映画レビュー|「52ヘルツのクジラたち」
2024.02.282019年09月10日
女性指揮者、アントニア・ブリコの感動の半生
【映画レビュー】女性指揮者『レディ・マエストロ』
50代以上の女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの半生を描いた『レディ・マエストロ』。さまざまな困難と向き合う女性にぜひ見ていただきたい作品です。
『レディ・マエストロ』
この100年の間、女性はさまざまな職業に進出し、閉ざされた道に活路を見出してきた。音楽界で最も難関の一つは、おそらく指揮者だったのではないだろうか。
本作は、女性指揮者のパイオニアといわれるアントニア・ブリコの半生を描く伝記映画だ。1926年のニューヨーク、オランダからの移民の彼女は、“ウィリー”と名乗っていた。ゴミ収集の仕事をする両親との貧しい暮らしながら、指揮者になる夢を見て、音楽学校へ通う資金を貯めるため、クラブでピアノを弾く。なんとか進学のめども立ち、裕福な音楽家の恋人もできた矢先に、自らの出生の秘密を知る。
本当の母親を探して、オランダへ渡ったウィリーは真実を突き止め、アントニア・ブリコという本名を名乗ってベルリンで指揮者の道を歩むことになる。
友人や恋人と離れ、一人精進するブリコの核にあるものは、音楽への情熱だ。何かを求めたら、何かを犠牲にしなければならない。師と仰ぐ音楽家から学んだ教訓を胸に、女性指揮者という前人未到の茨の道を進む。
クリスタン・デ・ブラーン演じる、鼻っ柱が強く頑固なブリコは、ときに無謀ともいえる行動に出るが、その信念は周りの人も動かす力を持っている。友人も恋人も、場合によっては敵さえも、彼女の情熱を認めざるを得ない。おそらく、壁を打ち崩して何かを先に進めるパイオニアとは、こうした並々ならぬ情熱を持った人のみが成し得るのだろう。
ブリコは、女性指揮者として注目のデビューを飾った後、ニューヨークに凱旋するが、ここでもまた困難が待っている。簡単なハッピーエンドなど存在しない。常に、壁は立ちはだかり、それを一つ一つ克服していく、彼女の不屈の精神と生き様はあっぱれで、観るものを勇気づけてくれるだろう。
監督・脚本/マリア・ペーテルス
音楽監督/ステフ・コリニョン
出演/クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド 他
製作/2018年、オランダ
配給/アルバトロス・フィルム
9月20日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 他、全国公開
今月のもう1本『今さら言えない小さな秘密』
フランスの小さな村で自転車店を営んでいるタビュランには家族にも内緒にしている小さな秘密があった。ある日、村に引っ越してきた写真家が村で有名な急斜面をタビュランが自転車で下る写真を撮りたいと言いだす……。
フランスの国民的作家、ジャン=ジャック・サンベのベストセラーの映画化。南仏の美しい風景とほのぼのとしたメッセージに勇気づけられるハートウォーミングな寓話。
監督・脚色/ピエール・ゴドー
原作・脚色協力:ジャン=ジャック・サンペ『今さら言えない小さな秘密』(荻野アンナ訳/ファベル刊)
出演/ブノワ・ポールヴールド、スザンヌ・クレマン、エドゥアール・ベール
製作/2018年、フランス
配給/セテラ・インターナショナル
9月14日(土)より、シネスイッチ銀座 他、全国順次公開
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞、webサイトなどで執筆やインタビューを行う他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。共著『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社刊)が発売中。
※この記事は2019年10月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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