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- 元NHKアナが語る「豊かな第二の人生の作り方」
NHKの元アナウンサーが50代で退職し、医療福祉の現場へ。さまざまな壁を乗り越えて「第二の人生」を実現させた内多勝康(うちだ・かつやす)さんをお招きし、「第二の人生の作り方」について伺うお話会をオンラインで開催しました。
第二の人生、どうする?
子育てや仕事がひと段落した後にやってくるセカンドライフ。第二の人生では、社会のために役立つ活動に携わりたいと願う人も多いのではないでしょうか。 そんな第二の人生を歩む人と言えば、元・NHKアナウンサー、現・医療型短期入所施設「もみじの家」ハウスマネージャーの内多勝康さん。過去ハルメクWEBでもその姿をお伝えしたところ、とても大きな反響がありました。
内多さんは53歳にして会社を辞め、福祉業界へと大転身。第二の人生を歩み始めました。今回のお話会では、その決断までの道のりと、その後に歩む「誰かの力になる、第二の人生」をどのようにして作っていくかを伺いました。
元NHKアナウンサー内多勝康さんのプロフィール
1963年、東京都生まれ。東京大学卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局。「首都圏ニュース845」「生活ほっとモーニング」のキャスターなどを務める。50歳を目前に専門学校へ入学し、2013年社会福祉士の資格を取得。2016年NHK退局後、東京都世田谷区にある国立成育医療研究センターの「もみじの家」(医療型短期入所施設)ハウスマネージャーに就任。
著書に『「医療的ケア」の必要な子どもたち─第二の人生を歩む元NHKアナウンサーの奮闘記』(ミネルヴァ書房)
内多勝康さんが福祉の世界に飛び込んだきっかけは
内多勝康さんは「首都圏ニュース845」や「生活ほっとモーニング」などのキャスターも担当する、NHKの人気アナウンサーでした。そんなアナウンサー時代から、内多さんは福祉業界の取材を続け、時に企画や番組制作にも携わっていたのだそうです。
取材を通じた出会いをきっかけに、「福祉について系統的に学びたい」という思いが芽生え、社会福祉士の資格取得を目指し専門学校に入学。このとき内多さんは48歳、名古屋に単身赴任中のことでした。
専門学校での学びの中で、内多さんの心に残ったのが「ソーシャルアクション」というキーワードでした。「ソーシャルアクション」とは、目の前にいる困りごとを抱えた人への個別支援だけではなく、その人の困りごとを生み出している社会構造そのものへ働きかけること。行政などに自ら働きかけて、制度や環境を作り上げていくことが社会福祉士の使命なのだそうです。
専門学校での学びを経て、50歳で社会福祉士の資格を取得した内多さん。当時は「定年後に、福祉の仕事ができれば」と考えていたそうですが、そのチャンスは思ったより早く巡ってきたのでした。
第二の人生として選んだ「もみじの家」
内多さんが52歳のとき、国立成育医療研究センターに新しく併設される「もみじの家」のハウスマネージャーへの誘いがありました。 もみじの家とは、医療的ケアを要する子どもたち(=医療的ケア児)を数日間、施設のスタッフに託すことができる「医療型短期入所施設」。
そんなもみじの家の理念は、「重い病気を持つ子どもと家族の一人一人が、その人らしく生きることができる社会を創る」。そして、それを実現するためのミッションが、「重い病気を持つ子どもと家族に対する新しい支援の仕組みを研究開発し、全国に広める」。内多さんはこの理念とミッションを聞いて、「ここで働くということは、まさにソーシャルアクションになる」と感じたのだそうです。
もみじの家のハウスマネージャーになるということは、NHKで積み上げてきたキャリアを断つということです。生活も変わり、お金の問題もあります。それでも福祉を学びながらソーシャルアクションを志していた内多さんは、30年間積み上げてきた自分の世界を一度壊して、もみじの家で働くことを選んだのでした。
第二の人生を考えるときのポイント
「誰かの力になる、第二の人生」の作り方について、内多さんに大事なポイントを4つご紹介いただきました。
第二の人生を考えるポイント1:意思はあるか?
一つめが「意志はあるか?」ということ。心の声に耳を傾けて、自分の一番大事にしているものは何だろう? と自問自答する時間を持つことが重要です。
第二の人生を考えるポイント2:実行できるか?
