「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302024年10月31日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第9期第1回
「シオカラトンボ」横山利子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第9期1回目のテーマは「塩」。横山利子さんの作品「シオカラトンボ」と山本さんの講評です。
シオカラトンボ
もうすぐお昼、スーパーに行こうかと家を出た。隣家まで歩いたその時、目の前をすっと青いトンボが横切った。「あっ、シオカラだ!」
嬉しくなり目で追ううちにいなくなってしまった。この辺りは住宅地、近くに山はあるが田んぼも畑も無い。川も流れていない。シオカラトンボが飛ぶなんて珍しい。子どもの頃のことが次次に浮かぶ。
私の生まれ育った所は山に囲まれた集落、真ん中を川が流れ、その両側を鉄道線路と国道が通る。そしてわずかな平地には水田と畑と民家が点在する。生家では商売をしていた。水田は無い。父方の本家には水田があり3世代で農業をしていた。
本家には小さい子はいなかった。大人ばかりの中で私はずいぶん可愛がられた。学校から帰るとカバンを放り投げて本家に遊びにいく毎日だった。私は本家が好きだった。庭には色色な木が植えてあり、どんな花が咲くのかを知った。おじいさんに聞いた木の名前を今でも折にふれ思い出す。
夏になると庭隅にはピンクと白の花がいっぱい咲いた。私はそのやさし気な花が好きだった。周囲の田んぼの稲がぐんと伸び、トンボが飛び交う。田の畔を虫取り網を振り上げながらトンボを追いかけた。赤トンボや普通のトンボは容易に捕まえられるのにシオカラトンボには逃げられてしまう。素早く田んぼの方に逃げるので捕まえるのがむずかしい。くっきりとした青い色で力強く飛ぶトンボは美しかった。
4、5日経って裏庭で草取りをしていたらまたシオカラトンボがきた。2匹も。ゆうゆうと飛んでどこかに消えていった。
しばらくぼおっとしていたが、トンボのことについて何か調べてみようとスマホを取り出した。
それによると、今飛んでいった青いトンボはシオカラトンボのオスで、メスは麦藁色で普通に見るムギワラトンボだという。これにはビックリ。オスとメスがこんなに違うなんて。今まで知らなかったことにも驚いた。
「なんでシオカラトンボと呼ばれるの?」
オスの腹部を覆っている白っぽい粉が塩のように見えるからとあった。
山本ふみこさんからひとこと
「塩」でない題材が描かれていることに、ほっとしました。
なぜと云って、もうもう塩(NaCl)ばかり味わって、口のなかがしょっぱくなっていたからです。
そうしてシオカラトンボが登場して、わくわくしました。
その視点に、拍手。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
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