「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302020年12月18日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3回
エッセー作品「沈む大地」西家まり子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「変わる」です。西家(さいけ)まり子さんの作品「沈む大地」と山本さんの講評です。
沈む大地
何年か前に北海道の知床から根室にかけて、ダンナとツアーに参加した。北海道には何度か来ているが、このあたりに二人して出かけて来るのは新婚旅行以来だ。あの日、レンタカーで知床五湖に着いたのは夕暮れ時で、売店はすでに閉まっており、「熊に注意」の看板に驚き、熊よけにしきりにしゃべりながら、ほとんど駆け足で最初の「一湖」と次の「二湖」だけを見て大急ぎで戻ったっけ。二度目の知床五湖はフィールドハウスができ、木の歩道が整備されて、格段に歩きやすくなっていた。
次の日、尾岱沼のトドワラを見て驚いた。40年前、恐竜の骨のような姿を見せて立ち枯れていたトド松。自然が作り出した不思議な景色、ずっとそのまま残されていると思っていた。が、目の前のトド松の原が海水に侵食され大地に、いや海に還っていく姿を見せていた。時間をかけてできた自然界の風景だから、変わらないと思うのは間違いだ。どんなに変わらないように見えても、少しずつ変化し、風化してゆく。人の営みが街並みを変えていくスピードが早いのに比べるから、自然の変化が見えないだけなのだ。妙に納得して北海道を後にした。
残暑の昼下がり、郵便局からの帰り、久し振りに通った道。あれ、ここにあった材木屋さんがなくなって更地になっている。息子の同級生の家だった。
ここに新しい建物が出来れば、そのうちに前のことは忘れてしまって、もう何があったのか思い出せなくなる。でも、今日は少しだけ抗って、覚えていよう。ここに材木屋さんがあったこと。お正月には材木におめでたい絵が描かれて、道行く人を楽しませたこと。
山本ふみこさんからひとこと
変化について、うつろいについて、2題から構成された作品です。
「トドワラ」というのは、北海道東部の野付半島(根室振興局野付郡別海町)に見られる、湿地に立ち枯れたトドマツがならぶ幻想的な風景。いつか海水に浸食され尽くし、なくなってゆく風景です。
こうした自然界のうつろいと、家の近所の移り変わりをならべ、「変化」について描く「西家まり子」の作品を静かにおたのしみください。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在、雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで2021年2月から始まる第2期の参加者を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
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