アメリカの医療費の仕組みとは?

2020年03月14日

医療や健康保険の自由化は危険!

風邪で数万円!アメリカの医療費の仕組みとは?

アメリカ・ニューヨーク州に在住のライター黒田基子さん(60)が、アメリカの暮らしを伝えます。2020年インフルエンザの流行で1万人を超える人が亡くなっています。その背景には、個人破産の一番の原因にもなっているほど高い医療費があるんです。

盲腸程度でだいたい100万円から350万円!?

個人破産というとクレジットカードの乱用といったイメージがありますが、アメリカの個人破産の一番の原因は医療費なのです。アメリカの医療費の高さは日本人の想像を遥かに超えています。

わかりやすいように日本円に換算すると、風邪で医者にかかっただけで数万円、ER(=emergency room、緊急医療センター)に行けば10万円以上。入院は1泊当たり20万円から30万円。これは素泊まりの料金で、手術なら盲腸程度でだいたい100万円から350万円。重篤な疾病なら1000万円を超えることも珍しくありません。薬価も世界一高額で、カナダでは3千円前後のインシュリンがアメリカでは3万円以上したりします。自由競争こそ最良とする市場原理主義のアメリカには、政府による薬価や医療費の規制がないからです。

アメリカに国民皆保険はない

アメリカに国民皆保険はない

「保険はきかないの?」と思われるかもしれませんが、保険がきくかどうかは、払っている保険料次第です。アメリカには日本の社会保険や国民健康保険のような皆保険制度がありません。

大多数の国民は、民間の保険会社が営利目的で販売している健康保険に頼っています。民間の商品ですから何をどの程度カバーするかは千差万別で、保険料が高いほどカバー範囲も広くなります。保険料も日本のように収入スライド制ではありませんから、高収入だろうが低収入だろうが価格は同じ。

それでも65歳以上には高齢者用の政府の医療保険(medicare)があるのでまだましですが、問題は64歳までです。保険料は州によって大きく異なりますが、たとえば、比較的恵まれているニューヨーク州で個人で健康保険に加入すると、2020年度の一番安い健康保険は月々一人あたりの掛け金が約400ドル以上。

しかし、この一番安い保険には一人あたり4000ドルを超える足切り額があります。つまり月々約4万円も払った上に、医療費が4000ドルに達するまではすべて自己負担です。これでは健康保険があってもめったなことでは医者にかかれません。ちなみに足切り額のない最も高額な保険になると、月々の一人あたりの掛け金は1300ドルにもなります。※2020年3月時点

オバマケアでまだましにはなったけれど

アメリカの医療

世界の先進国が次々と公的保険制度を整えていく中、アメリカにも皆保険制度を作ろうという試みはこれまで何度もありました。が、アメリカ人の自由市場への信望と、利権を守ろうとする保険・医療業界のロビー活動によって、ことごとく失敗してきました。初めて一歩前進したのがオバマケアで、健康保険市場に規制や低所得者への補助金制度が導入されたぶん、これでもまだましになったのです。

すでにアメリカの医療制度は解きほぐしようがないほどに利権が複雑に絡まり合ってしまっています。まさに地獄の沙汰も金次第。医療や健康保険の自由化がいかに危険なものかはアメリカを見ればわかります。恵まれた健康保険制度を持つ日本が、この先アメリカのようにだけはなってほしくない、というのが切なる願いです。

2020大統領選の争点も、医療費

アメリカホワイトハウス

2020年3月現在、大統領選に向けてトランプに対抗する民主党候補を決める予備選挙が行われていますが、その最大の争点が健康保険。

アメリカ以外の先進国すべてが導入している、国民皆保険制度を導入することに反対するアメリカ人というのは驚くほど多いのです。最大の理由は、今加入している保険を手放したくないから。もっと悪くなるんじゃないか、っていう不安です。

いや、今あなたや私がもってる健康保険って、“最初の40万円までは自己負担”とか、世界から見れば最低な保険ですから。民間の保険会社が莫大な利益を出してるってことは、それを私たちが払ってるんですから。頼む、目を覚ましてくれ! と言いたいです。

 

※この記事は、雑誌「ハルメク」の記事を再編集しています



黒田基子さんのブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治

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黒田基子
黒田基子

くろだ・もとこ 1960(昭和35)年、東京生まれ。ライター。88年よりアメリカに留学し、30年近くニューヨーク郊外で暮らす。ブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治https://nyqp.wordpress.com/

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