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2023.04.292020年11月30日
ファッションは他人の目でなく自分の目で選ぶ
自由で正直!ドラマ「朝顔」山口智子さんの着こなし力
50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載です。「朝ドラ」に関する本も上梓するドラマウォッチャーの矢部さん。今回は月9ドラマ「監察医 朝顔」で山口智子さん演じる茶子先生の個性的なファッションと老眼鏡に注目します。
フジテレビの気合を感じる月9ドラマ「監察医 朝顔」
「監察医 朝顔」(フジテレビ系、月曜21時〜)というドラマについて書きます。番組ホームページの「イントロダクション」を開くと、こうあります。
日本中から愛されたあの家族が帰ってくる−−法医学者×刑事! 10年ぶり&月9史上初の2クールで遺体の“生きた証”を探す異色の父娘のかけがえのない日々を描き切る2020年最大の感動作!
この文章から、何となくのストーリー、そして何となくではないフジテレビの力の入れようが伝わってくると思います。「朝顔」という名前の監察医を上野樹里さん、父で刑事を時任三郎さん、やはり刑事の夫を風間俊介さんが演じます。東日本大震災を背景にし、シーズン1では傷ついたそれぞれの様子が丁寧に描かれていました。毎回の謎解きも面白く、2を楽しみにしていた一人です。
山口智子さん演じる茶子先生のファッションに注目!
さてここからは、ストーリーではなく、朝顔が勤務する大学の法医学教室の主任教授のファッションのことを書きます。
名前は夏目茶子、茶子先生と呼ばれています。演じているのは山口智子さん。シーズン1でのファッションで最も記憶に残っているのは、グレイのパンツに合わせた赤と白のストライプのシャツでした。横でなく、縦のストライプなのです。似合っていましたが、驚きました。
ピアスも個性的で、毎回食べ物がモチーフだったことに注目したまとめページもウェブ上にはありました。シーズン2は動物のモチーフが多いようです。
茶子先生は、世界を旅するのが趣味。大きな街以外がお好みで、大きなスーツケースと不思議なお土産を抱え、フラリと職場に帰ってきます。だからでしょうか、ファッションは基本、ド派手なのです。
茶子先生は、山口さんを前提にしたキャラクターだと思います。170cmでバランスの良い体形、そして山口さんが醸し出す前向きな空気。それがあっての茶子先生。シーズン2でも、ファッションの基本はド派手です。
3話に登場したシャツのことを描写したいのですが、柄が複雑すぎて書き切れません。ゴーギャンがタヒチで描いた絵を思い出すシャツでした。浜辺に座る女性を描いた赤っぽい絵と、宗教画的な青っぽい絵。そんな感じの柄が、散りばめられたシャツでした。
山口智子さんが老眼鏡で表現しているものとは?
ファッションもすごいのですが、実はシーズン2で私が注目しているのは、老眼鏡とひもです。眼鏡もおしゃれですが、注目はひも。「ひも」っておしゃれでない言葉ですが、もちろんおしゃれ、そして大胆です。
今のところ、2種類のひも&老眼鏡が登場しています。一つ目のひもは、さまざまな色のビーズをつなげたものです。合わせる老眼鏡のフレーム(レンズを囲む部分です)は細い黒か紺、レンズと耳をつなぐ部分(テンプルと呼ぶようです)はマーブルのような柄です。
そして二つ目のひもですが、こちらはもう「老眼鏡を下げるひも」の範疇を超えています。白い球形のものが連なってるのですが、そのサイズがとんでもなく大きいのです。直径3cmはある、いやそれ以上か、画面の向こうに行って測りたい気持ちになります。とにかく大きな玉がつながっていますから、すごく目立ちます。目が釘付けになります。で、ぶら下がっている老眼鏡はというと、こちらはシンプル。白と透明、グリーンと黒で構成されていて、絶妙な組み合わせになっています。
ことほどさようにおしゃれ上級者の茶子先生、というか山口さんです。その着こなし力はどこから来るのかと考えると、正直さと自由さからではないかと思います。
そもそも、ドラマの登場人物が老眼鏡をかけるシーンを見た記憶がほとんどありません。実際に手元が見えなくても演技に支障はないでしょうし、老眼鏡は年齢を表すものですから、一人の俳優とすれば敬遠すべきものなのかもしれません。
でも、茶子先生は違います。書類を見るときは老眼鏡をかけますし、かけないときはぶら下げています。1964年生まれ、56歳の山口さんには、そちらが「リアル」なのでしょう。だからドラマでも、職場のシーンでは老眼鏡を使う。それが必要な年齢だから当然。そうシンプルに考えているように思います。「若さこそ価値」といった、従来型というか古いというか、そういう発想からは自由で、己に正直な人だと感じるのです。
最初の方に「山口さんの前向きな空気」と書きました。それを醸し出しているのも、正直さと自由さだと思います。それがあるから、どんなファッションも似合う。ファッションは他人の目でなく、自分の目で選ぶもの。つくづくそう思わせてくれるのが茶子先生で、山口さんです。
第4話では、茶子先生と親しいような、謎の男性が登場しました。来春まで続くドラマですから、ストーリーもファッションも、ゆっくり楽しもうと思います。
矢部万紀子
1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、11年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)
イラストレーション=吉田美潮
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