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- 法医解剖医が警鐘!今、女性の死が男性化している!?
日本人女性の平均寿命は87.32歳(2018年)となり、6年連続で過去最高記録を更新し続ける中、自分がどんな死を迎えるのか不安に思ったことはありませんか? 最近「女性の死が変化している」と法医解剖医の西尾元(にしお・はじめ)さんは言います。
法医解剖医とは?
法医解剖医として、兵庫県内の阪神間の6市1町を担当している西尾元さん。法医解剖医というと、あまりなじみがない方もいるかもしれませんが、「科捜研の女」(テレビ朝日)、「アンナチュラル」(TBS)といったテレビドラマを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
西尾さんの元に届くのは、何らかの異常が認められる「異状死した死体」。例えば、自殺したり、一人暮らしで自宅での死後、しばらく発見されず死因がすぐに特定できない場合や、犯罪性や事件性が疑われる場合などに解剖が行われます。ただしテレビドラマとは違い、犯罪捜査目的の解剖(司法解剖)は多くなく、事件性のないものがほとんどです。
西尾さんは、これまで20年以上にわたり、3000体におよぶ死体と向き合ってきました。現在、運ばれてくる死体の71%が男性で、29%が女性。女性の割合は半数以下ですが、西尾さんは最近「女性の死が男性化している」と感じているそう。
社会進出に伴い、男性化する女性の死
「ここへやってくる死体を見ていると、男性の典型的な死に方っていうのがあるんです。大体、50~60代の男性が離婚するなどの理由で結果的に一人暮らしになって、生活が荒れて亡くなるとか。男性に比べると多くはないのですが、女性でも一人暮らしで生活が荒れた中で亡くなっていたり、アルコール依存症になって亡くなっている方も見るようになりました」と西尾さん。
西尾さんの著書『女性の死に方~解剖台から見えてくる「あなたの未来」~』(双葉社刊)では、「休日出勤中の職場で、くも膜下出血によって亡くなっていた女性(45歳)」や「アルコール依存症で、肝硬変による消化管出血となった女性(54歳)」が紹介されています。
くも膜下出血は、脳血管疾患の一つで年間2万人程度の人が発症している病気。すぐに手術したとしても、社会復帰できる人は3分の1、後遺症が残る場合が3分の1、残りの3分の1はそのまま亡くなるとされています。
西尾さんは、他の同僚がいない休日出勤のオフィスでなければ誰かに救ってもらえたかもしれないと言います。また、くも膜下出血を引き起こした要因の一つに、亡くなった方が「高血圧」と健康診断で診断されたにもかかわらず、病院に行っていなかったことも指摘します。
「アルコール依存症で、肝硬変による消化管出血となった女性(54歳)」に関しては、「これまで肝硬変による消化管出血が死因だった方は、圧倒的に男性でした」と振り返る西尾さん。
西尾さんの勤める法医学教室で解剖したアルコール依存症の人の男性の割合は83.9%。その死因は、3分の1が消化管出血などの病気、3分の1は酔って転倒した際などに事故で亡くなるなどの外的要因、残りの3分1は不詳。依存症でなくても、解剖される総数の3割近くが飲酒後に亡くなっているそう。アルコール関連死の多さを感じさせる数字です。
西尾さんは、「これまで男性に多く見られた死に方をする女性は、今後増えるだろう」と予測します。
国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2017年発表)」によると、2015年「生涯未婚率※」は、男性平均は23.37%、女性は14.06%。1990年から比べると、男性は17.8%、女性は9.73%増加しています。※生涯未婚率は、「45~49歳」と「50~54歳」未婚率の平均値から、「50歳時」の未婚率(結婚したことがない人の割合)を算出したもの
「昔のように、女性は結婚が義務だと考えなくなりましたよね。経済的にも豊かになった女性が、1人で仕事して生活し、外食、飲酒習慣が増えるなど独居男性に似た生活様式を取るようになっていく。そうすると、これまで男性に多く見られた死に方をする女性も増えていくでしょうね」
女性の孤独死は今後増えていく
働き盛りの世代の女性が男性的な死を迎えることが目立ち始めた一方で、現在、法医学教室に運び込まれる女性の死体の多くは、高齢者層です。孤独死をして、発見まで日数がたってしまい、死因が特定できない場合。「今後その数はますます増えていくでしょう」と西尾さんは指摘します。
