誰もが生きづらさを抱えない社会への希望が見えた

逃げ恥・若冲、LGBTを自然に描くドラマに見た希望

公開日:2021.01.18

コラムニスト矢部万紀子さんによるカルチャー連載です。「朝ドラ」に関する本も上梓しているドラマウォッチャーな矢部さんの新年1本目のレビュー。正月に放送されたドラマ「逃げ恥」と「ライジング若冲」に希望をもらったと言います。その理由とは。

正月ドラマ「若冲」「逃げ恥」に共通するもの

新年は希望の話から書きます。2021年1月2日の夜、立て続けに二つのドラマを見ました。「ライジング若冲」(NHK)と「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!」(TBS系)。時代劇とラブコメディ、まるでタイプの違うドラマでしたが、そこに希望を見たのです。

共通点がありました。男性同士、女性同士の愛。それが描かれていたのです。「はやりのゲイカップルドラマ?」と思われた方もいるかもですが、違うのです。主題は別にあり、登場人物に同性愛の人がいる。そういうドラマでした。だから素晴らしいし、未来につながる。そう思ったのです。

 

ライジング若冲は、同性の恋心を当たり前にあるものとして描いた


「ライジング若冲」のホームページには、こうあります。「江戸時代の天才絵師・伊藤若冲。謎に包まれた天才の実像を初めて本格的にドラマ化、綿密な時代考証と大胆な仮説に基づき、アートなエンターテインメントとして世に問う問題作」。

ストーリーを詳細に紹介することはしません。若冲(中村七之助)と相国寺の住職・大典(永山瑛太)という二人の関係は、「親友」の範囲にとどまらない。そのことが、出会いの時から描かれます。相国寺には若冲らの作品を収蔵した相国寺承天閣美術館があり、私も10年以上前に行きました。その記憶があって見始めたので、二人の描かれ方にかなり驚きました。

でも、見ているうちに、驚くこと自体がちょっと違うのだな、と思うようになったのです。二人は「愛」を語り合うことはしません。手を握る。肩を抱きしめる。そういう場面は描かれます。絵を介在して感情が高ぶる、一瞬の出来事として描かれるのです。考えてみれば、この表現、男女ではよく使われます。心の奥底にしまっている気持ちが、何かの拍子につい出てしまう。恋愛あるあるです。 

LGBTという言葉が広まっていますよね。Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの頭文字と、私も言えます。ですが、カミングアウトした人は近くにおらず、自分の隣にいる人という実感は薄いのが正直なところです。でも「ライジング若冲」は男女間ではよくある、ある意味ありふれた愛を、男と男で描いています。Gay=当たり前、なのです。

この「当たり前」こそ、希望。次に見た「逃げるは恥だが役に立つ」のスペシャル版で、そう強く確信しました。Lesbianの女性が、さりげなく登場したのです。ヒロインみくり(新垣結衣)の叔母・百合ちゃん(石田ゆり子)が38年ぶりに会った同級生(西田尚美)、看護師長をしている女性でした。

 

2021年も期待通り!社会問題を提起する「逃げ恥」

「逃げ恥」はラブコメテイストの中にさまざまな社会問題を描くことで人気を得たドラマですから、今回も問題意識をきちんと表に出します。

同級生は百合ちゃんに「高校のとき、好きだったんだよねー」と告白します。そして、2度目に会ったとき「もう会ってもらえないかと思ってた」と言います。百合ちゃんは自分への告白を、「愛情、友情、どっちの意味でもうれしいなあって思ったよ」と笑います。同級生はつらかった高校時代を振り返り、「今は自分を認められてる」と明るく語るのです。

LGBTは「性的少数者(セクシャルマイノリティ)」と言われます。でも、確かにいるのです。マイナーだから、メジャーじゃないから、苦しい立場に置かれがちです。一方で、そのまま受け止める人も確かにいる。少数な人と、受け止める人。問題と解決とまでは言いませんが、大切な方向を見た気がしました。

今回の逃げ恥は、みくりの出産がテーマでした。平匡(星野源)とは事実婚でしたが、妊娠を機に婚姻届を出し、二人で育児休暇をとります。「全く進まない選択的夫婦別姓」「育児休暇を取る男性への目線」などなど、たくさんの問題が指摘されていました。相変わらず、楽しく鋭いドラマでした。

 

性自認の問題も、さらりとひと言で伝えた

LGBTQ

もう一つ感心したのが、生まれてくる赤ちゃんの名前を決めるシーンです。みくりは「男でも女でも通用する名前がいい」と提案します。平匡は「生きていく上で、性別が変わる場合もありますからね」と返します。

性自認の問題です。LGBTにQを加えた「LGBTQ」という言葉も最近、耳にします。「Q」はLGBT以外のセクシャリティがあることを示しています。アンケートの性別欄に「男・女・答えない」とあるのを見かけることも増えました。自分自身をどんな性だと思うか。その考えはいろいろで、心の性別と体の性別が違う人、決まってない人もいる。その考えが広がってきていることを、平匡はひと言で語ったのです。さらりと、当たり前に。

「当たり前」がドラマで描かれ、「当たり前」が広がっていく。その先には、誰もが生きづらさを感じない世界が待っている。そんなことを二つのドラマから感じました。見終わって、心に小さな明かりがともりました。

緊急事態宣言が出され、対象地域が広がっています。そんな時だからこそ、希望をお伝えしたい。そう思った次第です。
 

矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)

イラストレーション=吉田美潮
 

■もっと知りたい■

 

矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

マイページに保存

\ この記事をみんなに伝えよう /

いまあなたにおすすめ

注目の記事 注目の記事