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- NO!性差別「フラワーデモ」が世の中を変えつつある
「フラワーデモ」を知っていますか?性暴力に抗議するデモとして2019年に始まった活動が47都道府県に広がっています。呼びかけ人の一人、フェミニズムにまつわる本を出版する「エトセトラブックス」の松尾亜紀子さんにその経緯を伺いました。
フェミニズムに関する本を取り扱う専門書店ができました
2021年1月14日、東京都世田谷区に「エトセトラブックス」という名前の書店がオープンしました。フェミニズムに関する本を扱う専門書店です。同じ「エトセトラブックス」という名前の出版社が運営しています。
同社の代表・松尾亜紀子さんは、性暴力事件に抗議する「フラワーデモ」の呼びかけ人の一人です。デモといっても、シュプレヒコールを叫びながら歩く、昔ながら(?)のデモではありません。花、または花柄の何かを持って集まる。そこで話したり、プラカードを持って立ったりする。それが基本のデモです。
松尾さんに会いに書店に行きました。京王井の頭線新代田駅のすぐ近く、天井の高いおしゃれな店です。松尾さんは、「フラワーデモとこの書店には共通する点があると思う」と言っていました。どんなことなのでしょうか。
フラワーデモとは?
まずは、フラワーデモの話からします。2019年4月11日、東京の行幸通りと大阪で開かれたのが始まりで、今では毎月11日、全国各地で開かれています。そもそもは19年3月、性暴力事件の無罪判決が4件続いたことがきっかけでした。「女性が同意していたと男性が勘違いした」「(加害者である父に)逆らうこともできた」といった理由で無罪になり、SNS上では女性たちの怒りの投稿が相次いでいました。
すると、一部の弁護士らから「司法判断に素人が口をはさむな」といった投稿も出始めました。3月23日、松尾さんと作家の北原みのりさんはランチをしました。「専門家」の投稿で怒りの声が小さくなってきているように感じていた二人は、「何かしなくては」という思いから「デモ」をすると決めたのです。
松尾さんと北原さんは、以前から韓国のフェミニズム運動を取材してきました。そこで知ったのが「キャンドルデモ」です。ソウルの光化門広場で毎週土曜日、何万人もの人がキャンドルを手に集まるデモで、政治を動かしてきました。
デモをすると決めたとき、広い光化門広場を意識し、東京駅からまっすぐ伸びる行幸通りがいいと言ったのは北原さん。キャンドルの代わりに、花を持とうと言ったのは松尾さんです。「被害者に寄り添う象徴であるだけでなく、集まる人たちが花を買う、摘むというアクションをする。それが大切だと思いました」。
一夜限りと思っていたフラワーデモは2回、3回と続いた
4月4日にはTwitterのアカウントを作り、場所と時間、「性暴力判決にスタンディングで抗議しましょう」と呼び掛けました。「社会が怒っているということを可視化しなくてはいけないと、いてもたってもいられない気持ちでした。個人的には伊藤詩織さんという性暴力被害者が声を上げたときに連帯できず、一人で闘わせてしまったという悔いもありました」
1週間後の11日、予想を大きく上回る500人もの人が集まりました。あらかじめ依頼していた女性11人がスピーチしました。「会場のみなさんも何かお話しされませんか」という言葉が自然と出ました。
すると、一人の女性が前に出て、自分の性被害について語ったのです。そこから何人もの人が性被害を語り、予定の21時になっても終わりませんでした。
その熱気に、「また集まりましょう」と松尾さんが言いました。すぐに福岡、千葉、名古屋などから「開催したい」という連絡が来ました。毎月11日に開く、名前は「フラワーデモ」。北原さんとそう決めて、松尾さんが「ひとり事務局」を引き受け今に至ります。
フラワーデモについて松尾さんは「被害者」と「支援者」と分けない、議論の場にしない、特定の団体や政党ではなく個人で参加する、ということを当初から意識したと言います。「この国に住んでいる以上、ほとんどの女性が何かしらの性被害に
フラワーデモという運動が確かに広がっていると実感した出来事があるそうです。8月11日、4回目の行幸通りでのデモに群馬県から来た人が参加、自分の性暴力被害を語りました。さらに「地元でフラワーデモを開きたい」とも語り、翌月、高崎で実行したのです。長崎県で育った松尾さんは、人と人とのつながりが強い地方都市でデモをすることの大変さを知っています。ましてや地元で性被害を語るのには、どれだけ勇気がいることか。「すごいことが起きている、そう思いました」。
あっという間に「フラワーデモ」は全国47都道府県に広がった
その年の12月、全国47都道府県でのデモ開催を目標にすると決めました。「一般社団法人Spring」の代表・山本潤さんの「運動には目標が必要」というアドバイスが大きかったと言います。Springは、性被害者が生きやすい社会のために刑法性犯罪改正を目指す、当事者を中心とした団体です。そして3か月もたたない20年3月、47都道府県に運営組織ができたのです。