上の表「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(平成30年)」をみると、男性は孤独死をする人が45歳から増加し60代で急激に増えますが、70代以降は減少します。
しかし女性の場合は、孤独死をする人は65歳から増加し続け、80代以降は男性の孤独死数を抜きます。つまり女性は、年を取るほど孤独死する可能性が高くなります。女性は配偶者が亡くなった後も家族と同居せず、自立した一人暮らしをしている人が多くいるからとも考えられます。
また2040年には、一人暮らし世帯は、男性約1022万帯となり2015年比で6.5%増、女性約972万帯となり同10.3%の増加率になると予想されています。(日本の世帯数の将来推計2019年推計 ※国立社会保障・人口問題研究所2019年推計)
「同居者がいる場合は、8割以上が死後24時間以内に発見されますが、ひとり暮らしをしている場合、死後1週間から3か月経ってようやく発見されることが多く、死因がすぐにはわからない異状死体として解剖されることになります」(西尾さん)
いい最期を迎えるまで、いかに楽しく人生を充実させるかが大事
「孤独死」というと、かわいそうとか、つらいといったマイナスイメージを抱く方も多いかもしれません。しかし西尾さんは「『孤独』と『孤独死』は別の問題です。『孤独死』は、良いも悪いも一概には言えない」と言います。
「僕なんかは死体というものに慣れすぎているのかもしれませんが(笑)、そもそも人間の致死率は100%で、いつかはみんな死体になるのは当たり前ですし、たとえ腐乱してしまってもそれは自然現象です。
一人暮らしは気ままですが、その分孤独を抱えるかもしれませんし、倒れてもしばらく見つけてもらえないかもしれませんが、気ままに生活を楽しめた上で亡くなるなら後悔はないでしょう。
一方、誰かと一緒に暮らしていれば一人で倒れて亡くなる危険性は低いですが、結婚して家族との問題を抱えるようになれば、大なり小なりストレスに耐える日々になりますよね?
ストレスを抱えると血圧が上がって、心筋梗塞といった成人病のリスクが高まりますし、介護うつなどメンタル面でも病気になる可能性だってあります。解剖は避けられるかもしれませんが、家族に関するストレスが原因で亡くなった人がどのくらいいるのかは数字で見ることはできないものの、それ相応の数があると思います。
ストレスを抱えながらも家族とともに生きていくのか、それとも気楽に一人で暮らしていくのか、それぞれの生き方で死に方も変わってくるわけです。だから、どっちの生き方がいいのかっていうのは、一概には言えないと思うんですよね」
西尾さんの著書には、「母親の遺体を埋めて年金をもらい続ける息子」や「夫と二人暮らしの自宅で見つかった腐敗が進んだ妻の遺体」「孤独感を抱え、家族に迷惑をかけたくないと自殺した女性」といった、家族と関わる上での女性の死も取り上げられています。
「女性はそもそもコミュニケーション能力が高いですし、上手に人付き合いをしていれば孤独死は心配いらないと思います。とはいえ、80代以降で一人暮らしをしている場合、誰にもわからないまま急に亡くなる可能性は高いです。それが心配なのであれば安否確認の方法を確保しておけばいい」と西尾さんは続けます。
家への医師の往診、訪問介護の利用など行政サービスを利用する方法もありますし、民間の見守りサービスといった、解剖につながるような孤独死を避けるサービスは、現在増えています。
「季節にもよりますが、死体が緑色になって腐るまで3日間はかかります。倒れてから、3日以内に見つかるようにすればいいんです。死体になった自分の姿を想像すると怖いと思うかもしれませんが、自分の意識では自分の姿は見られませんから(笑)。怖がるのではなく、死に至るまでの人生をいかに楽しく充実させていくかを考えればいいと思います」
西尾元(にしお・はじめ)さんのプロフィール
西尾元(にしお・はじめ)さん
1962(昭和37)年、大阪府生まれ。兵庫医科大学法医学講座主任教授。法医解剖医。香川医科大学(現、香川大学医学部)卒業後、同大学院、大阪医科大学法医学教室を経て、2009年より現職。兵庫県内の阪神間の6市1町の法医解剖を担当している。これまでに行った解剖約3000体。年間の解剖数約200体。2017年、『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』(双葉社)を出版。近著に『女性の死に方~解剖台から見えてくる「あなたの未来」~』(双葉社刊)。
取材・文=竹上久恵(ハルメクWEB編集部)
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