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- クルーズ船の食事と、サポートしてくれた船内スタッフ
2016年、C型肝炎を克服してわずか21日後に脳出血になったharumatiさん。リハビリを重ね、2019年12月から約2か月間のクルーズ旅行に挑戦してきました。今回は、クルーズ船での食事と、スタッフとの心温まる交流についてです。
ステイホームの中で
ステイホーム期間中、できなかったことがたくさんありました。大好きな友人とランチしながらのおしゃべり、美しい季節を味わうための旅行、英会話、朗読のレッスンなど。
その一方で、普段は、見逃したり聞き逃したりしていたこと・物の中に、発見したこともたくさんありました。何気ない場所で、何気なく見ていた、何気ないものの美しさ。できないことが増えたからこそ、感じる力がよみがえったとでも表現すればいいでしょうか。いつも通る道路沿いのお宅の塀を覆うツタの葉の青々とした輝くばかりの美しさ! 毎日、我が家の庭にやってくるウグイスの鳴き声が、心許ない「ホーホケキョ」から、だんだんと力強いものとなり、やがて「ホーホケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ」と、命の輝きに変化していくこと!
いつの日か、コロナ禍が終息する日がやってきたら、元の生活に戻すことを目指すのではなく、コロナ禍の中で気づいたことを生かして、今まで以上に、一人一人が大切にされ、心豊かで、ゆとりある生活ができる社会へと、舵を切っていけたらいいなと思います。
閑話休題、船内生活―船室について
2019年12月に始まったクルーズ旅行は、神戸港を出港してから神戸港に戻るまで、57日間の旅程でした。その内、陸地に降り立ったのは22日。それよりはるかに長い35日間を、船上で過ごしたことになります。その長い船内生活の拠点となるのが、船室です。
乗船すると、すぐに担当の客室係が、部屋まで案内してくれました。部屋に入ると、1週間前に横浜港の倉庫に送っておいた荷物がきちんと運び込まれていました。部屋はこぢんまりしているものの、シャワーブースを備えたバスルームは、十分な広さがありました。夫は早速荷物の中から、私が普段家で使っているシャワーチェアを取り出して、シャワーブースに設置してくれました。その椅子と足湯用にと持ってきた折りたたみ式の大きめのバケツを置いても、十分な広さです。
私はおおいに満足して、スーツケースから衣類を出して、備え付けの引き出しに入れたり、窓辺にスタンド式のカレンダーを飾ったり、サイドテーブルに本を置いたりして、自分好みの部屋をつくっていきました。
そうこうしている内に船は港を離れ、いよいよ57日間の船旅の始まりです。船が港を離れた途端、ワクワクする気持ちとは裏腹に、いきなり予想外のことが起こりました。脳出血の後遺症、感覚障害の壁にぶつかったのです。健常な人なら意識もせずに、自然にコントロールできる程度のほんの少しの揺れにもかかわらず、「立っていられない」「歩けない」という感覚に襲われてしまったのです。これは、全く予想もしていなかった出来事でした。
船は大きいし、揺れにくい装置も付けられているので、よほど海が荒れていない限り、揺れていると感じることもなく、不自由なりにも、歩いたり、体操したりできるだろうと、私は思い込んでいたのです。突然襲われた予想外の試練に「この状態に、57日間耐えられるのだろうか?」と不安がよぎりました。
私たちは、クルーズに申し込むとき、少しでも安く済むように窓なしの部屋にしようかと迷った末、最終的には窓付きのツインルームに申し込んでいました。こんなに歩けないなら、部屋で過ごすことが多くなるかも知れないとわかったとき、つくづく窓付きの部屋にしておいてよかったと思いました。
さらに、体が不自由であることから、メインのレストランがある4階の、エレベーターに一番近い部屋をお願いしていたところ、希望通りの部屋になっていて、このことも本当に助かったと思いました。
私たちの客室係は、エクアドル出身の若い男性。シャワーの出が悪かったり、排水がスムーズにいかなかったりしたときなど、彼に言うと、すぐに修繕担当者を呼んで対処してくれました。毎日のベッドメイキング、部屋の掃除やゴミ捨て、タオルの交換、シャンプーや石けんの補充など、彼のおかげで部屋は清潔に保たれ、毎日が快適でした。
神戸港で下船するときには、宅配で送る荷物をターミナルまで運んでくれました。私たちは、最後に部屋を出るとき、日本のお菓子と折り紙にお礼の気持ちを込めて、テーブルの上にそっと置いておきました。
私の密やかな旅の目的……。夫の食事作りにお休みを!
私が脳出血に倒れてからおよそ3年間、夫は朝・夕の食事作りを欠かさず担当してくれています。途中から週2回の夕食作りに息子が加わり、各種パスタ料理、ハンバーグほうれん草ソテーと焼きプチトマト添え、根菜のカマンベールソース仕立てなど、ワインに合う料理を作ってくれるようになり、その日の夫のうれしそうなことといったら!
