「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302024年02月25日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第7期第5回
「100字エッセー」の展覧会
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。今月のテーマは「100字エッセー」。100文字で綴るエッセーを5作書くことに挑戦しました。皆さんが書いた5作の中から山本さんが選んだ1人1作をご紹介します。
100字エッセー
●浅井京子
絵画鑑賞が好き。抽象画は興味がなかったが野見山暁治の、解らなくていい、なにか感じるものがあれば……という言葉を思い出して抽象画も観るようになった。抽象画鑑賞は作品との対話、それは自分との対話でもある。
●荒関幸子
最近めざしているのは、ほんのちょっとかなしい人になりたい、ということ。基本的には明るく元気でいるのだが、通り過ぎたあとに、ふっとほのかにかなしみが香る感じ。どうすればそうなるのか知りたい。
●石川久子
リベンジ・ピアノ。硬くなった指も少しずつ動くようになり順調です。午後のひと時練習を始めると、どこからともなく愛犬ケンタが入ってくる。横のベッドに飛び乗りスヤスヤ。ケンタに励まされて当分続けられそうだ。
●磯野昌子
ディズニーランドに行った。キャストに1人で来たと言うと「おめでとうございます。1人ディズニーのデビューですね」とシールをもらう。おばさんがデビューなんて聞かないが、そんな1枚でもたわいもなく嬉しい。
●いとう きこ
年が明けて、近所のスーパーに買い物に出かけた。顔なじみの店員さんと、年頭の挨拶をする。彼女は父とよく言葉を交わしていた。父亡きあとも笑顔で声をかけてくれる。父が遺してくれたつながりが、今も続いている。
●大井洋子
家の中で一年中草履を愛用している私の靴下の先は猫耳形。干してあると少しカワイイ。足袋形靴下は左右が定まっているので、力の入る親指裏が破れやすい。普通の靴下は知らぬ間に交互にはくので、僅かに破れにくい。
●小田原薫
「カオリッシュ」は夫の造語だ。私の名前薫(かおり)に、~のようなを意味する英語形容詞語尾のish(イッシュ)を付け加える。ほめ言葉でなくとちったりミスした時の使用句だ。言われるとなぜかマイベストお気に入り言葉堂々殿堂入りだ。
●北谷利花
うちの犬。外の小屋で番犬として飼っている。いつもと違う代車を停めておりると、ワンワン吠えてきた。えっ? 私やで? と顔を見せた。しまった! という顔をして、目線をそらす犬。違う方向に吠える。そっちは誰もおらんよ。
●木村明子
夫と映画を見た帰り道、信号待ちで車が渋滞していた。「渋滞してるね。」と私が言うと夫が真っ赤になって大慌て。「どうしたの?」と尋ねると「ずっと愛してる。」と聞こえたらしい。そんなこと言うわけないじゃん!
●久保田道子
とびきり新鮮な大根がやってきた。葉っぱは塩もみツナ炒め。青首はしらすおろし。庭のレモンをジューッとかけて。まん中は季節のぶり大根。しっぽはとん汁の具。皮は細切りキンピラに。大根1本使い切り。気分は○(まる)。
●小林澄江
寒いって疲れるよねと友が言う。ぎゅーっと力を入れて体をすぼめるからだねと私が答える。だから余計にコーヒーが美味しいのかなぁと、カセットコンロで干し芋を炙りながらコーヒーを啜る私たち。冬は静かでいい。
●近藤陽子
朝10時のコーヒータイム。揃いのミントブルーのカップ。夫カロリーゼロの砂糖と牛乳。私牛乳少し。片方に砂糖を入れ冷蔵庫から牛乳を出す。あれ、どちらが砂糖入り? いつもこうだ。そっと一口飲んで確かめる。
●相良章子
居間のカーテンは茶のレースのみ。外が透けて見えるし、外からも中が見える。外犬を飼っている時に、いつも見ていたくてそうしていた。今はもういない……。今だにここだけは厚いカーテンをしたくない、と思う。
●桜井喜美子
70代、まだまだ若年寄りの心意気で、社会と繋がっていたい。何もかも福祉に頼ることはできない。出来ることをする。それが高齢化社会を生き抜く覚悟ではなかろうか。知恵を出し合い生活がよくなるような交際を。
●佐々木はとみ
大掃除。背の低い私は脚立に乗り、手を伸ばし、時には背伸びをする。毎年、もう少し背が高かったらなあと思う。脚立に乗った時には落ちないように気をつけたり、力を入れて拭くために、普段使わない所が痛くなる。
●栞子
毎年自分の中で立てる今年の目標。最近なかなか達成できないでいる。今年こそはと机にむかっていた時、北陸から遠く離れた我が家も大きくゆれた。毎日をあたりまえと思わず大切にすごすこと。これからの大きな目標。
●説田文子
