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- 「天国に一番近い島」ニューカレドニアに降り立って
2016年、C型肝炎を克服してわずか21日後に脳出血になったharumatiさん。リハビリを重ね、2019年12月から約2か月間のクルーズ旅行に挑戦してきました。今回は日本の政治への思い、ニューカレドニアでの美しいエピソードをお届けします。
それでも初夏に向かって美しい季節は巡る
「緊急事態宣言」が発令されていようとお構いなしに季節は巡ります。例年どおり連休中には田植えが終わり、田んぼの主人公も白鷺からカエルへと交代。早くもカエルの合唱が始まっています。
山ツツジや、山藤が優しい色合いで山肌を飾り、初夏の訪れを告げています。けれども心は一向に弾みません。5月6日までと発表されていた「緊急事態宣言」は、5月31日まで延長されました。その後、5月14日に再判断するとの発表が行われましたが、自治体ごとの判断が活発になっているように見えます。国の判断を待ってはいられないことが山積しているからでしょう。
あのアベノマスクも、一人一律10万円の給付金も届く気配さえありません。その間にどれだけの方が食べるお金さえなく、困窮されているのでしょうか。マスクを手作りするのは今や当たり前。すべては、待ってはいられないことなのです。発症して、重症化された方や亡くなってしまわれた方、また、そのご家族の苦しさ、無念さは、いかばかりだったろうと、胸がふさがれる思いです。
京都市内では、病院から地域住民に防護服製作の依頼があったそうです。その病院の近くに住む私の友人も、大判のゴミ袋を養生テープで貼り合わせて、防護服製作に日々協力しているとのこと。この豊かな日本で、そんなことが起こるなんて、信じられない気持ちです。
今や必要とも思えないアベノマスクの466億円といわれる予算を、新型コロナウィルスに命懸けで取り組んでいる最前線に、優先して回すことはできなかったのでしょうか。
不要不急の外出自粛を唱えるなら、不要不急としか思えない何兆円ともいわれるアメリカからの戦闘機や武器の購入を見合わせ、中小企業や個人業者などの救済金に回し、一人の失業者も出さないようにすることはできないのでしょうか。「政治はそんなに簡単なものじゃない」「多面的に考えなければいけないのだから」という声が聞こえてきそうです。
でも、何の罪もない国民が亡くなったり、病院や施設で働く人たちの命が危険にさらされていたり、収入が途絶え、生きる見通しさえ立たなくなっていたりする人たちの命より優先しなければならないことがあるとは、私にはどうしても思えないのです。
4月末のある日、リハビリの最中に激しい雷雨がありました。リハビリが終わって外へ出ると、雨はすっかり止み、目の前に大きな虹が架かっていました。新型コロナウィルス禍を乗り越えて、大きく美しい虹が世界中をまたいで架かる日が、一日も早く訪れますように。
ニューカレドニア……そこはフランス
さて、ピースボートの旅行記に戻ります。
オーストラリア最後の訪問地、ブリスベンに続いて訪れたのが、「天国に一番近い島」として知られるニューカレドニア。正式名称はフランス領ニューカレドニア。1774年にこの島を発見したキャプテンクックが、ローマ帝国時代に「カレドニア」と呼ばれていたスコットランドを思わせる眺めから、ニューカレドニアと名付けたそうです。南太平洋では、ニュージーランド、パプアニューギニアに次いで、3番目に大きな島です。
世界第2位の大きさを誇る珊瑚礁(勿論世界遺産)に囲まれているここには、見どころがいっぱいありそうでしたが、何しろ狭い範囲でしか行動できない私。港のターミナルにたくさん張り出されている現地ツアーの写真や、呼び込みの声に誘惑されそうになりながらも、海外線に沿って周遊している1日中乗り降り自由な「HOP ON HOP OFF」というバスに乗って、「きれい!」と思ったところで降りてのんびり過ごすことに決めました。
バスから見るビーチは、どこも明るい水色で透明度が高く美しい。海岸線に茂る木々の緑とのコントラストが見事です。そんな中でもひときわ木が大きく、日差しを遮ってくれそうな場所を見つけてバスを降りました。
地元の人らしい家族連れが、のんびりランチを広げています。男の子が二人、私たちが木陰に座っているその大木に登って、サンドイッチ(フランス風にカスクート)を頬張っています。どこの国の子どもたちもそうであるように、私たちの方をチラチラ見ながら、得意げに何度も登ったり降りたり。でもここはフランス領。私たちはフランス語が全くわからないので、その得意げな様子にも声を掛けてあげることができません。
しばらくすると小学生ぐらいの女の子が恥ずかしそうに近づいてきて、まだふたを開けていないミネラルウォーターのボトルを黙って私に差し出しました。熱帯の真昼に水も持たずに座っている私を見たお母さんが、分けてあげるように言ってくれたのでしょう。
右半身麻痺の私は、何かを持って歩くということができません。実は夫のボディーバッグにペットボトルを入れていたのです。日本語よりはましかと、“ No thank you. Actually, I have a plastic bottle of water in my bag. Thank you so much.”と、慌てて英語でお礼を言いましたが、女の子は困ったような顔をして、お母さんの所へ駆けていきました。メラネシア系の人でしたが、フランス語なら通じたことでしょう。
さて、そろそろバスに乗ろうかと移動を始めたそのとき、強い風が吹いて、フリーマントルで買って以来、夫が愛用していた例のハットを、吹き飛ばしました。ここは風が強いことでも有名なビーチ。あっという間にハットは、海の中へ。さて、どうするか。こういうときの判断の速さは抜群の夫。海に入っていくのか、何か長い棒のようなものを見つけるのかと、頭の中で考えを巡らせていると、ビーチで遊んでいたティーンエイジャーらしき女の子が、海の中に入るや否や、大きく手をかいて大股でハットに近づき、取り戻してくれたのです。その頼もしかったこと。忘れられない思い出となりました。
ニューカレドニアの歴史が、心に重くのしかかる
出発地点のターミナルまで戻り、今度は歩いて街の中心部にあるココティエ広場へ行ってみました。火炎木が、大きな木陰を作るとともに、真っ赤な花が今を盛りと咲き誇っていました。そんな美しい風景の中で、やはり、メラネシア系らしき子連れのお母さんたちが涼んでいます。でもなぜか、その光景が、私にはどうも幸せそうには見えないのです。
前日の夜、船内のテレビで、先住民の欧化に抵抗した女性の実話を元にした映画を見たからでしょうか。
帰国してから調べてみると、ニューカレドニアの住民は、メラネシア系が約40%、ヨーロッパ系が約20%で、その他はポリネシア系、日系を含むアジア系など。
1853年に、ナポレオンⅢ世によってフランス領であると宣言されて以来、1922年までフランスの流刑地としての役割を果たしてきたニューカレドニア。今も、国連が非植民地化が完了していないと指摘している「非自治地域」です。脱植民地化運動は、1960年代から始まっているそうですが、2018年に行われた住民投票では、独立に反対が56.4%、独立に賛成が43.4%、投票率は81%だったとのこと。今後2022年までに、2回住民投票が行われる予定だそうです。気候や風土の中で長い歴史をかけて育まれた、ニューカレドニアのアイデンティティ(カナック・アイデンティティ)がずっと大切にされ続けますように。
次回は、あと二つの島、ガダルカナルとラバウルで体験したことについて書き進めていきたいと思います。
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