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- エッセー作品「妹と私」中込佳子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。中込佳子さんの作品「妹と私」と青木さんの講評です。
「妹と私」
私にはひとつ違いの妹がいる。2人は何かにつけ正反対だった。
例えば顔かたちも、性格も、食べ物の好みも、好きな色もまったく違った。
妹は二重瞼でぱっちり、誰の目にも美人で、少し利口にさえ見える。
私は細い一重瞼で、顔は四角っぽい。
若い頃、昭和40年頃だったが、よく行った銭湯の番台のおばあさんが、
「こんなに似てない姉妹は見たことない。本当に本当の姉妹?」と聞いたものだ。
妹は父に似て、「領収書の代わりになる」と言われたほど。
そして私はどこもかしこも母にそっくり。
ここでひとこと断っておくが、母は近所でも評判の美人で、上品で優しいと評判だった。
しかし、私はここまでの80年の歳月で上品で美しいと言われた覚えはない。
ただ一度だけ、知人が私のことを天平美人だと評してくれたことがある。私は気をよくした。
世が世ならば……である。
私たち姉妹は子どもの頃から青春時代にかけて、よく教会に足を運んだ。
讃美歌を歌い、聖書を読み、説教を聴く。
同じ場所で同じことをしているのに、私はお説教を右の耳から左の耳へと聞き流してしまう。
だが、妹はひとつひとつ自分が納得するまで意味を尋ねた。
そして縁あって、若くしてクリスチャンになった。
妹に洗礼を授けてくれたのはアメリカ人の牧師で、あるとき一家4人で我が家に遊びに来てくれたことがあった。
たまたま居間に立てかけてあった琴を見つけて大いに興味を持たれた。
問答の末に、「ここは一番」と披露することに。
無論、五線譜はないので琴柱(ことじ)をドレミの音階に調整した。
そして讃美歌321番「いつくしみ深き友なるイエスは」という、最もポピュラーな一曲を弾いて私たちは喝采を浴びた。
その数年後、牧師一家はアメリカへ帰国した。
ブレインという名の小学三年生くらいの少年がカツ丼といなり寿司が好物と聞いて、母はお別れにいなり寿司をたくさん作り、私と妹は一家が旅立つ神戸港までそれを持って見送りに行った。よろず船の別れはドラマチックだ。
その後も、妹は生真面目を絵に描いたような暮らしを送った。
一方、私は子どもの頃からチャンバラが好きだった。
家族でクラシック音楽を聴いていても、隣の部屋から国定忠治の「赤城の山も今夜を限り」などの台詞が聞こえてくると、目も耳も足も、そちらへと向いた。
若かった私は飼い猫を膝にのせて、股旅ものの歌を聞かせた。猫はしっかりしっぽを振る。
それが結構リズムにのっていて、私は涙が出るほどおかしかった。
母は「この子は一体誰に似たのだろう」と嘆くことしきりだった。
今もほとんど変わっていない。
青木奈緖さんからひとこと
「家族のエッセー」では親、子、孫についての作品は多いですが、兄弟姉妹についてお書きになる方はあまり多くはありません。この作品は姉の視点から妹を描き、同時に自分の子ども時代をふり返っています。
容姿も性格もまるで正反対の妹を淡々と描いているようで、眼差しには深い愛情が感じられ、自分のことはちょっと自虐的にユーモラスに描写しています。技巧というより人柄のあらわれる文章です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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