がん患者が集う 京都・和田屋のごはん

がん治療医・和田洋巳さんの「だし」から始める食事法

公開日:2019.02.14

更新日:2023.10.12

「食事は、体を変えるための要」と力説するのは、がん治療医・和田洋巳さん。からすま和田クリニックが、がん患者の食事指導や心の交流を行うために設けた施設、和田屋。そこでは、丁寧においしい「だし」の取り方を教えてくれます。レシピも必見です!

体を内側から変える和田屋の「だし」

和田屋

「和田屋」と表札のかかった町家の玄関をくぐると、ふわっと漂うだしの匂い。「うわぁ、おいしい」と弾む声が聞こえます。今日は、月に一度行われる「だし」の講習会の日。40年以上がん治療に携わってきた院長の和田洋巳さんの考えに基づき食事指導が行われます。集まったのは6人の患者さんたち。だしの取り方をおさらいし、それで作った野菜スープと、だしがらを使ったふりかけで握った玄米おにぎりをいただきます。

「がんを治すには、患部だけに目を向けて治療しても意味がありません。がんができたということは、がんが育ちやすい体内環境になっていたということ。だったら、内側から変えていくしかない。食事は、体を変えるための要となります」と和田さんは語ります。

講習会の講師を務めるのは、クリニックのスタッフ・樫幸さん。和田さんの考えを基にレシピを作成し指導を行っています。「がん治療では、塩分を控えることが基本。そのために最初に覚えていただきたいのが、だしの取り方です。これだけでもきちんとすれば、料理にうま味が生まれて減塩になります。おいしいので、食欲も出ます」。和田屋のだしは、昆布にかつお、うるめいわし、粉末乾燥しいたけの4種を使い、こくがたっぷり。どんな料理にも使えて、無理なく減塩が続けられます。

和田屋のだしの取り方

 

「なぜ再発するのか?」という疑問を解明するために

和田ひろみ先生

わだ・ひろみ◎1943(昭和18)年、大阪府生まれ。からすま和田クリニック院長。医学博士。京都大学名誉教授。一般社団法人日本がんと炎症・代謝研究会代表理事。著書に『がんに負けないこころとからだのつくりかた』(浜口玲央、長谷川充子との共著/WIKOM研究所)など。

和田さんは、63歳で定年退職するまで、京都大学医学部附属病院の呼吸器外科で肺がんの外科手術を専門にしてきました。「どんなに手を尽くしても再発する人がいることに、疑問を感じてきました。退職後の残りの人生は、その解明に費やしたいと思ったのです」と話す和田さんは、2011年にクリニックを開業。患者さんの話を聞いて検証するうちに、食事ががんに及ぼす影響を確信します。退職後、自身も胃がんになったこともあり、クリニックのほど近くに町家を借り、食事や心のケアができる場所「和田屋」を作りました。

「がんは、突然ぽんと降ってくるものではありません。暴飲暴食をしていたり、過度に自分にストレスをかけてしまったりという背景が必ずあるはずなのです。がんを作ったのも自分なら、おとなしくさせられるのも自分。その意識をもって、体を変えていかなければ治療はできません。食事や生活に真剣に目を向けることで、現在健康な人もがんを遠ざけることができるのです」

がんに負けない体にする食べ方とは

では、がんに負けない体にするには? それには、主に2つの指標があると和田さんは言います。

1つは、体内を炎症状態にしないこと。「炎症とは、体に起こる火事のようなもの。たとえば、喉に細菌が入り赤く腫れた急性炎症は、体が細菌を排除する防御反応なので問題ありません。一方で、長期間くすぶり続ける慢性炎症は、がん細胞が成長しやすく注意が必要。肥満などの生活習慣病や動脈硬化などが、これにあたります」

もう1つは体をアルカリ性に保つこと。「体内環境が酸性に傾くと、がん細胞が活性化するといわれます。うちでは、患者さんに尿をアルカリ性に保つよう伝えています。体をアルカリ性に傾ける食品を摂り、リトマス紙で尿のpHを自宅で測ってもらっています」

これら2つの条件に体内環境を近づけるために、和田さんがすすめる食べ方の原則は、主に5つです。といっても、どれも特別なことではありません。1つ目は、塩分を控えること。「塩分(ナトリウムイオン)は、がん細胞の周囲を酸性状態にして、がん細胞の存続や増殖を助けてしまいます」と和田さん。減塩するために、和田屋ではだしを使った野菜スープやきのこのペースト、ドレッシングなどのストック料理を患者さんに伝授しています。これで減塩食も飽きずに楽しめます。

2つ目は、新鮮な野菜・果物・きのこをたくさん摂ること。「植物性の食べ物は、体をアルカリ性に保ちます」と和田さん。さらにこれらが含む抗酸化物質は、活性酸素を取り除き、傷んだ細胞を修復するそう。樫さんは言います。「特に、きのこが含むβグルカンは、免疫力を高めることで知られています。ペーストにすれば、栄養吸収もよくなりますよ」

