【映画レビュー】個性が光る「ダウントン・アビー」
2020.01.182019年10月20日
確執のある母と娘を中心としたファミリードラマ
【映画レビュー】是枝裕和監督の新作!『真実』
50代以上の女性におすすめの最新映画を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督の新作。カトリーヌ・ドヌーヴを主演に起用し、確執のある母娘を中心とした家族の繊細で真実味にあふれた作品です。
是枝裕和監督の新作!カトリーヌ・ドヌーヴ主演の「真実」
「万引き家族」(2018年)でカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞し、日本を代表する監督として押しも押されもせぬ存在となった是枝裕和監督。それから1年、新作はなんとカトリーヌ・ドヌーヴを主演に起用した「真実」である。
フランスのベテラン女優ファビエンヌ(ドヌーヴ)は、新進女優と共演の新作を撮影中だが、一方で初めての自叙伝『真実』の出版も控えている。事前にその中身を知らされていなかった娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)は気になり、「お祝い」にかこつけて、夫(イーサン・ホーク)と娘を連れて、脚本家として活躍しているニューヨークから一時帰国する。
一晩で『真実』を読み終えたリュミールは、その中身にがく然とし、母親に詰め寄る。「本当のことなんて書かれていないじゃない」。そんな娘にファビエンヌは、「真実なんて退屈だ」とうそぶく。果たして、本に書かれていなかった“本当のこと”とは一体なんなのか。
女優のバックステージものであり、確執のある母と娘を中心としたファミリードラマでもあるこの作品は、是枝作品には珍しく、コメディ調だ。ファビエンヌは、言いたい放題で、大女優ならさもありなん、なわがままぶり。観客はフランスの大女優ドヌーヴ本人と嫌でもその姿を重ねてしまう。それを承知で、役を引き受け、コメディエンヌぶりを発揮しているドヌーヴも見事だ。
そんな軽やかな笑いの一方で、交わされる会話の中には、家族の心の機微が描かれる。なによりも女優としての成功を優先し、生きてきた母。その母にコンプレックスを持ち、女優の道を諦め、脚本家となった娘。そして彼女たちを取り巻く、うだつの上がらない男たち。
是枝監督がほとんど単身でフランスに乗り込み、フランス資本で撮ったこの作品は、キャストに日本人は登場しないが、これまでの是枝作品に通じる家族についての繊細で真実味にあふれた物語だった。
女優ファビエンヌは、パリの一軒家に“料理係”でもあるパートナーと住んでいる。そこに米国で脚本家として活躍している娘が家族とともに帰省するが……。
原案・監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ他
製作/2019年、日本、フランス
配給/ギャガ
TOHO シネマズ 日比谷 他、全国公開中
今月のもう1本「第三夫人と髪飾り」
19世紀のベトナムの美しい秘境。ある富豪の家に第三夫人として嫁いできた14歳のメイは、まもなく妊娠する。男児を産んで正真正銘の“奥様”になれることを望む一方、大きな屋敷の中に渦巻く愛、嫉妬、裏切りなどさまざまなドラマを垣間見ることで、人間の業を知っていく。
ニューヨーク大学院の映画科で学んだベトナムの新人アッシュ・メイフェアが、曽祖母の実話に発想を得て書いた脚本を映画化。
監督・脚本/アッシュ・メイフェア
美術監修/トラン・アン・ユン
出演/トラン・ヌー・イエン・ケー、グエン・フオン・チャー・ミー 他
製作/2018年、ベトナム
配給/クレストインターナショナル
Bunkamuraル・シネマ 他、全国順次公開中
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞、webサイトなどで執筆やインタビューを行う他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。共著『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社刊)が発売中。
※この記事は2019年11月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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