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- エッセー作品「若夏のころ」塚原明子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。塚原明子さんの作品「若夏のころ」と青木さんの講評です。
若夏のころ
今年もうちのツバメちゃんが帰ってきた。
去年は、2ペアで15羽のヒナを巣立たせた。その片方の番いが帰ってきたのだ。
背中の柄で去年と同じコだとわかった。
通常、2週間程こちらを観察したあと、家のあちこちに泥を付けて巣造りの場所選びに日にちをかけたり、土台だけ造ってしばらく様子を見たりして用心深いのがツバメだと思うが、この番いは1階の換気扇の上に、たった2日で要塞のような大きく深い立派な巣を完成させ、まだ乾燥していない湿ったままの所に卵を産みはじめた。慌てた様子だ。
昼間、雌が出掛けた際に、私は脚立に乗って猫除けやカラス除けのグッズを装着した。
近くに姿が見えなくても番いのうちのどちらかは必ず付近を旋回しているようだ。いつのまにか近くの電線にとまってこちらを見ている。
巣に近づけば普通は「ぴ・ピーっ!」と大声で威嚇してくるものだが、この番いとは信頼関係がある。
去年、2度目の孵化のとき、巣の造りが雑で一部が壊れてヒナが落ちた。
そうなる気がして巣の下にネットを張っておいたので、ネットの中に落下した。
シリコンのトングで救出し、巣に戻した。そのままでは巣立ちまでもたないと思ったので巣を覆うようにネットを張り直した。
さすがに番いはバタバタ慌てたように飛んではいたが、攻撃はしてこなかった。
私がトングで触れたヒナも含めて番いはちゃんと餌を運んだ。
無事成長して巣立ちの頃、昼間、私の居る2階の窓の外を「ぴ・ピーっ」と叫びながら番いが旋回していた。
危険を知らせるときの鳴き方だったので急いで表に出た。
10羽程のツバメの群れが見えたので走って向かったら、ヒナが道の真ん中で動かずに居たのだ。
巣立つには早すぎたのだろう。私は例のトングで連れ帰り巣に戻した。
10羽程の仲間は皆でついてきて、うちの敷地のあちこちに、しばらく居て騒いでいた。
それから3日程でそのヒナもちゃんと巣立った。
あの件で私と番いには信頼関係があると確信している。
毎朝、東が白んでくる頃、「チ・チ・チュラ・チチ」と歌いだすので、窓を開けておはようと声をかける。
それからツバちゃんは付近の仲間とコミュニケーションをとるように上空を旋回している。
片方が抱卵している間、片方は傍で見守る。
私がゴミ出しや買い物に出る時は“サァーッ”と側を飛びぬけてくる。
何処に行くの?と、言わんばかりに。
今年も夏の終わりまでこの子達と一緒だ。
青木奈緖さんからひとこと
「家族のエッセー」講座では「家族」をなるべく広い意味で捉えようとしており、限界突破の試みを歓迎しています。
この作品ではツバメの家族と、ツバメたちと家族のように交流している著者が描かれています。野鳥とこんな信頼関係が築けたらどんなに楽しいでしょう。巣からこぼれんばかりに成長したひな鳥と、明るい夏空を見上げる著者の姿が目に浮かぶようです。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月26日(火)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#5
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#6
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第4期#1
- エッセー作品「若夏のころ」塚原明子さん
- エッセー作品「夜行列車」西山聖子さん
- エッセー作品「『ちゃあちゃあん』の頃」林宏子さん
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