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- 昭和の新劇女優・山本安英さん「声は生きる姿勢」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、女優「山本安英」さんです。随筆家としての山本さんに大きな影響を与えた山本安英さんの声とは…。ぜひ声に出して読んでみてください。
好きな先輩「山本安英(やまもと・やすえ)」さん
1902-1993年 女優
東京都生まれ。21年、現代劇女優養成所に入所し、初舞台を踏む。24年、築地小劇場創設に参加。47年、木下順二らと結成した「ぶどうの会」で活躍。代表作は「夕鶴」「子午線の祀り」。「夕鶴」は1000回以上演じた。
一度観たなら決して忘れることのできない存在
1979年、わたしは21歳、出版社の駆け出しの記者でした。木下順二(きのした・じゅんじ)作「子午線の祀(まつ)り」の上演が決まって編集部に案内があったとき、わたしは「行きたいです」と手を挙げ、国立小劇場の観客となりました。
腰をおろしてみれば編集長と副編集長にはさまれた座席で、身が縮んだのをおぼえています。
しかし幕が上がるなり、「無数の星々をちりばめた真暗な天球」のもと、たったひとり立つわたしになっていました。
『平家物語』を下書きにした現代劇「子午線の祀り」は、「群読」のスタイルですすんでゆきます。そこには新劇、歌舞伎、能、狂言の融合が実現していました。独誦と役者全員による群読(合誦)に3時間20分のあいだ、揺さぶられつづけました。宿命的に生まれ、深みにて育(はぐく)まれた事ごとがひしと伝わる舞台でした。
宿命のなかには山本安英の存在がありました。新劇の女優であり、朗読家でもあったひとです。ここで、おお、と、思わず胸をかき抱いたのは舞台の山本安英を知るあなたですね。
木下順二が山本安英のために書き下ろした「夕鶴」のつうも、「子午線の祀り」の影身(かげみ)の内侍(ないし)も、一度観たなら決して忘れることのできない面影を残すはずだからです。
ええ、わたしもそのひとりです。その面影を映しだしたくてこれを書きはじめたのでしたが、さて……。
声に出して読むことで生じる「何か」
日本語のうつくしい発音について書いてみたいと思います。山本安英は折りにふれ語ったそうです。「声は生きる姿勢である」「声には、そのひとの考え方、読みの深さ浅さがそのまま出てしまう」
こうして声と朗読に生涯をかけたのです。40年前「子午線の祀り」の舞台で山本安英の声を耳にしたときから、日本語と音読の抜き差しならぬ関係を思いつつ、わたしは仕事をしてきました。音読のかなう文章を書きたい、と。
「子午線の祀り」も後半にさしかかるころ、新中納言平知盛(たいらの・とももり)に向かって思い人影身の内侍の幻が語ります。
「非情にめぐって行く天ゆえにこそわたくしどもたまゆらの人間たち、きらめく星をみつめて思いを深めることも、みずから慰め、力づけ、生きる命の重さを知ることもできるのではございませんか」
この語りを、どうか、声に出して読んでみてくださいまし。きっと何かが生じます。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年5月号を再編集し、掲載しています。
>>「山本安英」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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