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- エッセー作品「こうきの言霊」ふじいみつこさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。ふじいみつこさんの作品「こうきの言霊」と青木さんの講評です。
こうきの言霊
「昨日も頑張ってやってたよー」
こうきの他人事のような言い方に思わず苦笑した。
こうきは、小学2年生の男の子、私たち夫婦にとって初孫にあたる。
娘夫婦が結婚10周年を迎え、ふたりで 記念日の食事をしたいというので、3人の子守を任された。
共働きの2人、見た目は穏やかそうな夫婦だが、実は凄いバトル喧嘩をする。
(まぁ一方的に娘が唸っている感じがしないでもないが)
この夫婦の長男こうきは、誰に似たのか、マイペースで穏やかな子だ。
そんなこうきに、主人が
「昨日パパとママはどうだった」(喧嘩してなかったか)
と問い、それに対して答えたのが、
「昨日も頑張ってたよー」
の一言だ。
いつもどんな思いで2人のバトルを聞き流しているのやら。
こうきは生まれた時4000グラム越えの大きな赤ん坊だった。
笑うのも喃語を話すのも早く、私があやすと全身で喜び、「あーあー」とおしゃべりを繰り返した。
よちよち歩き出すと散歩道から見えるトラックを指さして「あっあっ」と声を出し、それが「ブーブー」と片言を発音し、「ブーブー早い」と驚きを伝え、そのうち「どこに行くのだろう」と不思議な気持ちを言葉で表すようになった。
私はその度に、「ブーブーだね」 「ブーブー早いね」「どこにお仕事に行くのだろうね」と相槌を打った。
それは、相槌というよりもこうきの成長に心から感動した驚嘆の言葉だった。
彼の発する言葉はまさしく言霊だった。
どんなに私を豊かに、幸せにしてくれたことだろう。
こうきが2歳の頃近くの公園に連れて行ったら、大きな木に両手を広げて抱きつき、耳を当てて笑っていた。
あぁこの子は自然とも話せる言霊を持っているのだと感じたものだ。
あれからこうきに妹や弟が生まれ、環境も一変した。
小学校に通うようになっても夢うつつで、「ちゃんと話を聞いてるの」と度々両親から叱咤される。
しかし、時々発するこうきの言霊は健在だ。私を豊かに幸せにしてくれる。
学童のお迎えに行った日、開口一番に「ばーば誕生日おめでとう」、遊園地からの帰りに「ばーば、また来年も一緒に来ようね」。
その度に私の耳元で少し照れたように話してくれる。
そのうち反抗期になって、私たち祖父母の家にも寄り付かなくなるかもしれない。
好きな野球に夢中になって、大声で相手をなじるような応援をするかもしれない。
恋をして、素敵な彼女に優しい言葉をささやく時が来るかもしれない。
それでも私は、こうきの成長と共に彼の発する言霊をキャッチし、応えてやりたいと思う。
素直な心から出た言葉は、何も修飾しなくても、相手に伝わり感動させることをこうきは教えてくれたのだから。
青木奈緖さんからひとこと
お孫さんの成長を見つめた作品です。
孫を書くということは未来を描くということであり、過去の思い出をふり返る場合とは特に結末の部分に違いが出るように感じます。
将来についてまだ未知数の部分が多いですし、あまりあからさまな孫自慢になってしまってはいけないとか、書き手にいろいろな思惑も働くのでしょう。どちらかというと無難に収まってしまうことが多い中、この作品ではお孫さんがいきいきと自然に描かれています。
孫を描くというのは、案外難しいのかもしれませんね。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
2023年3月からは、第6期がスタートします(受講募集期間は終了しています)。5月からは、青木先生が選んだ作品と解説動画をハルメク365でお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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