「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302024年05月31日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第8期第2回
「趣味さがし」栞子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第8期2回目のテーマは「似ている」。栞子さんの作品「趣味さがし」と山本さんの講評です。
趣味さがし
趣味といえるものがない。
どこに出かけるにも本は手放せないほど読書は好きだけれど、活字が好きなだけなのかも。
雑誌の記事には、むかし途中でやめてしまった習いごとに再度チャレンジしてみるという提案。
わたしの場合はピアノか。
曲をきくのもひくのも大好きなのに、わたしの手はちいさすぎた。
あこがれのダイナミックな曲にはなかなか挑戦させてもらえなかった。
幼稚園のころから何度か休んだりしながら続けるも、中学入学と同時にやめてしまった。
今もときどきピアノにむかうけれど、レパートリーは止まったままだ。
その記事にはほかに、自分の両親や祖父母の仕事や趣味からヒントをもらってみてがどうかとも。
うん、それはおもしろそうだ。
わたしが小学生になるまで訪れていた父方の祖父母の家は、えんがわや庭にはちいさな池のある平屋の、祖父が建てた家だった。
祖父は大工だった。
わたしの知っている祖父はもうすっかりおじいちゃんだったから、そう聞いてもピンとはきていなかったけれど。
いつ行ってもたくさんのお菓子がつまっていたタンスも、父からゆずってもらい知らずにつかっていた勉強机も、祖父がつくったものだった。
祖母は洋裁やあみものが得意なひとだった。
よそいきのワンピースや毛糸のパンツはほぼ祖母のお手製だった。
ワンピースには、むねのところにいつもきれいなししゅうがあり、あまり布でにんぎょうの洋服もたくさんつくってくれた。
そうか、父の器用さは祖父母ゆずりだったのだ。
父はなんでもつくれる人だった。
犬にはりっぱな柵付きの犬小屋を、うらにわには大きな物置きを。
設計図をひいて、その通りにさくさく作ってしまうのだ。
雑誌のやたらと複雑なふろくも全部父がつくってくれた。
家のなかの不具合や、母の要望を父はあっという間にかなえてしまっていた。
あいにくわたしには洋裁やあみもののセンスがないことははっきりしている。
学生時代、課題のワンピースを教室のカーテンといっしょにぬいつけたり、目のつまったまったくなびかないかたいマフラーをいくつか誕生させてさとった。
大工仕事など、もっとむつかしそう。
我が家では、一応器用なほうということにはなっているが、消去法でのはなしだ。
このままでは趣味さがしが趣味になってしまうかも?
山本ふみこさんからひとこと
原作には「さがしもの」というタイトルがついていました。
そのほうが洒落ていると思ったけれど、「趣味さがし」というタイトルにしてみたくなりました。これでははじめから種明かしをしてしまうようでもありますが、「趣味さがし」ということばが、なんだか、とてもまぶしくて……。ついね。
栞子さん、栞子さんにとって人生ぜんぶが趣味ではないでしょうか?
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回募集については、2024年8月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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