石見銀山 群言堂・松場登美さんインタビュー【後編】

松場登美さん「心を鈍くしないこと。縁と運は気付く人だけが掴めます」

松場登美さん「心を鈍くしないこと。縁と運は気付く人だけが掴めます」

公開日:2026年05月18日

松場登美さん「心を鈍くしないこと。縁と運は気付く人だけが掴めます」

情報もモノもあふれる時代。だからこそ、人生後半を豊かにするのは“心を鈍らせないこと”なのかもしれません。石見銀山で「群言堂」を育ててきた松場登美さんに、縁や運に気付く感性、“余韻”を大切にする生き方を伺いました。

松場登美(まつば・とみ)さんのプロフィール

1949年、三重県生まれ。81年に夫の実家がある島根県大田市大森町(石見銀山)に帰郷。98年、株式会社「石見銀山生活文化研究所」を設立し、アパレル事業とともに、古民家再生に取り組む。98年に築200年以上の武家屋敷を買い取り、改修に着手。2008年から「暮らす宿 他郷阿部家」として宿泊を受け入れている。

情報もモノも多過ぎる時代に、心を鈍らせない

「今の時代は、何でも過剰なんじゃないかしら」

情報も、モノも、便利さもあふれている今の時代。だからこそ大事なのは、“何を持つか”より、“何に心を留めるか”なのではないか――。世の中のスピードがどんどん速くなるなかで、登美さんは「感じること」を何より大切にしてきました。

「考え過ぎるより、まず感じること。頭で整理する前に、“あ、なんか好きだな”とか、“心が動いたな”っていう感覚を大事にしたいんです」

AIに教わった「100話さない」“余韻”を残す知恵 

AIに教わった「100話さない」“余韻”を残す知恵 

「私ね、昔は完璧主義だったなあって思うんです」

やると決めたことは、とことんやる。思ったことは、きちんと伝える。人にも自分にも、どこか厳しかったといいます。けれど年齢を重ねるなかで、少しずつ考え方が変わっていきました。

「他郷阿部家のお客様と話していると、全部伝えたくて、つい喋りすぎちゃうんです。でも、あるとき“本当に伝わっているのかな”って思うようになって、軽い気持ちでAIに相談してみたの」

返ってきたのは、「100話すのを60で止めてみて。残りは『余韻』で」という言葉でした。

「まさかAIにそんなことを言われるなんて、と思ったけど(笑)、妙に納得してしまって。その人が感じる余白を残しておくほうがいいんだなって」

人の心を本当に動かすのは、“答え”そのものではなく、自分のなかに生まれた感情や感覚なのかもしれない。だから今は、“伝え切らない”ことも大事なんだと肝に銘じているといいます。

センスは磨ける。登美さんの「言葉のノート習慣」

センスは磨ける。登美さんの「言葉のノート習慣」

登美さんには、長年続けている習慣があります。

それは、人との会話や本、映画などで心に残った言葉をノートに書き留めること。ページを開けば、そこにはびっしりと言葉が並んでいます。

「書き留めている言葉は、きっと誰の前にも現れているはず。でも、そのとき“素敵だな”と心に留めたかどうか。そこが違うんじゃないかなって思うんです」

登美さんは、「センスがある人、ない人」がいるとは思っていないといいます。

「センスとは感性のこと。センスがいいとか悪いとかではなく、どれだけ感じる心を敏感にしておけるかということです。

私の場合は、忘れたくない言葉を書き残すうちに、それが少しずつ自分の感性になっていった。琴線に触れる言葉が、だんだん“自分”になっていったと思います」

運と縁を逃さない「敏感な心」の持ち方とは

運と縁を逃さない「敏感な心」の持ち方とは
他郷阿部家の若手スタッフから学ぶことも多いと登美さん

「運や縁ってね、誰にでもあるんですよ」

ただ、その縁に気付くかどうかが大事なのだと登美さんは言います。

登美さんの“言葉のノート”には、徳川将軍家の剣術指南役を務めた柳生家に伝わる、有名な家訓が書き留められていました。

小才は縁に出会って縁に気付かず
中才は縁に気付いて縁を生かさず
大才は袖すり合った縁をも生かす

人はみんな縁に出会っている。でも、それに気付く人は少ない――。

「だからね、心が鈍くなったらだめなんですよ。縁や運は、敏感な心のところにやってくる。そのときに、いい悪いや損得を判断するんじゃなくて、自分の気持ちに素直に、そのまま感じる力を大事にしておかないとね」

好きばかりでは成り立たない。だから人生は面白い

好きばかりでは成り立たない。だから人生は面白い

「好きな生地ばかりを並べるより、そうでもない生地を合わせた方が、かえって引き立ったりするんです」

登美さんは、それを“パッチワークと同じ”だと言います。

「世の中も、自分の“好き”ばかりでは成り立たないもの。だからこそ面白いし、それを楽しめる自分でいたい」

登美さんが自ら暮らし、再生させた宿「他郷阿部家」にも、そうした感覚がそこかしこに生かされています。

他郷阿部家には今も世界中からお客様が訪れ、毎晩、お客様とともひとつの食卓を囲みます。

「そこでいただいた感動を、また次のお客様へ渡していくんです」

人も、言葉も、文化も、つながりながら巡っていく。そんな感覚が、登美さんの暮らしには自然に息づいていました。 

暮らす宿「他郷阿部家」のご案内

暮らす宿「他郷阿部家」のご案内

築237年の武家屋敷を再生した空間で、旅人同士が同じ食卓を囲む「他郷阿部家」。 登美さんの暮らしの美がぎゅっと詰まった空間で、心を満たすリトリートステイをぜひ。

詳細はこちらから>

取材・文=長倉志乃(HALMEK up編集部) 撮影=林 ひろし


HALMEK up編集部
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