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- 医師解説!熟年離婚を急ぐ前にやっておくべき5つの事
老年精神科医として6千人以上の高齢者に向き合ってきた和田秀樹氏。「離婚は自身の幸せのために必要な選択」と説く一方「やみくもに離婚に突き進むのはNG」と注意を促します。そこで、熟年離婚を急ぐ前にやっておきたい5つのポイントについて伺いました。
会話のない家庭内離婚は「脳の老化」を引き起こす
長い間、家庭内離婚や仮面夫婦状態を続けていると、家の中は居心地が悪くなり、確実に心身を蝕んでいきます。深刻なのは、長年夫婦の間に会話がないために、脳への刺激がなくなってしまうこと。特に思考や感情、行動を司る「前頭葉」が衰えてしまい、物事への意欲や行動力が低下するほか、怒りやイライラなどの感情のコントロールがききにくくなる場合もあります。
我慢して一緒に居続けることは、脳にまでダメージを与え続けてしまいます。きっぱりと別れて再出発することも、心身の健康を保つ上で必要な選択の一つだと思います。
熟年離婚する前にやっておきたい5つのこと
これまで多くの熟年夫婦を見てきましたが、「離婚して心が晴れ晴れした」と言う人は少なくありません。特に女性のほうが離婚後、心身ともに元気になるケースは非常に多いです。
とはいえ、やみくもに離婚に突き進んでも、その後の生活が立ち行かなくなるリスクがあることもまた事実。
「相手のことが嫌いではないけれど、夫婦の暮らしに不満やストレスがある」というレベルであれば、今すぐ離婚せず、「つかず離れず婚」(夫婦がほどよい距離感で暮らすこと)を試みたり、「完全別居」したりするという手もあります。
勢いで離婚に踏み切る前に、まずできることや考えておくべき5つのポイントをお伝えします。
【ポイント1】「自分の思い」を書いて整理する
相手に対して不満があるなら、箇条書きでもいいので、具体的に挙げてみましょう。
例えば、「家事をまったくしない」「何かにつけて文句を言われる」「束縛がきつい」「話を聞いてくれない」「浪費癖がある」など、いろいろ出てくるかもしれません。
これらの不満に対して、「この人はこういう性分だから仕方ない」「相手に期待しなければ許せる範囲」だと割り切れるでしょうか。それとも見過ごせないレベルでしょうか。もし見過ごせない場合、どうなったら自分の心が楽になるか、望む状態について考えてみてください。
「せめて自分の身の回りのことは自分でやってほしい」
「日中は相手に断りなく、自由に外出できるようになりたい」
「物を買うのはいいけど、自分のへそくりから出してほしい」など、いろんな要望が出てくるはずです。
「そもそも相性が良くないから、なるべく距離を取りたい」。こうした要望もアリです。
ただ不満を溜め続けるだけだと、悶々としてつらいだけです。心の中の不満を吐き出し、自身の要望や夫婦生活を続ける上で譲れない条件を整理してみましょう。そうして解決に向けて一歩踏み出すだけでも、気持ちが軽くなっていきます。
【ポイント2】「自身の譲れない条件」を伝える
自身の要望や夫婦生活を続ける上で譲れない条件が整理できたら、それを相手に伝えてみてください。
「え? 相手に言うの?」と、抵抗感が出た方。これまでの経験から、「どうせ言っても変わらない」「相手の機嫌を損ねるのが嫌だ」と、はなから言うのを諦めてしまっていませんか。
確かに以前は何を言っても、頑として聞き入れなかったかもしれません。ですが、相手もそれなりの年齢を重ね、この先の暮らしに心細さを感じていることも考えられます。
特に男性の場合は、加齢とともに男性ホルモンが減少し、攻撃性が弱まっている可能性もあります。案外、言ってみたら、素直に受け入れてくれて、こちらが拍子抜けすることも多いものです。
長年、言わずに溜め込んでいる方は、この機会に自分の思いを伝えるチャレンジをしてみてください。面と向かって言えないなら、手紙でもOK。思いを吐き出すだけでも、かなりスッキリするはずです。
そこで相手が怒り出したり、聞き入れてもらえなかったりするときは、離婚も視野に入れて次のアクションを考えましょう。
【ポイント3】プチ家出や別居にトライ
自身の要望や譲れない条件を伝えても変化が見られない場合は、あえて物理的に離れることも有効です。
