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渾身の長編小説『トリ二ティ』

公開日:2024.10.09

トリニティという言葉を知ったのは、映画『騙し絵の牙』を観た時でした。『罪の声』で知っていた作家・塩田武士さん原作で、大泉洋さんの主演でした。

渾身の長編小説『トリ二ティ』
『トリニティ』窪 美澄(新潮社)と自作のレースドール

トリニティとは

映画『騙し絵の牙』の中で、大手出版社のカルチャー雑誌の名が『トリニティ』だったのです。

はたしてどんな意味かと頭をよぎりましたが、そのままになっていました。

今回、再びこの言葉に出会いましたので、調べたら三位一体となっていました。キリスト教におけるかけがえのない物、三位一体とは「父と子と聖霊」だそうです。現代に生きる女性にとっては「仕事・結婚・子ども」でしょうか?

3人の女性の物語

これは1964年に創刊された雑誌『潮汐(ちょうせき)ライズ』(平凡パンチ)の編集部で出会った3人の女性の物語です。

時代の寵児となった人気イラストレーター妙子(大橋歩さん)と、売れっ子フリーライター登紀子(親子三代ライターの三宅菊子さん)と、社員で編集雑務を担当し、編集者にならないかと言う上司からの誘いを断り、寿退社し専業主婦になる鈴子の3人です。

専業主婦は特権階級

「今や専業主婦の比率はどんどん下がっています」と、先日経済アナリストの森永卓郎さんが仰っていました。そして「専業主婦でいられるのは、もはや特権階級です」とまで言い切っています。

非正規雇用社員が増え、女性も働かざるを得ない時代なのです。

この物語は1964年(昭和39年)ですから、前の東京オリンピックが開催された年。その頃専業主婦は、永久就職と言い、鈴子の生き方は当然のように受け入れられていました。それでも、活躍している2人を思うと、鈴子はこれで良かったのかと迷い始めます。

欲張り女とそしられようと、仕事と結婚と子どもを持ったイラストレーターの妙子、仕事と結婚で新しい生き方を示したライターの登紀子、そんな女性たちのそれぞれの苦悩が描かれていて、のめり込んで読んでしまいました。

どんな生き方を選んでも、想像を絶する苦労と努力があり、移り変わっていく時代の中で、失ったもの、得たもの、はたしてどんな生き方をしたら良いのかと、考えさせられました。

作者の窪 美澄さん

フリーランスの編集ライターとして、女性の健康をテーマに、書籍、雑誌などで活躍後、作家としてデビューしました。

2009年『ミクマリ』女による女のためのR-18文学大賞受賞
2011年受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』山本周五郎賞受賞
2012年『晴天の迷いクジラ』山本風太郎賞受賞
2019年『トリニティ』直木賞候補、小田作之助賞受賞
2022年『夜に星を放つ』直木賞受賞
2023年『夜空に浮かぶ欠けた月たち』

数々の賞に輝く窪美澄さんの作品を、秋の夜長にじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。

専業主婦は特権階級
『夜の星を放つ』文藝春秋
専業主婦は特権階級
『夜空に浮かぶ欠けた月たち』角川書店

■もっと知りたい■

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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