公開日:2019/12/19
更新日:2019/12/20
大の鉄道好きマンガ家・文筆家のYASCORN(やすこーん)さんが、気軽に行ける1泊2日の女性ひとり旅をご紹介。今回は、飯田線で長野県の秘境駅を巡ります。秘境駅は電車の本数が少なく、あまり多くの駅を回れないもの。でも、お得な切符があるんです。
飯田線は、愛知県の豊橋駅から静岡県を通り、長野県の辰野駅までを結ぶ路線。各駅停車で94駅、200㎞近くを乗り通すのに6時間かかります。そしてこの路線は人里離れた山奥などに位置する「秘境駅」の宝庫。
しかし飯田線で秘境駅巡りをするとなると、次の列車まで常に2〜3時間待つはめに。ところが効率よく回る方法があるのです。
まずは朝のおめざ。昨夜買っておいた「ブラックサンダーあん巻き」をいただきます。
全国的に有名なお菓子「ブラックサンダー」は豊橋市のメーカーで作られています。そして「あん巻き」は愛知県三河地方の和菓子。あんこではなく、チョコとブラックサンダーのザクザク感が、もっちりとした皮ととても合っています。
さて、今回乗車するのは「飯田線秘境駅号」。人気のある秘境駅10駅に数分〜数十分停車してくれるので、お手軽に回れてしまう列車です。春と秋の行楽シーズンに臨時運行される急行列車ですが、大人気なのでチケット入手がなかなか難しく、私もキャセル待ちをしてようやく取ることができました。下りは豊橋駅を9時50分に出発し、飯田駅に15時30分に到着という、なかなかの長旅です。
秘境駅号は車内販売がないので、駅構内にある「壺屋」で駅弁を購入しておきます。飲み物も忘れずに。駅にはお見送りしてくださる駅員さんたちがずらり。発車後も、沿線から駅員さんたちが大勢お見送りしてくれました。秘境という言葉に、期待感が高まります。
まずは乗客全員に、記念乗車証と見どころMAPが配られました。下調べをおそろかにしていたので、大変助かります。そして車内アナウンス。「秘境駅はその名の通り、乗り遅れると3時間以上空く場合がございます。人数確認は行いませんので自己責任で……」など、クスッと笑える内容に、車内全体がなごみました。
最初に停車したのは新城(しんしろ)駅。こちらは秘境駅ではありません。他の乗客につられて降りると、駅構内でいろいろな食べ物が売られていました。どうやら秘境駅号の到着に合わせて、物産展が行われているようです。甘いものやおつまみ、缶ビールなどもあり、ここで食べ物を仕入れることもできるようです。
やはり下調べしておくべきでした……。
車内に戻ると、さらに「原寸大ヘッドマークシール」がプレゼントされました。こちらはなんと、ヘッドマークと同じ絵柄の特大シール! 飯田線秘境駅号は通常の乗車券と急行券・指定券だけで乗車できます。特別料金がないのに、こんなにいろいろもらえるの!? とびっくり。サービス満点ですね。
次に停車したのは、柿平(かきだいら)駅。秘境駅ランキング186位の駅です。秘境駅ランキングというのは、秘境駅に詳しく、著書なども出されている、鉄道愛好家の牛山隆信氏が作成した順位です。
まずは軽く列車の撮影など。普段全く人が降りない秘境駅とは思えないにぎわいです。
飯田線は川に沿って、山岳地帯や田園風景の中を走ります。ちょうど紅葉の季節で、私の隣に座っていた85歳の方は、ゆっくりと紅葉を楽しむためにこの列車を選んだとおっしゃっていました。確かに急行列車だと豊橋〜天竜峡まで2時間強で到着しますが、この列車なら5時間40分。車窓から景色を楽しむのにもぴったりです。
東栄(とうえい)駅は、約10分間の停車。秘境駅ではありませんが、駅舎が特徴的でした。
この辺りでは、鬼が重要な役割を担う「花祭」が、700年前から行われているそうです。
東栄駅の写真を使った掛け紙につられて、売られていたおはぎを買いました。こちらはおやつにします。
すでにお腹が空いているので、車窓を見ながら「飯田線秘境駅オリジナル弁当」をいただきます。地元の名物や地域に関連のあるおかずが入った、見た目にも楽しいお弁当です。
ふと、私以外にもこのお弁当を食べている方が数多くいるのに気付きました。どうやらほとんどの乗客は、ツアーで参加されている様子。この日は日帰り紅葉ツアーと、1泊2日の温泉ツアーの客でほぼ満席だったようです。ツアーでお弁当もついてくるのですね。
トンネルを抜けて、いよいよ秘境駅のラッシュに入ります。大嵐(おおぞれ)駅に停車後、秘境駅ランキング3位の小和田(こわだ)駅へ。平成5年の皇太子殿下と雅子さまのご成婚時に、名字が同じ表記ということで話題にもなった駅です。
