- ハルメク365トップ
- ハルトモ倶楽部
- 文化部
- 渾身の長編小説『トリ二ティ』
トリニティという言葉を知ったのは、映画『騙し絵の牙』を観た時でした。『罪の声』で知っていた作家・塩田武士さん原作で、大泉洋さんの主演でした。
トリニティとは
映画『騙し絵の牙』の中で、大手出版社のカルチャー雑誌の名が『トリニティ』だったのです。
はたしてどんな意味かと頭をよぎりましたが、そのままになっていました。
今回、再びこの言葉に出会いましたので、調べたら三位一体となっていました。キリスト教におけるかけがえのない物、三位一体とは「父と子と聖霊」だそうです。現代に生きる女性にとっては「仕事・結婚・子ども」でしょうか?
3人の女性の物語
これは1964年に創刊された雑誌『潮汐(ちょうせき)ライズ』(平凡パンチ)の編集部で出会った3人の女性の物語です。
時代の寵児となった人気イラストレーター妙子(大橋歩さん)と、売れっ子フリーライター登紀子(親子三代ライターの三宅菊子さん)と、社員で編集雑務を担当し、編集者にならないかと言う上司からの誘いを断り、寿退社し専業主婦になる鈴子の3人です。
専業主婦は特権階級
「今や専業主婦の比率はどんどん下がっています」と、先日経済アナリストの森永卓郎さんが仰っていました。そして「専業主婦でいられるのは、もはや特権階級です」とまで言い切っています。
非正規雇用社員が増え、女性も働かざるを得ない時代なのです。
この物語は1964年(昭和39年)ですから、前の東京オリンピックが開催された年。その頃専業主婦は、永久就職と言い、鈴子の生き方は当然のように受け入れられていました。それでも、活躍している2人を思うと、鈴子はこれで良かったのかと迷い始めます。
欲張り女とそしられようと、仕事と結婚と子どもを持ったイラストレーターの妙子、仕事と結婚で新しい生き方を示したライターの登紀子、そんな女性たちのそれぞれの苦悩が描かれていて、のめり込んで読んでしまいました。
どんな生き方を選んでも、想像を絶する苦労と努力があり、移り変わっていく時代の中で、失ったもの、得たもの、はたしてどんな生き方をしたら良いのかと、考えさせられました。
作者の窪 美澄さん
フリーランスの編集ライターとして、女性の健康をテーマに、書籍、雑誌などで活躍後、作家としてデビューしました。
2009年『ミクマリ』女による女のためのR-18文学大賞受賞
2011年受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』山本周五郎賞受賞
2012年『晴天の迷いクジラ』山本風太郎賞受賞
2019年『トリニティ』直木賞候補、小田作之助賞受賞
2022年『夜に星を放つ』直木賞受賞
2023年『夜空に浮かぶ欠けた月たち』
数々の賞に輝く窪美澄さんの作品を、秋の夜長にじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。
■もっと知りたい■