例えば、少し長めの旅行や実家に帰るなど、「プチ家出」を決行してみるとか。「あなたの行動に変化がないので、少し距離を置いて考えたい」と、別居を言い渡すのもいいでしょう。1か月単位で借りられる「マンスリーマンション」も豊富にあるので、一定期間、別々に暮らすのもおすすめです。
離れている間に、相手の生活がままならなくなって、「やっぱりキミが居ないとダメだ」「自分が悪かった」と、今までのあり方を改善してくれる可能性は大いにあります。
プチ家出や別居によって、自分自身も冷静になれることもメリットです。
「私も我慢しないで、相手に思ったことを言えばよかった」「相手の顔色を気にせず、もっと自由に振舞えばよかった」などと、これまでの自身のあり方を見つめ直すこともできるでしょう。それを家に戻ったときに実践していけば、関係性がうまく行く場合もあります。
逆に、「ひとり時間」を持ったことで身も心も軽くなり、このまま一人で生きていくイメージがはっきりと湧く人もいるかもしれません。その場合は、そのまま完全別居や離婚に向けて歩みを進めればいいのです。自分一人の時間を持ったとき、どういう感覚や心境になるか、内面をじっくり観察してみましょう。
【ポイント4】 異性の友達をつくり、元気になる
パートナーの「ここが嫌だ」「あそこが嫌だ」と、不満のベクトルを相手にばかり向けていると、余計に苦しくなりますし、嫌悪感も募らせてしまいます。
そこでパートナーに向けていたベクトルをいったん外に向けることで、気持ちが楽になることもあります。おすすめは、異性の友達をつくること。これは浮気を勧めているわけではなく、あくまで健全な友達付き合いという意味です。
異性の友達との付き合いは、パートナーや同性の友達にはない独特の緊張感と張り合いをもたらしてくれます。お相手と食事やお茶をしに行くとなれば、ちょっとでも若く見られたいですし、よそ行きの服も着たくなりませんか。すると、気持ちにハリが出る上に、おしゃれや美容にもますます力を入れるようになって、若返りも期待できます。
心も体も元気になれば、パートナーへの不満も多少は目をつぶれるというもの。余裕も生まれ、夫婦関係のストレスも以前ほど感じなくなるかもしれません。
【ポイント5】「離婚後の未来図」を描く
離婚を決意する前に、別れた後の生活設計や経済プランはもちろん、どんな暮らしがしたいのか、未来図を描くことも大切です。
例えば、「1LDKのマンションを借りて、自分好みの部屋で自由気ままに暮らしたい」「やりたかった仕事や趣味の活動を始めて、もっと生き生きしたい」「新しいパートナーをつくって再婚するのもいいかも……」などと、未来を描いてみる。そのときに気持ちがパッと明るくなって、やる気がみなぎるなら、離婚する道は合っていると言えます。
一人で生きていく自分の姿を想像してみて、明るい未来が描けるならいいのですが、そうでないなら、無気力でさみしい老後の日々を送ることになりかねません。経済的にも苦しい状況に陥ることもあります。それなら、わざわざ無理して離婚するまでもなく、「つかず離れず婚」や別居生活を続ければいい、ということにもなります。
未来図を描く手段として、身近に熟年離婚した人がいれば、今どういう暮らしをしているのか話を聞いてみるのもいいでしょう。離婚後の暮らしがより具体的に見えてくるはずです。
一番大切なのは、「どうしたら自分自身が身も心も幸せでいられるか?」ということ。まだまだ長い後半生を楽しく健やかに生きるためにも、じっくりと考えてみてください。
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老年精神科医・和田秀樹氏の著書『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』(KADOKAWA刊)では、70代のみならず、多くの熟年夫婦が幸せな後半生を生きるためのヒントが綴られていますので、ぜひ参考にしてみてください。
和田秀樹プロフィール
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在ルネクリニック東京院・院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わっている。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』(KADOKAWA刊)など著書多数。
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