会社も増えつつある。
【企業内ホームページ】
志望する企業や団体のホームページの中に「採用情報」のページを設けている場合がある。求人サイトに求人情報を掲載するためにはコストがかかるため、人材募集をしていてもそれを公にしていないケースも多くある。意中の会社があるなら調べてみるべき。
まれに「高い職位」「高い給与」の転職が実現するケースもあります。その多くは「紹介」や「引き抜き」というプロセスを経ています。
例えば、かつての上司が転職先で、出世していたとします。何かの機会に会って「最近、転職を考えている」と伝えたときに「うちの会社にぜひ来てほしい」「紹介するよ」といった形で、もともとあった縁から仕事が広がるケースがあります。
まるで夢物語のようですが、実は、学術的には理にかなっており、「『ウィーク・タイズ』(弱い結びつき)が新しいキャリアをもたらす」という趣旨の社会学の論文も発表されています。
新しいキャリアをもたらすキーパーソンは、同僚や友人などよく会っている人ではなく、「過去にお世話になった人」「昔の友人」「以前、名刺交換をして時候のやり取りをしていた人」など、頻繁には会わないけれど、細く長く関係が続いている関係性なのです。
億劫に思わず、人の集まりに顔を出しておくことも、時には大切です。そして、「転職を考えている」ということを積極的に発信していくことで、巡り巡って意外なところから声が掛かることもあるでしょう。
転職せずに仕事や私生活を充実させる場合
先に申し上げた通り、50代の転職市場は非常に厳しいものです。大手企業に勤めていて普通に転職すれば、年収が激減する可能性があります。正社員から非正規雇用、フリーランスになったらもっと下がってしまう場合もあります。
同じ企業で30年以上働いているのであれば、きっとそれなりの収入を得られているでしょう。大手企業であれば、手厚い福利厚生もあるでしょう。仮に辞めてしまってから「実は会社での自分は恵まれていた」ということに気付いた例は数えきれないほど見てきました。
今は、仕事に働きがいを見出せていなくても「ワーク・ライフ・バランス」を充実すべく、社内外でさまざまな新しいことに挑戦していくことは、トータルで見た生活の満足度を上げることにつながります。また、新たな自分を発見するきっかけをもたらしてくれるかもしれません。
また、最近では働き方改革の一環で副業を解禁する企業が増えつつあります。副業で「やりたい」と思っていたことにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
働きがい重視にシフトして、転職する場合
50代で転職を考える理由はいろいろあるかと思いますが、「収入が減ってもいいから、もっと働きがいのある仕事をしてみたい」という女性もいると思います。
正社員としてずっと働き続けてきたのであれば、ある程度の蓄財があるでしょうし、30年以上働いてきたら、年金の受給資格も得られます。そのため、キャリアのブランク期間が長い女性と比べて、働きがいを重視して仕事を探しやすくなるようです。
そもそも、働く目的にはお金だけではなく、自己実現や社会とのつながり確保、社会貢献など、さまざまな動機があります。
「キャリアに悔いを残したくない」と考えるのであれば、家族との話し合いをへて、中長期的なマネープランを立ててから、「本当にやってみたい仕事」に目を向けてみてもいいかもしれません。
50歳女性のキャリア戦略の練り方は?
2019年11月に出版した『50歳からの逆転キャリア戦略』は、ミドル世代の男性向けに書いた本ですが、女性からの反響も少なくありません。「役職定年を目前に悩んでいた時に光が見えた」「もう一度、新しい人生に挑戦しようという気にさせてくれた」「もやもやとした気持ちに一筋の光が差し込んだ」「50歳からでも意外と面白いことができそうという気になってくる」など、キャリアに悩む読者から大きな反響が続いています。第一作の声に応えるべく、2020年10月には第二作『50歳からの幸せな独立戦略』、2021年11月には第三作『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』という続編も出版しました。
これらのシリーズを通じて、私は一貫して人生のハンドルを自分で握る「キャリア自律」の重要性を説明しましたが、男女問わず、これまでずっと働き続けてきた人にいえることだと思います。
働き方を変える7つの質問
第一作の中では、働き方を変える「7つの質問」を記しましたので、ここでもご紹介します。
- ・自分の人生があと1年だとしたら何をやりたいですか?
- ・なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
- ・やりたいことができない本当の理由は何ですか?
- ・名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
- ・会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
- ・その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
- ・今のうちに何から始めますか?
ミドルからシニアへと向かう過程で充実した職業人生を送るために、「やりたいこと」と「できること」を客観的に見つめ、「自分の人生をどうしたいか」という点を考えることはとても大切なことです。
これまでの経験に自信を持って、積み重ねてきたことの価値にも目を向けていくと、キャリアの選択肢が広がり、働く楽しさを再認識することに近づいていくのではないでしょうか。
前川孝雄(まえかわ・たかお)さんのプロフィール
(株)FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師
1966 年、兵庫県明石市生まれ。 (株)リクルートで『リクナビ』『就職ジャーナル』『ケイコとマナブ』などの編集長を務めたのち、2008 年に(株)FeelWorks 設立。「上司力®研修」「50 代からの働き方研修」などで 400 社以上を支援。2017 年に(株)働きがい創造研究所設立。一般社団法人企業研究会 研究協力委員、一般社団法人ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。
著書は、累計4万部のヒットとなっている『50歳からの逆転キャリア戦略』『50歳からの幸せな独立戦略』『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(共にPHPビジネス新書刊)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)など35冊。連載やコメンテーター、講演活動も多数。キャリア・働き方・人材育成のヒントを発信中!「前川孝雄のはたらく論」
取材・文=北川和子
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■前川孝雄さんの著書はこちら
50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方 (PHPビジネス新書)
『50歳からの幸せな独立戦略』(PHPビジネス新書刊)
『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHPビジネス新書刊)