筋トレをして、体を引き締める。頬のホク ロも取ったので、2週間はマスクをして生活する。髪色は元の黒に戻す。着々と準備をするあなたを見ていると、眩しくて胸が苦しくなる。愛しくなる。娘よ、結婚おめでとう。
●竹内恵子
ささいなことで腹をたて、勝手口をあける。夜空に満月とよりそうように一ツ星が輝いている。そんなことで何をいらだっているの、ばかねとさとすように、死んだ母親と友人たちからの伝言のようにきらきら光っている。
●竹野みつえ
北の空に、冬の大三角。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウス。「街灯を手で遮ると、もう少し星々が見えるよ。」そう言って娘が手をかざす。いつか満点の星空を一緒に見たいね。
●玉木裕子
ない、ない、ないよ! 何がないかというと、わたしの「ネタ帖」だ。書くための“ネタ”が書いてある。年末の掃除中どこかに紛れたのか。あれやこれやで大わらわだった。あったー! 犬のゲージの奥の毛布の下。
●千葉絵利子
わが家の猫はもみじとさくら。かまってかまってニャアアアン! のさくらちゃんと、アタシにさわるんじゃない! のもみじ様。ハイ、あまり仲は良くありません。でも、お互いほどよい距離感をちゃんと知っているのです。
●綱則子
名字は綱と書いて「つな」と読む。珍しい名字ではあるが、難しくはないと思っている。が、初めての人は少なからず「あみ」と読む。「なわ」と読んで呼ばれた日には家族で大笑い。全国には790人もの綱さんがいる。
●傳田啓子
畑が白く見えるのは、雪や霜でなく、ビニール ハウスである。2月下旬頃からアスパラやシャクヤクの栽培で、あちこちに増えていく。春が来る前ぶれだ。ハウスがはずれる頃リンゴやモモの花、葉が開き春本番となる。
●富山芳子
庭の一角に毎年夏、こぼれ種でサルビアが咲く。ことしの1月の松の内、早々に花が咲いた。秋にできた種が、土のなかで暖かい冬を春と間違え、急いで芽をだし、寒風に会うこともなく成育したようだ。そうして開花。
●中村清子
ソファーに、スヌーピーの大きなぬいぐるみ。隣には、エクササイズ用のスヌーピーまでいる。結婚の時に、引っ越しの時に、泣きながら沢山のスヌーピーとお別れして来た。それなのに、今もスヌーピーに囲まれている。
●八田りえ子
着物好きの近所のお嫁さんが、蚤の市で古いが未使用の足袋を買ってきてはいてみたら、両方の親指に違和感がした。裏返してみると、小さくたたまれた聖徳太子の1万円札が、両方の親指に押し込まれていたそうだ。
●橋本桂子
公園で、大きな枯葉が重なる中に、直径3cm程の丸い実を見つけた。表面ボツボツ、黄土色。「スズカケノキ」の実だ。昔、修験者が麻の露除け衣に付けた飾り玉と似ている。鈴を掛け、涼しい木陰、名付けセンス抜群ね。
●平野敦子
「香りのある文章を書くこと」と助言を受けた。はぁ、香り、と目を上げたら飛び込んできたのは苺大福の広告。鼻先は苺の香りに包まれたものの、ペンからは一向に。どんな香りでも良いから、一言でもかけますように。
●古谷五月
江戸時代から秘伝で作られている玉虫色の口紅。指か筆を水で湿らせさす。淡いピンクに染まる。重ねるうち鮮やかな赤、やがて輝く玉虫色へと変化する。下唇がほのかに念願の緑色を帯びてきた。一瞬のいにしえびと。
●前田元子
新聞の短歌の投稿欄がいい。事件でなく、事故でなく、日常の情景が描かれていてホッとする。大都会の高層ビルに住んでいて星を眺めている人ってどんな人だろうなどと…… 。日本の隅々にワープして行ってみたい。
●宮本昌子
障子の向こうにヤツデが見える。くっきりと萌黄色の葉を立派に四方八方に広げ、その真ん中に実(果実?)の房が3こ咲ききって(これが花?)。小鳥が夢中でその実を食べている、大急ぎで。この鳥も全き萌黄。
※掲載は五十音順・敬称略
※掲載にあたりルビは()内に記載しています。
※一部の作品は、講師監修のもと加筆・修正を行いました。
山本ふみこさんからひとこと
「100字5本エッセー」の展覧会です。
おたのしみくださいまし。
眉間にしわを寄せ、指折り数えながら100字エッセーをつくるというのは、いただけません。リズムよく、歌詞を書くような感覚で、作品をつくってみてはいかがでしょうか。
100字エッセーをわたしも、皆さんへ贈ります。
朝30分の筋トレとヨガ。わたしとわたしの対話である。「おはよう。よく眠れた?」「昨夜の石狩鍋、おいしかったね」「きょうは忙しいですぞ。心身をほぐして、いざ」毎朝ひとは生まれ変わる。と、思うひととき。(99字)
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年3月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■