「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年12月25日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第7期第3回
エッセー作品「レンタルドレス」木村明子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「でも」です。木村明子さんの作品「レンタルドレス」と山本さんの講評です。
レンタルドレス
10月の半ば、娘が友人の結婚式に出席することになった。今まで親戚の結婚式はあったが、自分の友人の結婚式は初めてだったからとても楽しみにしていた。当日は受付を頼まれたらしく、何を着ていこうかとずいぶん悩んでいた。
友人と娘は5歳からの付き合いだ。勝ち気なところのある彼女に振り回される姿を心配して見つめてきたが、いつしか対等に言い合える親友となっていた。
8月の終わり、あるチラシが入った。近くのモールにパーティードレスのレンタルショップがオープンするらしい。来店予約をしてワクワクしながら待った。
予約の2日前、夕方のニュースでそのお店が紹介されているのを見た。問合せが続々と入っているようで大盛況だった。
予約の日、混みあう店内で娘とさまざまなドレスを手に取り、鏡の前で店員さんと相談しながら悩み、選んだ。どのドレスもレースがふんだんに使ってあり、繊細でかわいい。その中でデコルテラインにきれいな刺繍がたっぷり入った深緑色のロングドレスを選んだ。緑は娘の大好きな色だ。よく似合っている。そしてネックレス、バッグ、靴と全てがセットだ。一式が揃った。ずいぶん手軽になったものだ。
さて結婚式の日。まず駅前の美容院へ向かい、髪をセットしてもらう。私は犬の散歩をしながら、美容院まで見送った。
受付が始まった。係員から説明を受けて行っていると、ふと目に留まる女性がいた。向こうも気づいたようだ。なんと2人は全く同じドレスを着ていたのだ。色、デザイン、そして、アクセサリー、バッグ、靴まで丸かぶりだった。そこで娘は「やばい!」と思いながらも、その気持ちを振り切った。「もしかして■■区のモールの新しいお店でレンタルされました? 一緒ですね。」そっと女性に話しかけた。
「このドレス人気なんですねえ。」と同じドレスを選んだことをお互い褒め合った。まさか、ここで上から下までまるっきり同じ人がいるなんて冷や汗ものの展開だ。
でも、案外周りの人は気づかなかったそうだ。同じドレスでも髪形やその人の持つ雰囲気で、全く違った印象を与えるようだ。
結婚式はとてもいいお式で、娘は楽しそうに帰ってきた。そして同じドレスの彼女を含め仲良くなった人たちと、これから二次会をすると言った。しばらくしてレンタルドレスを脱いで身軽になり、笑顔で出かけて行った。
ハプニングがあるほど、思い出は深く刻まれる。
山本ふみこさんからひとこと
まあ、皆さん、ともかく作品を味わってくださいまし。
明子さんのお嬢さまの人柄のよさ、魅力がととととと、と読み手に流れこんでくるようです。
でも、案外周りの人は気づかなかったそうだ。同じドレスでも髪形やその人の持つ雰囲気で、全く違った印象を与えるようだ。
ここを読んだとき、力が抜けました。
こんな感じ方、受けとめ方のできるひとに、会ってみたいとも思ったことです。明子お母さま、どうかお嬢さまの前で、ゆっくりと「レンタルドレス」を音読してさしあげてくださいましな。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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