「平気、平気、料理って創造的で楽しいね」と、いつも言う夫ですが、病前私が作っていたとき、たまには作らないでいい日があったらなあと、しばしば思ったものです。主婦を何十年と続けていた私でさえそうなのですから、慣れない夫が、毎日のことで疲れないはずがないのです。そういった意味でも、今回の船旅の「全食事付き」を楽しみにしていました。朝、昼、夕の食事はもちろんのこと、モーニングコーヒー、ブランチ、アフタヌーンティーなど、どんな時間でも何かが食べられるようになっているのです。
船内にレストランは3つあったのですが、私たちは、部屋を出てすぐにあるメインレストランを主に利用していました。朝夕の食事時間は、ピアノの生演奏が行われ、静かに食事を楽しめます。朝と昼はビュッフェ形式。夕飯はセットメニューです。
部屋から5mも行くと、レストラン。手すりの付いた階段を10段ほど降りると、レストランのフロアです。普段、家の中では杖なし歩行をしている私ですが、船の中では杖が手放せないため、朝と昼のビュッフェ形式ではトレーを持って移動することができません。夫が片手に一つずつトレーを持って移動しているのに気付いたスタッフが、私のトレーを持ちに来てくれ、杖を突く私と一緒に回りながら、どの料理が欲しいかを尋ねてトレーにのせた器に盛り付け、テーブルまで運んでくれるようになりました。おかげで夫も、気に入った物をゆっくりと選べるようになりました。
主食は、白米・玄米(ブラウンライス)おかゆ・中華おかゆ・パンとそろっています。自宅での朝食はいつもパンの私ですが、ここでは玄米にゆかりをトッピングしたものが気に入り、毎日それを食べました。オムレツもその場で焼いてもらえたので、それも欠かさず食べていました。野菜と果物は、自宅で食べているものと比べると、新鮮さに欠け、種類も少ないのが難点でしたが、毎回量はたっぷりあったので、外食生活にありがちな野菜不足になることはありませんでした。
親切なスタッフに感謝
私がレストランへ行くと、いつも一番に気が付き、トレーを持ってきてくれたのが、ホンジュラス出身のヘイディーでした。地元に小さいお子さんを残して、働きに来ているとのこと。私の好みをすっかり覚えてくれていた彼女でしたが、部署変えになったようでレストランでは見かけなくなってしまいました。そのヘイディーに代わって、親切にしてくれたのはインド出身の若い男性、ジョンソンでした。彼は、どのテーブルなら私がゆっくり食べられるかまで見極めて、食事を運んでくれました。
優しいスタッフのおかげで、私たちは、毎日安心してゆっくりと、朝・昼の食事を楽しむことができました。
さて、どんな料理が出されるのか、楽しみは夕食です。第103回ピースボートのシェフは日本人でしたが、乗客は日本人に次いで中国人が多かったためか、中華料理もよく出ました。私は、普段洋食を食べることが多いのですが、ここでは、特別なパーティのとき以外洋食はあまり出ませんでした。残念でしたが、何日かに一度は美しく盛り付けられた和食らしい和食が出たので、ほっとしました。
乗船して55日目、横浜港入港の前日には、フェアウェルパーテイー(お別れ会)が催されました。洋食にシャンパン、そして、乗客もちょっとおしゃれしてレストランに集合です。
全員が着席すると、スタッフが入り口の階段に勢揃いして、乗客の手拍子に合わせて入場です。そして、ゆっくりと私たちのテーブルの間を回りながら一周。涙ぐむスタッフもいます。私も、ジョンソンの顔を見たときには、思わず涙ぐんでしまいました。本当に、毎日毎日よく助けてくれました。私が疲れのため朝食には行けず、夫が一人で行ったときには、「What did Madame do?(奥様はどうされましたか)」「Is Madame okay?(奥様は大丈夫ですか?)」と、必ず声を掛けてくれたとのこと。優しくて、テキパキとよく動いてくれたスタッフに感謝です。
ラバウルで買ったバナナは?
ところで、ラバウルで買ったバナナですが、きっと熱帯では3日で食べ頃になるのでしょうが、空調された船内ではなかなか変化がみられずハラハラしました。窓辺で日に当てながら待つこと7日間。フェアウェルパーティーの日に見事に黄色くなりました。農薬も防腐剤も使われていないオーガニックのバナナは、ねっとりとしていて甘みが強く、これまでに食べたことのないおいしさでした。親しくなった人たちと分け合って1房完食。いい思い出になりました。
次回は、船内生活第2弾。そろそろこのシリーズも締めくくりにしたいと思います。
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