「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302023年01月19日
山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第5回
「100字エッセー」第8期参加者の作品
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催中のエッセー講座。今回参加者は100文字以内のエッセーを5つ書く「5本ノック」に取り組みました。1人1作ずつ、ご紹介します。100字エッセーの文章世界を山本さんが語る講評も、ぜひご覧ください。
100字エッセー
※敬称略、50音順です。
浅井京子
義足をつけた犬に会う。ケガか病気によるものか、「頑張って」と声をかけると、「は~い」と答える飼い主さん。
愛くるしい目と飼い主の笑顔。重苦しい日が続いていた私の心に風。励まされる。
雨宮和代
布団にもぐる。
肩も首も、すっぽり埋まって、ぬくぬくとするのが、心地よくなる朝。
起きようとして足を動かすと、カサっと、音がする。
かかとをさわると、底辺ラインが、けばけばしてる。すねのあたりが痒い。
磯野昌子
都電で通っていた小学2年の頃、定期券を忘れて、どうしよう、何て言えば……胸はドキドキ、車掌の顔が見られない。
降りる駅が近づく。「……忘れた……」と言うと「いいよ、いいよ」と。
なーんだとホッとする私。
海瀬和美
雑誌の付録に付いてきた「ラディッシュ」と「リーフレタス」の種を蒔いてみた。
野菜作りは初挑戦。コンテナで日々大きくなっていく様子を見るのは楽しい。
水やりをしながら、食べ頃をうかがう。
大嶋きこ
雲ひとつない澄み渡る11月の空。
20階から見下ろすスクランブル交差点とコカ・コーラのCMが流れる巨大スクリーン。
代々木公園の色とりどりの木々と新宿の高層ビル。
アーバンライフを少しだけかじってみる。
大竹昌子
どうして、転倒したか? 気がついたら、地面におでこをぶつけていた。
かさ張る雑貨をトランクに詰め込み、次は食料品と思った途端車止めにつまずき、一瞬飛んだ。メガネも飛んだ。
リュックなのに手が出なかった。
甲斐てい子
5月から筋トレに励んでいるが体脂肪の数値は微増中。
冬に向かって脂肪を蓄えるのは動物として当然、とのこと。
まずは1年、春夏秋冬、体の様子をみてみよう。
秋に植える球根のように楽しみながら変化を観察しよう。
木下富美子
★クレヨンの青短くて原爆忌:お盆に遊びに来た孫のクレヨンの箱を見ると青色と緑色がぐんと短い。
いつも木や草の緑をいっぱいにどこまでもすんだ青空の見える国にしていかなければ。
きれいな水がいつも飲める国に。
車屋王和
園芸屋さんに出掛ける。
白地に淡いピンク色を霧吹きで、フッーと吹きかけたかのような品の良い純真なバラに出合った。
思わず、こんな清らかな心で毎日生きたいと思った。
「私を連れて行って」と声が聞こえた。ハイ喜んで。
小坂美千代
季節は秋。まっ赤でつやつやのトウガラシをいただいた。
夏の猛暑に天をつくほど上を向いて育ち、辛く成長したことだろう。
形のよいニンニクと一緒に小皿にのせしばし鑑賞。
冬には鍋に入って、私の体を温めておくれ。
佐々千紗子
風を切って雄大な自然の中を、進む黒部のトロッコ列車。
ずっと乗ってみたいと夢みていた。今回、同僚とこれをかなえた。
人の力ってすごいな、まさに一念岩をも通すだ。
おまけに秘湯も体験。
遠くの人に、裸を忘れ立って手を振り伊豆の踊子。
佐々木はとみ
カリンバという楽器を9月に初めて知り、ユーチューブで演奏を聴いてみると、オルゴールのような優しい音色。魅了される。
20センチ弱四方で手軽な楽器、お値段も手頃で、思わずポチり、練習しています。難しいー。
島戸菅子
連休を利用して、娘と関西の旅に出た。
長く離れていても、古都の街並みは、懐しく美しい。
地図を手に北山の古い道路をさがしさがし、古い寺々を、まわってみた。
これは冒険。
説田文子
仕事の愚痴は、鯵の小骨。違和感を飲み込むと喉に刺さりそう。
グワーッと吐き出したい気分。
でも、そう目くじらを立てなくてもいいじゃない。
仕事は、自分の一部分として眺めよう。人もやり方も、そのうち馴染むさ。
高木佳世子
背番号が大きな背中でピンとしている。
ユニフォームのパンツのラインはきっぱりと一直線だ。
大地をふみしめているのに、天からも愛されて伸びゆくようにも見える。
村上宗隆選手の立ち姿に光が集まる。
たかはしよしこ
豪快に夏ビールを楽しむ夫の弟妹。皆飲兵衛なのだ。
昨夏、夫の基礎疾患の血液の数値低下、主治医から治療を提案された。
