精神科医・和田秀樹氏に聞く!熟年夫婦の幸せな生き方

医師解説!定年夫婦のイライラ原因は性ホルモンにあり

公開日:2023.05.03

定年夫婦の軋轢は「性ホルモンの差」が原因

シニアの方々を見ていると、女性の方が男性よりもあきらかに元気で活動的に感じられませんか? 趣味のサークルに地域の活動、同世代の女友達との旅行にもどんどん出掛けて、毎日をアクティブに過ごしているように見えます。

一方、男性はどうでしょうか。定年前は、夜は接待や飲み会、休日はゴルフと日々精力的に動いていたのに、リタイアして家に居るようになると、どうも積極的に外に出ていく意欲が衰えているように見えます。

その原因は、毎日の会社勤めがなくなり、張り合いがなくなってしまったからだけではありません。「性ホルモン」にもあるのです。

性ホルモンとは、いわゆる男性ホルモン(主にテストステロン)と、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)のこと。男性ホルモンは、「元気ホルモン」と呼ぼうという医学者もいるほど、性欲やバイタリティを向上させるほか、物事への意欲や好奇心を高めてくれる効果があります。また、「外に向かう力」を生み出すことから、攻撃性が増す一方、社会性を高め、人付き合いを盛んにするようになります。

いわば「活力の源」とも言える男性ホルモンですが、男性は中年期を境に男性ホルモンの分泌量が減少してしまいます。女性は更年期を過ぎると女性ホルモンの値は低下しますが、一方で男性ホルモンの量が増加するのです。

女性は年齢とともに男性ホルモンが増え、男性は減る

女性が年齢とともに元気でアグレッシブになるのは、男性ホルモンが以前より盛んに分泌されているからだと言えます。

「趣味に旅行にと毎日のように外に出ていきたい妻」と、「人付き合いが億劫になり、なるべく家にこもっていたい夫」……。相反する二人が同じ空間に暮らしていれば、余計にストレスが増し、軋轢(あつれき)が生まれるのは当然のことです。

ただ、こうして夫婦の行動パターンに差が出てくるのは、「男性ホルモンの影響なんだ」と理解できると、相手への見方が少し変わってきませんか。多少は優しい目で見られて、イライラが軽減するかもしれません。

定年夫婦におすすめしたい「つかず離れず婚」

気心知れた同級生に再会

定年夫婦のイライラをなくす方法としておすすめしたいのが、「つかず離れず婚」です。これは、夫婦の関係性が近すぎず、かといって遠すぎず、“ほどよい距離感”で暮らすライフスタイルのことです。

仕事をリタイアして24時間、顔を突き合わせることになれば、いくら仲が良くても息がつまりますし、相手の嫌なところも目に付きやすくなります。

そこで、近すぎる夫婦の関係性に一線を引き、一つ屋根の下に暮らす同居人、あるいは友人として相手を捉え直してみる。そうして精神的にも物理的にも適度な距離を置くことで、ストレスを軽減させることができます。

これは、「夫源病」(夫の言動によるストレスが原因でめまいや動悸、不眠など妻の心身に不調をきたす病気)を未然に防ぐことにもつながります。夫源病の最大の薬は、「夫と物理的に距離を置くこと」ですから、夫婦間のストレスをなくすためには、「いかに距離感が大切か」ということです。

究極を言えば、別居するのが一番にも思えますが、そこまででもないという人がほとんどでしょう。そこで今の暮らしを大きく変えることなく、夫婦つかず離れずの心地いい距離感を生み出すための方法についてご紹介します。

【オススメ1】寝室を分けて熟睡しよう

夜中に体の異変があったら……と、同室に寝るシニア夫婦も多いですが、それがかえってストレスの原因になることもあります。

就寝中、相手のいびきや寝返りの振動が気になりますし、人それぞれ快適な温度や電気の明るさも異なりますから、別室に寝た方が確実に睡眠の質が上がります。

特に高齢の患者さんに多いのが、「寝つきが悪くなった」「途中で目が覚めてしまう」という人です。人間は、寝ている間に疲労回復や体内の細胞の再生・修復が行われているので、質の良い睡眠をとることが何より大事です。免疫力の向上につながるので、シニア世代こそ、よく眠れる環境を整えるべきです。

寝室を分けるメリットはまだあります。就寝時間や入眠までの過ごし方を相手に合わせなくていいことです。寝る直前まで好きな映画や読書を楽しむなど、自由気ままに過ごせるのも夫婦別室の醍醐味です。

【オススメ2】  起床と就寝はそれぞれ好きな時間に

仕事を完全リタイアした定年後は、お互いフリーの身ですから、夫婦が同じ時間に起きて、同じ時間に寝る必要はありません。それぞれが思い思いに一日を過ごす方が心身の健康にプラスです。

自分の好きな時間に起床し、朝食も昼食も別々にとるようにする。日中はおのおの自由に過ごして、夕食だけは一緒にとるなど、少しだけでも顔を合わせる時間をつくれば、お互いの様子や状況を把握できます。それによって完全なすれ違いは避けられるでしょう。

