「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302022年05月02日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第1回
エッセー作品「窓口からこんにちは」ヌウ恵さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「日曜日」です。ヌウ恵(めぐみ)さんの作品「窓口からこんにちは」と山本さんの講評です。
「窓口からこんにちは」
息子達が育ちざかりのころ、日曜日は毎週グランドにいた。
真っ白い野球のユニフォームを泥だらけにして走り回る我が子を見つめて過ごした。
夏は強い日ざしさらされ、顔がしみだらけになった。冬は服を何枚も重ね着して、それでも足りずにぶるぶる震えながら息子達を見守った。
カキーンと響くバットの音。青空に消えていく白いボール。子供達の歓。それがわたしにとっての日曜日であった。
時は流れ息子達は成人し、わたしは体重が気になる50代になった。
わたしの日曜日は静かに流れていた。録画していた連ドラを見てから散歩に出かけ、野良猫にちょっかいをだしては「シャーーー!」と威嚇されるのがお決まりの日曜日であった。
そして、ふと気付いたのである。長年専業主婦だったわたしは、日曜日も家族の世話をしているつもりだったが、実は家族に構ってもらっていたのではないかと。
夫が単身赴任をし、息子達が巣立ってからというもの、時間を持て余していた。
特に、日曜日になると寂しくてしょうがない。これではいかん……。
わたしは日曜日に何がしたいのだろうか?
かねてから好きだった映画鑑賞や食べ歩きをするのはどうだろう。
トレッキングに挑戦するのもいいな。そんな風に考えていたが、どれもしっくりこない。
わたしが一番したいこと、それは働くことである。
日曜日に働きたいとは矛盾しているようだが、趣味を謳歌するより、わたしは楽しそうな家族連れを見ながら働きたいと思った。
その時、わたしはすでに52歳になっていた。
雇ってくれるところがあるだろうか?でも、決めたら一直線のわたし。
ネットで求人情報を得て、スーツを着て30年ぶりに仕事の面接に臨んだ。
そして幸運にも、宝くじの販売員の仕事を得たのである。
日曜日の昼下がり、わたしは福を求めてくるお客様に笑顔を向ける。
窓口から見る街は、繰り返されるショートムービーのように、小さなドラマが次々起こる。
なかなか楽しい。わたしの日曜日はこの言葉から始まる。
「いらっしゃいませ、こんにちは。今日は何をお求めですか?」
山本ふみこさんからひとこと
実は、このたびの課題「日曜日」への作品の8割が「毎日が日曜日」のお話だったのです。今、私の日常は毎日、日曜日です、という……。この発想は、これからきっと変化してゆくだろうと期待しています。
ところで、「窓口からこんにちは」は、ぐっと前向きです。
日曜日も家族の世話をしているつもりだったが、実は家族にかまってもらっていたのではないか。
という一文に心をつかまれていたら、まだ続きがあるのです。
わたしが一番したいこと、それは働くことである。
参りました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中です。次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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