高齢と治療の副作用に弟は「天命を待つ」と自説を述べた。
「天命か」と応じる夫。
高山美年子
テレビを見ていると、意味の分からない言葉が出てくる。夫は私に意味を尋ねる。
スマホで検索して説明。なるほど。二人で納得する。
私はあなたの秘書ですか!と思うこともあるが、そんな時間を大切にしたいと思う。
竹内さやか
若い頃、街の器(うつわ)やさんで切子の杯に一目惚れした。
高価なので毎月ひとつずつ買い5色揃えた。
得意気に母にみせると、素敵!欲しいという。
また5ヶ月かけて切子を買った。
母が亡くなり、今10個の切子は私の元にある。
竹野美津江
湯たんぽのお湯を沸かすのに時間がかかるので、この冬は、電気式湯たんぽのモモンガと梟を仕入れて、早速使ってみた。
ぬるい。熱湯のあつあつポカポカとは違い、思わず、梟を抱きしめて眠った。
朝まで温めてね。
夛田せい子
夏咲の一年草は原産地の気候が近い夏の終りから霜が下りるまでが一番あざやかだと、短大の授業できいた。
そのとおり、今茎をのばして次々と咲く。
マリーゴールド。インパチェンス。トレニア。日々草。あざやかな庭。
富山芳子
冬雪国で晴天になると、家の外で音がする。
屋根の雪が融けて軒下に落ちる音。
朝ゆっくりと「ポトーリ」だった音は気温があがるにつれ「ポト、ポト、ポト」と忙しない音になる。
やがてこの音がしなくなると、春の到来。
中澤紀子
今年も電話がきた。
「〇〇小学校の音楽担当ですけれど今年も4年生3クラスお願い出来ますでしょうか」
「やりましょう。やりましょう」
体育館に箏を一面ずつ並べ「さくら」の曲を45分内に全員が弾けるようにする。
中村今日子
コロナ禍で、50代60代の頃に読んだ婦人誌の整理が出来た。
C・W・ニコル著『魂のレッスン』が、心を病んだ私に豊かな自然、人とのふれあいが欲しいと思わせた。
孫と豊かな時間を持ちたいという願いになった。
八角りえ子
母を連れて行った眼科で隣りに座った女性が、私の服をほめてくれた。
私がにっこりすると、彼女は話し続けた。
「昨日主人の13回忌だったの。私も早くあっちへ行きたい。
友だちは皆孫に無中でしょ。嫌になっちゃう」
濱谷美恵子
私は、海のそばで育った。
幼稚園までは、まっ黒になって砂浜で遊んでいた。
その当時の写真はシミーズ姿ばかり。
妹からは服がなかったみたいだと笑われた。
河口ではしじみも取った。従兄弟たちと夏休には泳いだ。
平木智子
朝マンションの入口で犬をつれて帰宅した5階の男性と出会った。
犬が私に吠えるとその人は犬を叩いた。
「あ、ぶたないで、I love you.と言ったかも、ね?」
犬にほゝえむと、うっとりと私を見上げた。
当たっていたようだ。
藤田圭子
息子が休暇で帰ってきた。
10日間、家にはほとんど居なかったがそれでも洗濯ものはいつもの倍以上。
部屋も何となく散らかるし汚れる。
普段のんびり一人暮らしを満喫している身としては、息子は来て良し、帰って良し。
宮澤睦子
食べ終わったアボカドの種を、植えてみた。
小さな芽はでたが、それから一向に伸びてこない。心配になり、毎日話しかけることにした。
あれから半年、アボカドは50センチに伸びて、大きな葉を風に揺らしている。
村松多美子
「いいんですか?」短く髪を切った。
首と肩を痛めてシャンプーするのがしんどくなったからだ。
年々大きくなる頬のシミをボブで隠していたが、潔く丸見えでゆく。
「似合ってます!」ゆれるイヤリングしちゃおう。
山川里美
本棚の片隅に『じごくのそうべえ』を発見。
寝かしつけに読んだ絵本。
とざいとうざいと始まり……。やがて川の字真ん中の私は眠りの中へ。
最後まで読み終えたことは何度あっただろう。
子どもたちに訊いてみようか。
山田にら
盗んだ三輪車で街を走っている途中、泥水まみれの赤いル・クルーゼを拾った。
刑事(デカ)のような黒いランドセルを背負った小学生が捜査に来た。
奥でキンプリの平野紫耀くんが何か話している。
誰かこの夢の意味を教えて。
山本ふみこさんからひとこと
「100字エッセー」、いかがでしたか。わたしからも、100字エッセーを贈ります。
〈作品〉がひとつ生まれる。これを10人が読むと、10の〈作品〉があらわれる。こうして〈作品〉の世界はひろがってゆく。が、いちばん大事なのは、見えない存在に読んでもらうこと。書くめあてとは、それだと思う。(100字)
山本ふみこ
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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