ただ、一つ注意してほしいのは、夫婦の起床時間はバラバラでも、「自分の起床時間は毎朝統一する」という点です。

起床時間が異なると、脳内の神経伝達物質、別名「幸せ物質」とも言われる「セロトニン」が減少する恐れがあるからです。セロトニンが減ってしまうと、誘眠物質である「メラトニン」も不足してしまい、睡眠障害を招く可能性もあります。

セロトニンとメラトニンの分泌を促し、快眠につなげるためにも、毎朝決まった時間に起きることがポイントです。

【オススメ3】  毎日の昼食づくりから解放。ランチ外食のススメ

定年後の夫婦にストレスを与えるのが、「毎日の昼食問題」。夫が仕事で居ないときは、前日の夕飯の残りや冷蔵庫にあるものでチャチャっと昼食を済ませていたけれど、夫がいるとなかなかそうはいかないという人も多いものです。

定年後の人生も長いのですから、もう昼食をどうするかでやきもきするのはやめにしましょう。昼食は各自自由にとる。私のイチオシは「ランチ外食」です。家事の面倒から解放されるのはもちろん、毎日外出することになるので自然と足腰を使うようになるからです。

さらに健康上のメリットとしては、外に出て日の光を浴びることで、脳内の「幸せ物質」である、「セロトニン」が分泌されやすくなるという点です。

加齢とともにセロトニンは減少していくため、そこに対抗するためにも積極的に日の光を浴びて、分泌を促すことが大切です。日中、おいしいランチで満たされた後、散歩をするとセロトニンがたくさんつくられ、気分も明るくなります。

毎日新しいお店にチャレンジすれば脳に刺激が加わり、前頭葉が活性化するという恩恵も得られます。なかなか外に出掛けたがらない夫には、「外にランチに出掛けると、脳が活性化するらしいわよ」などと、やる気を促すのもいいかもしれません。

【オススメ4】 家事も定年退職しよう

仕事をリタイアしたのですから、家事も定年退職しても良いのでは、というのが私の考えです。これまで家事をしてこなかった夫に一から教えて分担するのもいいですが、いっそ家事自体を手放してしまうのもアリです。

例えば、忙しい共働きの子育て世代に人気の「時短家電」。床の掃除や水拭きをしてくれる「ロボット掃除機」や、材料を入れるだけで、手の込んだ煮込み料理まで勝手に調理してくれる「電気圧力鍋」などを取り入れれば、面倒な家事から解放されます。

むしろ、家電の操作なら夫の方が得意なことも多いでしょう。「家電の扱いが苦手だから助けてくれる?」と頼ってみると、張り切って家事をこなしてくれるかもしれません。

家事の負担を一気に減らしたいなら、「家事代行サービス」を利用して、人の手を借りるという選択肢もあります。食事づくりから、掃除、洗濯と家事全般を担ってくれますが、「料理のつくり置きだけ」「浴室の掃除のみ」というように、自分の希望に合わせてスポット的に依頼することもできます。

プロに頼むと、「こんな調理の仕方があるのか!」と新たな発見があったり、部屋を隅々まできれいにしてもらえたりと、生活の質が上がって気分も上がります。何より家事から解放され、夫婦間のいざこざやストレスがグンと減ります。

定年後こそ、家事の断捨離を。この先の老いへの備えとしても役立ってくれるでしょう。

【オススメ5】 壁掛けカレンダーで外出時のストレスをなくす

夫婦間で地味にストレスになるのは、出掛けるたびに「どこに行くのか?」「何時に帰ってくるのか?」と聞かれることではないでしょうか。妻も夫にそう言われたら嫌ですが、夫もいちいち詮索されたくないものです。

ただ、外出先を詮索されたくないとはいえ、安否確認のためにも、お互いの予定を把握しておきたいという夫婦も多いでしょう。そこでおすすめしたいのが、大きめの「壁掛けカレンダー」です。

カレンダーを見やすいところに設置して、日付の下にお互いのスケジュールを書き込むようにします。例えば、「5時出発 ゴルフ」「11時~ランチ&歌舞伎」「〇月〇日~△日まで 箱根旅行」というように、出掛ける時間や目的を書いておけば、「この日のご飯は用意しなくてOK」とか「各自で食べるようにしよう」などと、前もって心の準備ができます。

自分の予定は書いておきさえすれば、相手の了解を得なくても自由に出掛けることにしていい。そんなふうに新たなルールをつくってみるのはいかがですか。そうすれば、気兼ねなく外出ができるはずです。

お互いにどんどん先の予定を書き込んで、楽しい予定でいっぱいにしてください。毎日にハリが出て、心身ともに若々しくなるでしょう。

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『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』

 老年精神科医・和田秀樹氏の著書『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』(KADOKAWA刊)では、70代のみならず、多くの熟年夫婦が幸せな後半生を生きるためのヒントが綴られていますので、ぜひ参考にしてみてください。

和田秀樹プロフィール

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在ルネクリニック東京院・院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わっている。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』(KADOKAWA刊)など著書多数。

ハルメク365編集部

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