映画レビュー|生き様を見る「ケイコ 目を澄ませて」
2022.12.182023年01月21日
憎しみと愛と家族について
【映画レビュー】守るということを考え「ファミリア」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、ジャパニーズ・ドリームを夢見て日本に来た親の世代は夢を掴めず、“よそ者”のレッテルを貼られ、阻害される。そうした容赦ない現実をこれでもかというほどに描く作品。
「ファミリア」
早くに妻を亡くし、山間の町で陶器職人として一人で細々と暮らしている神谷誠治(役所広司〈やくしょ・こうじ〉)の元に、エンジニアとしてアルジェリアに赴任していた息子・学(吉沢 亮〈よしざわ・りょう〉)が一時帰国する。
現地で知り合い結婚した妻・ナディア(アリまらい果)を紹介するためだ。
結婚を機に会社を辞め、父と同じ焼き物の道に進みたいと打ち明ける学に、誠治は次々と同業者が廃業するこの仕事に未来はないと諭す。
一方で、半グレ集団に追われていたところを助けたことがきっかけで、隣町に住む在日ブラジル人の青年マルコス(サガエルカス)や彼の恋人のエリカ(ワケドファジレ)らと親しくなる。
彼らの物語は悲惨だ。
ジャパニーズ・ドリームを夢見て日本に来た親の世代は夢を掴めず、“よそ者”のレッテルを貼られ、阻害される。行き場を失ったら、ただ闇に落ちていくだけだ。この映画はそうした容赦ない現実をこれでもかというほどに描く。
幸せは簡単に崩れ、世の中は暴力にあふれている。努力は結果を約束するものではなく、不条理の前に人はなすすべもない。
けれど、本当に希望の光はないのだろうか。さまざまな大切なものを失った誠治は、赤の他人であるマルコスやエリカを命がけで守ろうとする。
この作品には、「守る」というセリフが多く登場するのだが、自分を犠牲にしてまでも守りたい人がいることは、とても幸運で幸福なことなのである。傷ついた者だからこその“やさしさ”を役所広司は、見事に体現している。
幼馴染の刑事役を演じる佐藤浩市(さとう・こういち)との、言葉に頼らずともお互いの心の内をわかり合えるしんみりとしたシーンがいい。「分断」が世界中で叫ばれる今、考えさせられるところの多い作品である。
「ファミリア」
陶器職人の誠治の元に、アルジェリアに赴任している息子の学が現地で結婚した妻を連れて戻ってくる。そんなある日、半グレ集団に追われていた在日ブラジル人の青年を助け、親交を持つようになる。
監督/成島出
出演/役所広司、吉沢亮、サガエルカス、MIYAVI、佐藤浩市他
製作/木下グループ、フェローズ、ディグ&フェローズ
配給/キノフィルムズ 2023年1月6日(金)より新宿ピカデリー他、全国公開
https://familiar-movie.jp/
今月のもう1本「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
米国の大手新聞社NYタイムズの記者のジョディはハリウッドの大物プロデューサー、ワインスタインが性的暴行事件を何度も揉み消してきた事実を掴むが、被害者は示談に応じており声が挙げられない。
やがて、問題の本質は加害者を守る業界の構造自体にあることを知り、妨害と闘いながらも記事の執筆に踏み切る。「#MeToo」ムーブメントの先がけとなったスクープ記事を書いた女性記者たちの勇気と信念のドラマ。
監督/マリア・シュラーダー
原作/ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー
『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』(古屋美登里訳、新潮文庫)
出演/キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン他
製作/2022年、アメリカ
配給/東宝東和 2023年1月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他、全国公開
https://shesaid-sononawoabake.jp/
■文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2023年2月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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