3つ目は、たんぱく質はなるべく大豆や魚で摂ること。動物性のたんぱく質は、体を酸性にする性質があります。さらに、牛肉や豚肉は、加熱によりトランス脂肪酸が発生し、体内を炎症化させる可能性もあるそう。「どうしても肉が食べたいと患者さんがおっしゃる場合は、せめて焼肉よりもしゃぶしゃぶにするなど、100度を超えない加熱法で肉を食べるようにと言っています」と和田さん。

4つ目は、炭水化物は精製していないもので少なめに摂ること。「甘いものはもちろん、炭水化物は体内で糖に変わります。そしてエネルギーとして使われた後、乳酸に変わり、体を酸性に傾けてしまうため、控えめにしましょう」

最後は、油を選ぶこと。「オメガ3系の油は、体の炎症を抑えます。アマニ油やえごま油を積極的に摂るとよいです」と和田さん。オメガ3系の油は加熱で酸化するため、生野菜にかけてドレッシングとして使います。塩がなくても、ナッツや柑橘類と組み合わせればおいしくいただけます。

和田さんは言います。「食事を変えた患者さんたちは、血液検査のデータがどう改善されているか、結果を楽しみに来られます。自分で変えるという意識でこの食生活を続ければ、がんだけでなく、生活習慣病の予防やダイエットにも必ず結びつくはずです。僕がお伝えしたのは、食事で体を改善してきた患者さんから教わったことばかり。まずは、食べることを通して自分の体と向き合ってみてください」

がんに負けない体を作る食事
【写真】上から時計回り/にんじんジュース。季節野菜のサラダに、「ドレッシング3種」、季節の果物。「野菜のスープ」、にかぼちゃやホタテを加えたもの。玄米と古代米をミックスしたご飯に自家製ふりかけ。ソテーした鮭に「きのこのペースト」。季節野菜で作ったラタトゥイユ。すべて5原則に沿った献立の例。

 

和田屋のだしの取り方

常備しておくと便利! うま味たっぷり減塩
和田屋のおだし

常備しておくと便利! うま味たっぷり減塩 和田屋のおだし

[材料]
水2000mL、昆布10cm、混合だしかつお50g(うるめいわし40g、花かつお5g、粉末乾燥しいたけ5g)

[作り方]
昆布を一晩水に浸しておく。ゆっくり加熱し、昆布が揺らぎ始めたら引き上げる。中火にして、混合だしかつおを入れて5分ほど加熱してこす。引き上げた昆布は、冷凍しておいてもう1度使う。※冷蔵庫で2日間、冷凍庫で1週間保存可能。

「だし」を取った後のだしがらは、フライパンで炒ってミキサーにかけて、ゴマ・焼きのりを加えて自家製のふりかけに。
「だし」を取った後のだしがらは、フライパンで炒ってミキサーにかけて、ゴマ・焼きのりを加えて自家製のふりかけに。

お味噌汁の代わりに和田屋の野菜スープ

和田屋スープの作り方

[材料]
キャベツ、たまねぎ、セロリ、にんじん各200g、水1500mL、和田屋のおだし1200mL

[作り方]
水に、すべての野菜をみじん切りにして入れ、強火にかける。沸騰したら少し火を弱め、アクをこまめに取りながら、30分ほど煮る。和田屋のおだしを入れて、ひと煮立ちさせる。これに好みの野菜や豆腐などの具を入れれば、毎日違う味が楽しめる
※冷蔵庫で3日間、冷凍庫で1か月間保存可能。

焼き魚やパンに添えて和田屋のきのこ畑(きのこのペースト)

和田屋のペースト

[材料]
しめじ1パック、しいたけ1パック、舞茸1パック、和田屋のおだし・きのこの1.5倍の量

[作り方]
すべてのきのこと和田屋のおだしをミキサーにかけて、鍋で30分煮る。
冷蔵庫で2日間、冷凍庫で1か月間保存可能。

毎日野菜がたっぷり食べられる和田屋のドレッシング

[材料と作り方]

  • オメガ3系ドレッシング(写真下)/えごま油またはアマニ油大さじ4、酢大さじ2、こしょう少々を混ぜる。
  • みかんドレッシング(写真中)/えごま油大さじ2、みかんの搾り汁60mLを混ぜる。
  • クルミディップ(写真上)/えごま油大さじ6、クルミ(無塩)10g、酢大さじ1、こしょう少々をミキサーにかける。
    ※それぞれ冷蔵庫で5日間保存可能。

取材・文=木村和歌菜、大矢詠美 (ともにハルメク編集部) 撮影=中川まり子
※この記事は、2015年10月号「いきいき(現ハルメク)」を再編集し、掲載しています。


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和田屋の本

『がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん』(1760円 ※書店では扱っていないため購入する際はインターネットのAmazonか、以下にご連絡ください。WIKOM研究所:075-223-3223)

雑誌「ハルメク」

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