シニア女性の存在が大きかったそうです。「『うちの県でフラワーデモ、できてないね』と動いてくださった。長年、女性支援に関わっていた方々が既にあった組織を活用し、若い世代ともつながったのです」
前述した性暴力事件ですが、うち3件は20年に逆転有罪判決が出ました。この画期的な判決にフラワーデモの影響もあったと、多くの司法関係者が指摘しています。「フラワーデモは性被害者にとって、社会的交流が果たされる場所となった」とSpringの山本さんは言います。性暴力体験を語っても攻撃されず、聞いてもらえる。愛がある、安心な場所があることが、当事者にはとても大切だと言うのです。
松尾さんもフラワーデモを通じて「場」の大切さを実感したといいます。何か問題が起きたとき、北原さんは「女性たちの作る場所を信じよう」と言うそうです。ネット上では「何も知らない女たちが感情的に騒いでいる」といった言説も拡散されました。それでも女性たちの力を信じることで気にならなくなったり、問題が解決したりする。それが、場を作り、集まり、みんなで進む力。書店もそういう「場」になると思う、と感じているのです。
そもそも19年にフェミニズム専門出版社「エトセトラブックス」を立ち上げた時から、書店を作ろうと考えていました。自社の出版物が伝えることには限りがある。だから他社のフェミニズムの本も、昔の本も集めて並べたい。そう思っていたのです。実現させた今、フラワーデモでシニアと若い世代がつながったように、本を通じて人と人、人とフェミニズムがつながる場所になれると感じるそうです。
フェミニズムは性差別をなくす思想であり、運動
ところで、フェミニズムって何でしょうか。改めて、松尾さんに尋ねてみました。答えは、シンプルでした。「性差別をなくす思想であり、運動です」。
日本はジェンダーギャップ指数世界121位(世界経済フォーラム報告書)と、男女格差の大きい国です。18年、東京医科大が入試で女性を一律に減点していたことが明らかになりました。現在、女性閣僚は2人しかいません。でも、何が性差別かよくわからない。そういう人も少なくないと思います。
松尾さんはこんな話をしてくれました。なぜ家事を自分ばかりがするのだろうと思っても、それは自分の生きづらさであって性差別という構造的な問題だとは思わない。家父長制度を内在化してきたシニア女性にはよくあることです。でも、そこにフェミニズムという視点があれば、見え方が変わってくるというのです。
「うちの書店には、フェミニズムを論ずる専門書だけでなく、小説も漫画も置いてあります。ここにある本なら、フェミニズムのエッセンスがあるのだろう。そう思って読んでいただき、性差別について考えてもらえればいいと思います」
松尾さんのおすすめの本、若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)。「田辺聖子さんの書籍もおすすめです。フェミニズムのエッセンスを感じながら、読んでみてください」
店長の寺島さやかさんがすすめる、フェミニズム入門向け2冊。ベル・フックス著『フェミニズムはみんなのもの: 情熱の政治学』( エトセトラブックス刊)、榛野なな恵作品集『卒業式』(集英社刊)。
日常にある性差別に気付くことから始めよう
最後に、ハルメクWEB読者に伝えたいことはありますか? 松尾さんに尋ねてみました。
「子どもへのプレゼントを選ぶときに、女の子だから人形遊び、男の子だから車と性別で決めてきた方も多いかもしれません。でも『男の子だから』、『女の子だから』という言い方を、今日からNGワードにしてください。そうすることで、『女だから(こうするな、こうしろ)』と言われてきたことの多さに気付くと思います」。
フラワーデモに参加したいと思った方は、「フラワーデモ」とインターネット検索をして公式サイト(https://www.flowerdemo.org/)を見てください。「ALL FLOWERDEMOS」をクリックすると、全国47都道府県の主催者のTwitterにリンクされています。
コロナ禍でYouTubeのライブ配信などオンライン開催も増えています。そちらはいつでも見られます。のぞいてみてください。オンラインも含め、毎月11日には必ず開かれます。あとは花を用意するだけです。
フェミニスト書店「エトセトラブックスBookshop」の住所・営業時間
住所
東京都世田谷区代田4−10−18 ダイタビル1F、京王井の頭線「新代田駅」徒歩2分、小田急線「下北沢駅」徒歩10分、「世田谷代田駅」徒歩8分)
営業時間
木曜、金曜、土曜の12時~20時(営業は週3日のみ)。
■もっと知りたい■
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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