- ハルメク365トップ
- 連載
- 編集部コラム
- 母の数年ぶりの買い物は、100円均一のポーチだった
面と向かってはなかなか言えない、でも確かに胸の中にある母への感謝や、母への謝罪――。「追伸。」と題し、母とのエピソードをつづります。明確なはずなのに、なぜかいつも難しい、親子の関係。共感してもらえればなによりです。
「3,000円、頼む……」
大学生4年生。就職活動中で「ハルメク」への入社が決まるか決まらないか、そんなときの出来事。
実家は福岡、大学時代は滋賀で過ごしていた。ひとり暮らしということもあり、大学生時代はとにかくお金がなかった。学費は奨学金でまかない、家賃や生活費はアルバイト代でやりくりしていた。ATMから1,000円すら下ろせず、「頼むけん、3,000円入れてくれ……」と、母に泣きの電話をすることもあった。ぶつくさ言われながらも、思った以上の5,000円という大金を手に入れ、もしかしたら、その一部は友とのお酒代に変わった、かもしれない。
裕福と、貧乏。どこからがそれか、線引きは難しい。「上見るな、下見るな」だが、我が家だけの話をすると明らかに、裕福から貧乏へと変わった。
ぼくが15歳、兄が17歳、弟が12歳のときに父が他界した。稼ぎ頭を失い、1,000円にも満たない時給で母は働き始めた。女手ひとつで3人の子を育て上げた。以前の「裕福」など程遠い数年だったはずだ。
「ねぇ、このポーチ、いくらやと思う?」
就職活動の一環で、福岡の実家へ帰省した。母は当時、自宅近くの社員寮の食堂で働いていた。食堂のメニューがあまりにも定番すぎて、自腹でホットケーキの材料を買い、作り、勝手に休日のお昼に出したらしい。若い社員には喜ばれたらしい。当然、責任者にはこっぴどく叱られた、らしい。「その若い社員さんがあんたと重なってね……」と、母。「ごちそうさま、おいしかった!って言われたとき、涙が出てきてね……」と、再現するように、母は泣いた。
そんなこんなで、食卓にはぼくの好物がてんこ盛り。「あ、けんちゃん、ちょっとコレ見てよ」と、食事中に母があるものを取り出した。もぐもぐと口を動かしていたぼくは、目線だけを母へ向ける。「コレ、かわいかろう?」、母が取り出したのは、小さなポーチだった。「ねぇ、ねぇ、コレいくらやと思う?」。もぐもぐ。「当ててみんしゃい」。もぐもぐ。「絶対、当たらんと思うけどね」
もぐもぐ、もぐもぐ……。
弟から聞いて、知っていた。近くのスーパーの中に最近、百円均一の店ができた。
もぐもぐ、もぐもぐ…。
「母ちゃんに見せられたけど、あれプラダのパチ物やね」。脳裏に浮かぶ、弟の苦笑い。
もぐもぐ、ごくん。
「…わからん」
ぼくの“わからん”を待っていたかのように、母は言う。
「コレね、100円よ、100円!」
まるで少女のように輝かせた目で、母は言う。
「100円には見えんやろう。かわいかもん、コレ」
服はすべて、祖母のおさがり。小物もバッグも、すべておさがり。母の、この数年間で初めての、自分のための「100円」の買い物だった。
愛おしそうにポーチを抱く母。何度もファスナーを開け閉めし、執拗に解説してくる母。
もぐもぐ、が止まらなかった。
「母ちゃん、ごめん…」
実家にぼくの部屋はすでになく、仏間でひとりになった。記憶は定かでないが、父の遺影の下で、母の姿を想像して、たぶんぼくは大泣きしたのだろう。
息子の通帳に5,000円を入金する母。
3,000円と言われたけど、よし、おまけたい! と独り言をつぶやく母。
家計のために特売日にスーパーに出かけ、なのに食堂の若い社員のために、ホットーケーキをがさがさとカゴに入れる母。
何度も店の前を通り、迷った挙句、100円のポーチを手にする母。「子どもたちに見せちゃろう」と、るんるんと笑顔で帰路につく母。
「数年ぶりの自分のための買い物が、100円…?」
あの5,000円を、ぼくは一体、何に使ったのだろう。
今、思い出しても、ふがいない自分に腹が立つ。涙腺が騒ぐ。
「ありがとね」
それから10数年。ぼくは無事「ハルメク」に入社し、「ハルメク 健康と暮らし」で、誌面を作る編集業務を担当している。
自分が作ったカタログを見てもらい、母に存分に買い物を楽しんでもらいたい、気に入ったものがあればプレゼントしたい―。仕事への情熱の半分は、母への感謝で構成されている、といっても過言ではない。
母は飛行機に乗れない(「乗り方がようわからん」のだそう)。新幹線で上京してくる。帰り際、母を見送るために新幹線のホームへ。
母はベビーカーのそばにしゃがみこみ、ぼくの娘、初孫の手を握り、顔を隠した。そして、隠し切れないほど、大粒の涙を流した。
母がハンカチを取り出すそのバッグは、入社してすぐプレゼントした、ハルメクのバッグ。いまだに使ってくれている。
「ありがとね」。妻には聞こえない音量で、もちろん母にも聞こえない小さな声で、会うたたびに小さくなる母の背中にぼくは言った。
今でもときどき、母から注文が入る。「あの商品はよかったけど、もっといい情報を載せたほうがいい」、と、一丁前の辛口読者だ。
「買い物気分を味わいたいけん、お金は払う!」と聞かないが、ひと悶着あって、そのほとんどをプレゼントにできている。そのやり取りは面倒くさいが…、また欲しいものあったら、いつでも連絡していいけんね。
-
スマホで医師に健康相談
24時間365日OK!30秒以内に医師・看護師・薬剤師などの医療チームがあなたの「健康相談」に応答してくれる♪ -
最高のワイナリーツアー♥
家族・友だちと!雰囲気バツグンの熟成庫見学・高価な貴腐ワインのテイスティングはいかが?お得なクーポンも! -
やばっ、冬の尿モレ
寒い冬、なぜ尿モレが増える…?3つの原因&4つの「効果的な尿モレ対策」を専門医に教えてもらいました! -
人生で1度は訪れたい場所
ミネラル豊富な美人の湯、最高のオーシャンビューなど、心もカラダも癒やされる魅力が盛りだくさん!人生で1度は訪れたい名所をcheck -
生前親に●●聞き忘れると
老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは… -
60日で英語が話せる!
英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは? -
おひとり様の備えはOK?
この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生! -
体験談:50代やって正解
銀行は断然「紙の通帳」派!そんな「デジタル嫌い」の私が 銀行アプリを使ってみたら想像よりもはるかに便利すぎて… -
健気な姿がかわいい!
「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました! -
50代~お金の増やし方
将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか? -
認知症リスクに40%も差
最近、驚きの研究結果が…!「犬を飼っている人」は「飼っていない人」に比べて認知症リスクが… -
今なら無料でお試し!
将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます!