日本の家庭料理に息づくカツ代レシピ

小林カツ代さんの生き方と【鉄板】肉じゃがレシピ

公開日:2020.06.03

更新日:2023.02.24

料理研究家の故・小林カツ代さん。テレビや本で、カツ代さんの元気な笑顔とレシピを見て、よく作った!食べた!という方も多いのではないでしょうか。元祖「簡単おいしい」を実現した小林カツ代さんの人柄とレシピに迫ります。

肉じゃがで、料理の鉄人に勝利した小林カツ代さん

『小林カツ代のきょうも食べたいおかず』河出文庫
『小林カツ代のきょうも食べたいおかず』河出文庫

うれしいときも悲しいときも、家族がいても一人でも、「簡単、おいしい!」で元気になれる。小林カツ代さんのレシピはそんな料理だと思います。家庭料理のプロとして1万以上のレシピを残し、2014年に亡くなった小林カツ代さん(享年76)。簡単に手早くできて、でも決して手抜きではない独創的な料理、そしてユーモアあふれるおしゃべりは、多くの人を元気づけました。

内弟子第一号として20年以上、小林カツ代さんと一緒に仕事をしてきた家庭料理家の本田明子さんが、最も身近にいたからこそ知る素顔や、受け継ぎたい師の思いについて語ってくださいました。

料理研究家・エッセイスト、小林カツ代さんのプロフィール

1937(昭和12)年に、大阪に生まれました。母の味をもとにした家庭料理で独自のスタイルを確立して活躍。94年の人気TV番組「料理の鉄人」では、肉じゃがを披露して勝利しました。2005年にクモ膜下出血で倒れたのち、14年に逝去されました。遺した著作は230冊以上に上ります。

 

一番弟子・本田明子さんが語る、カツ代さんの料理人生

本田明子さん
お話ししてくださったのは、本田明子さん

先生が亡くなって6年たちましたが、今もときどきファンからお手紙が届くんです。おばあちゃんやお母さんが作るカツ代レシピを食べている小学生が、たまたま家にあったレシピ本を見て、まだ生きていると勘違いしてファンレターをくれたり。そうやって祖母から娘、娘から孫へとレシピが伝わって、アレンジされながらその家の料理になっていくのは、先生にとって願ってもないことだと思います。

私は短大を出て23年間、先生と仕事をしてきました。何を教わったかといえば、料理の技術はもとより、生き方や考え方が大きかったですね。

先生は常々「料理は日常の中の点である。いちいち大騒ぎしなさんな」と言っていました。私たちの生活は24時間、365日あって、つらいことが起きたり、風邪をひいたり、家族の誰かが倒れたりする。その中で朝昼晩とごはんを食べなくてはいけないわけで、「こうあるべき」ととらわれることはない、と。

大事なのは毎日の中の点を、いかに無理なく積み重ねていくか。そのために「私はこうしたらうまくいったから、あなたもやってみない? ここさえ押さえればおいしくできるわよ」と、みんなと同じ目線でメッセージを送り続けるのが自分の仕事だと考えていたようです。

 

料理を作りたくないときは「みそ汁一杯」だけでOK

みそ汁

もう一つ、先生が事あるごとに言っていたのが「時間がないときやしんどいときは、出来合いのおかずを買ってきてもいい。でも、みそ汁一杯だけは作ってほしい」でした。

なぜみそ汁なのかといえば、だしをとるときに、おいしい香りが家じゅうに漂うから。おいしい料理は買って帰れても、作っているときの香りは買うことができないでしょう。香りの記憶は死ぬまで残る、心まで温まるものだから、家の中にだしの香りを残したい、という強い思いが先生にはあったんです。

だからといって「ちゃんとだしをとりなさい」とは言わない。「かつお節のだしなら1~2分で簡単にとれて、おいしい香りで家族みんなが幸せな気持ちになるのよ」と伝えるのがカツ代流でした。その思いを私も伝えていかなくてはと、今ひしひしと感じています。

 

やりたいことをすると宣言した矢先に

出版した本

生前、先生は雑誌や新聞の連載をいくつも抱え、200冊以上の本を出しました。その原稿を最初に読むのも私の仕事でした。

先生は深夜に自分の思いの丈を文字数を気にせずにガーッと書くんです。普通の紙ならいいんですが、アイデアが浮かんだ瞬間に紙がないと、目の前のティッシュペーパーの箱に書いたりする。翌朝、ぎっしり字が書き込まれたティッシュペーパーの箱を渡されて、「読んでくれ」と(笑)。それをまずワープロで打つんです。

先生は常に「読者の気持ちになって読んで」と言っていたので、私は「この部分はもっと知りたい」「ここは削ってもいいのでは」とはっきりと意見を伝えました。先生にとって「読者のために」というのは絶対でしたから、最初の読者である私の意見を受け入れて、文字数を合わせて推敲していました。

先生がクモ膜下出血で倒れたのは67歳。「これからいろいろなものをそぎ落として、自分のやりたいことだけにする」と宣言した矢先でした。何をしたかったかというと、「70歳、80歳、90歳と年を重ねるごとに、その年代の人のための料理を提案したい」と。

例えば肉じゃがにしても、「年を取るとほっくりした食感がむせるようになるから、食べやすいレシピを洗い出したい」と話していました。先生は94歳まで生きるつもりでいたので、まだ心残りがあっただろうなと残念でなりません。

実は2017年から、私は大阪で高齢者が食べやすい料理を開発する仕事をしているんです。最初に頼まれたとき、大変そうで躊躇(ちゅうちょ)しましたが、「これって天国の先生が私にやらせたいこと?」と思い引き受けました。大阪にいる先生の姪っ子も巻き込んで二人で奮闘中です。先生のやり残したことをつないでいきたいですね。
 

■お話ししてくれたのは
本田明子さん

ほんだ・あきこ 1962(昭和37)年生まれ。82年に小林カツ代さんの内弟子となる。「小林カツ代キッチンスタジオ」の書籍担当者として200冊近い料理本に携わる。2007年に独立。家庭料理家として「きょうの料理」などで活躍。著書に『娘に伝えたい おせち料理と季節のごちそう』(講談社刊)他多数。

 

カツ代レシピの大定番「肉じゃが」見た目は普通なのに味はバツグン!

肉じゃが

何度でも食べたくなる味。あの「料理の鉄人」で勝利した肉じゃがは、肉・ジャガイモ・玉ネギの極力シンプルな材料で直球勝負した潔さがポイントです。

材料(作りやすい分量)

  • 牛切り落とし肉、または薄切り肉…… 200g
  • ジャガイモ…… 4~5個(600~700g)
  • 玉ネギ……1個(200g)

【A】

  • 砂糖、みりん …… 各大さじ1
  • しょうゆ …… 大さじ2と1/2


作り方

  1. 玉ネギは半分に切ってから縦1cm幅に、牛肉は食べやすい大きさに切る。ジャガイモは皮をむいて、丸ごと水につけておく。作る直前に大きめの一口大に切る。
  2. 鍋にサラダ油大さじ1を熱し、玉ネギを強めの中火で熱々になるまで炒める。真ん中をあけて肉を置き、肉めがけてAの調味料を記載順に加え、肉をほぐしながら味を絡める。

    肉じゃがの作り方

  3. 全体にコテッと味がついたら、ジャガイモを加えてひと混ぜし、水300mLを注いで表面を平らにする。
  4. ふたをして、強めの中火で7〜8分煮て上下を返すように混ぜ、2〜3分してジャガイモが軟らかくなったら火を止める。
     

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 料理=本田明子 スタイリング=本郷由紀子
撮影=大井一範

※この記事は雑誌「ハルメク」2018年7月号に掲載した記事を再編集しています。

■もっと知りたい■


小林カツ代さんのレシピと知恵

※ただいま発売中の「ハルメク」2020年6月号で、「小林カツ代さんのレシピと知恵」を特集しています。雑誌「ハルメク」は定期購読誌です。書店ではお買い求めいただけません。詳しくは雑誌ハルメクのサイトをご確認ください。

 

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