「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年12月25日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第7期第3回
エッセー作品「算数」傳田啓子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「でも」です。傳田啓子さんの作品「算数」と山本さんの講評です。
算数
一人子のせいか、暗くなると囲炉裏で煮炊きする母のそばに居ることが日常となっていた。
当時はテレビもなく、パチパチという火の燃える音や、鉄びんのシューシューという音だけの空間の中では、おとなしく宿題をすることも、一人遊びのうちだった。
宿題といえば、100メートルだか1000メートルの間に、10メートルおきに木を植えるには、何本の木が必要かという宿題の算数問題に手こずっていた。
距離を10で割った数字より1本余分に必要だということが理解できないでいたのである。
勉強しろと言われたことはないし、
「勉強は、学校で先生によーく教わってこねえと、うちじゃ、誰も、勉強のことはわからねえど。」
と言われていたので、困っても聞くということはなく、問題をこねくりまわしていた。
さすがに見かねたのか、母が、言う。
「絵に描いてみればいいだねか。」
そこで、1本ずつ木を植えたら間をあけ、を繰り返し描いてみた。
すると、どんな距離でも、必ず1本、割り算の数字より多かった。
理由はわからないまでも、目で絵を見ることで、答えを確信できたのである。
これで困ったら、ひとつひとつ地道にやってみるという習慣を身につけた。
就職試験の適性問題では、ひたすら手作業で回答を見つけ出した。
試験のあと、まわりにあの数列の問題は……と答え合わせをし、「合ってた!」と喜ぶ姿があり、それを横目に、数列の問題はパスしていた私は落胆したが、意外や、それでも私は合格したのである。
「この中に三角はいくつあるか」という問題に命をかけて、紙の空白部分に必死に描いた絵から導き出した答えが、功を奏したのだろうか。
レジで小銭の計算でもたつくことがあるものだから、インド式計算を修得して、すばやい計算をしてみたいとか考えてもみるが……。
そんな私がナンプレにはまっていると言って、信じる人はいるだろうか。
ナンプレとは数独。3×3のブロックに区切られた9×9の正方形の枠内に1~9までの数字を入れるペンシルパズルである。
コロナ禍での夫の手術時、一人待機の時間つぶしと、気持を紛らわすためにはじめたのだが、数字に惑わされ、思わず集中し過ぎ、気がついたら手術が終わっていた。
その後は、当然のように、消しゴム付きの鉛筆を片手に、数字で枠を埋める作業にのめり込んでいる。
山本ふみこさんからひとこと
こうして啓子さんは、いろいろなことを身につけてこられたんだ、ものにしてこられたんだ、と思いました。
構成も確かですが、何よりお母さまの台詞が素敵です。
その場の雰囲気を伝え、事柄を説明するのに、台詞を用いるとは、こういうことです。拍手いたします。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■