次に「実行できるか?」ということ。ただ思っているだけでは何も変わりません。年を重ねるごとに動くのがおっくうになってくることはよくありますが、それでも実行できなければ意味がないのです。
第二の人生を考えるポイント3:目的を絞り込む
3つめは「目的を“絞り込む”」こと。「社会貢献したい!」と思ったときに、「誰のために?」「何のために?」「どうやって?」「何ができる?」と、具体的に一つずつ言葉にしていくこと。内多さんの場合は「医療ケア児のために」「家族の幸せのために」「ハウスマネージャーとして」「情報発信ができる」。人生のベクトルをつくるときには、言葉にしてはっきり輪郭をつくることは大切です。だんだんとやるべきこと、行くべきところが見えてくるはず、ということでした。
第二の人生を考えるポイント4:何をしたいか周りに発信する
最後に、「何をしたいかを声に出す」こと。声に出すことで目標が明確になっていきます。そして、言った以上はやらざるを得なくなる。自分の希望を周りの人々に知ってもらえ、情報が集まりやすくなる。
チャンスが巡ってくる確率が高くなる……などと、いいことづくしです。内多さんもNHK在職時から、定年後の福祉への思いを口に出していたそうです。「正直な思いをさらけ出すのは恥ずかしいという気持ちもわかります。そんなときには、例えば酔った勢いで話してみることもおすすめです」とのことでした。
「『誰かの力になる、第二の人生の作り方』とありますが、その誰かはどこにいて、どこに行けばその人の力になれるのか。そして自分は誰の力になりたいのか。みなさんにとっての誰かを探してほしい」と、内多さん。その「誰か」を見つけることで、人生がより実りのあるものになることでしょう。
イベント参加者から寄せられた質問
お話会の中では、参加者のみなさまから寄せられた質問にもお答えいただきました。
Q.資格を持たない50代後半でもできる仕事や支援はありますか?
お住まいの地域と、「医療的ケア」「障害福祉サービス」などのキーワードを合わせて検索すると、地域の施設が出てくるはずです。そのような施設はすべからく人不足。見学したり、肌に合うかを考えたりした上で「サポートしたい」と申し出れば、いろいろな可能性があるはずです。ぜひ調べていただければと思います。
Q.行き詰まったとき、どのように克服しましたか?
転職して1年目は何度も行き詰まりました。何も知らない業界に飛び込んでみると、うまくいかないことや「自分は役に立たないな」と思うことは多かったです。そんなときに思い出したのが、登山家・田部井淳子(たべい・じゅんこ)さんの言葉でした。 「一歩一歩、歩いていけば、必ずゴールにたどり着きます」。 NHK時代に田部井さんと共に登山するロケを行った際、天気の急変などで撮影が思うように進まないときにもらった言葉でした。
正直当時はぴんと来なかったのですが、転職後にじわじわと効いてきました。 多くの問題が降りかかったとき、いっぺんに片付けようとすると苦しくなります。優先順位をつけた上で、残りはいったん置いておき、まずは一つ一つ進めていくこと。周りからのプレッシャーに、自分のペースをかきみだされないことが大切ですね。
Q.周りと意見が対立したとき、どうしていますか?
人が集まったときに、お互いに何の疑問やわだかまりもなくゴールすることを目指すとしんどくなります。いろんな人間が一緒になっているのだから、100%わかり合えることはありません。
「今日もうまくいかなかった、わかり合えなかった」と思わず、それを当たり前と思うことです。そして、うまくいったときには「今日はいつもより話が通じたな」と考えることで、自分に対する評価も高まり楽になります。
ただ、あまりトラブルが続くようなら誰かの助けを借りることも大切。自分で解決できるのが理想ですが、難しいときには上手にサポートを受けられるとよいですね。
Q.目標に向かってモチベーションを維持するコツは?
自分の目標を遠くに設定し過ぎず、がんばればできるところに設定することです。 僕の転職当時の目標は「エクセルとパワーポイントを使えるようになる」。その後、広報的な戦略やブログの書き方の習得などと目標が広がっていきました。 ここ最近の目標は、「行政に向けて、制度を充実させてほしいという要望を出す」ということでしたが、今年度の障害福祉サービスの報酬改定でひとまずゴール。次なる目標は「もみじの家の輪を全国に広げていく」です。
最初からこのような大きな目標をかかげると、「エクセルもパワポもできない人間が何を言っているんだ」となりますよね。まずは目の前のことをクリアして、徐々に自分の可能性を広げていくことが、目標に到達する一番の近道だと思います。
取材・文=島仲こすも(ハルメクイベント)
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