かつては駅員さんもいる駅でしたが、今は無人駅。佐久間ダムができる際、周辺の村は水没してしまいました。駅周りを歩いてみると、廃屋や製茶工場跡などが、そのままになっています。
川の方まで山道を降りると、有名な三輪自動車ミゼットの廃車が。これが今回、一番見てみたかった風景です。後ろを穏やかに流れる天竜川と、森の陰でひっそりと朽ちていくミゼットとのコントラストがなんとも美しい。改めてゆっくりこの駅に来たいと思いました。
中井侍(なかいさむらい)駅からは、窓下の急傾斜地に広がる茶畑を眺めます。トンネルとトンネルの間の伊那小沢(いなこざわ)駅でも一旦下車。その後、列車は秘境駅ではない平岡駅に約28分停車します。こちらではお茶販売などの物産展がメインですが、私の目的は駅舎の上にある温泉です。
駅舎の建物「龍泉閣」は、1階がレストラン、2階が平岡駅、3階が宿泊施設、4階が龍泉の湯となっています。アルカリ性単純泉で、お湯は天龍温泉「おきよめの湯」から運ばれているそう。まさにカラスの行水でしたが、ギリギリ入ることができました。
次の停車は為栗(しでぐり)駅。飯田線沿いは難読駅名が多いのですが、為栗が一番難しかったです。停車時間の約16分の間に、天竜川にかかる天龍橋まで往復し、駅や鉄橋を眺めました。水鏡がとても美しく、思わずため息がでます。この辺も平岡ダムができて集落が水没し、住む人も少なくなり秘境駅となったのです。秘境駅には物語がありますね。
そして秘境駅ランキング6位の田本(たもと)駅。駅の前後がトンネル、ホーム背後はコンクリートの壁、線路下には天竜川という断崖絶壁の駅です。人ひとりがやっと通れるぐらいのホーム横にある急階段を上り、数人ずつ交代で写真撮影しました。そこからさらに山道を15分ほど歩くと集落があるそう。秘境駅にふさわしい佇まいです。
金野(きんの)駅、千代(ちよ)駅では、それぞれ駅名標に触ると金運・長寿のご利益があると聞き、みんなペタペタ。そして終点の飯田駅の1つ手前、天竜峡駅に到着しました。ほとんどの人がこの駅で下車、私もここで降りることにします。
天竜川上流に位置する天竜峡は、ちょうど紅葉の最中でした。前日の天浜線から見た、川下の幅広いゆるやかな天竜川とはまた表情が違います。駅からの散策コースで景色を見ながら、揺れる吊橋をこわごわ往復しました。
時間はすでに16時近く。辺りが暗くなってきました。実は川の向こうに見える橋まで行きたいのです。山の中の遊歩道を急ぎ、先ほど見えた橋にようやく到着しました。
こちらは上が車道の「天竜峡大橋」、下は歩行者が歩ける「そらさんぽ天竜峡」となっています。なんとこの橋は、この日にオープン! 実はそれに合わせて行程を組みました。午前中はセレモニーなどが行われ、午後15時から一般公開したとか。ぜひ渡ってみたかったので、ベストタイミングでした。
歩行者ゾーンは窓がなく、金網を風が吹き抜けけますが、コンクリートで頑丈なので、吊橋のように揺れることもありません。そしてなんと飯田線が一望できる素晴らしいポジション。しかも親切に、列車通過時刻の表が置かれていました。私も列車を待って撮影してみます。オープンしてまだ知られていないためか、撮り鉄さんは一人しかいませんでした。
日が暮れて真っ暗な道を迷いそうになり、かろうじて見つけた人の後にピッタリついて怪しまれながら、なんとか天竜峡駅に戻りました。各駅停車で飯田駅へ。
帰りは飯田駅から東京のバスタ新宿まで高速バスに乗車します。1時間に1本の運行で、最終は19時に駅前発。それまでに軽くご飯を食べたいところです。
聞くと、飯田は人口に対する焼肉店が多い街ランキングで全国1位だそう。さっそく焼肉屋さんを探しましたが、繁華街は駅から遠く、駅近で見つけたお店に入ってみました。
飯田独特の黒ホルモンを食べながら、なぜ飯田に焼肉屋さんが多いのか? とお店の方に質問。飯田は山の中で農作物が育ちにくく、ジビエがタンパク質のメインだったことから、焼肉屋さんが増えたそう。そしてなぜかジンギスカン屋さんも多いそうです。もっと食べたかったのですが時間切れ。改めて焼肉の旅として訪れてみたいです。
まずは秘境駅の下見を兼ねて……と思っていましたが、秘境駅号自体がとても楽しい列車でした。リピーターさんが多いのも納得です。
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