尿もれの症状が悪化したら、手術の検討を

尿漏れ・頻尿・骨盤臓器脱の治療法と手術方法を解説

公開日:2020.02.07

更新日:2023.12.05

50歳以上の女性に目立つのは、くしゃみをしたときなどに尿がもれる「腹圧性尿失禁」タイプ。「日常生活に支障をきたしている場合は、手術を検討しましょう」と尿もれ治療のスペシャリスト、亀田総合病院の野村昌良さん。治療法と手術方法を解説します。

尿もれ・頻尿のタイプ別治療法と手術方法を解説
尿もれ・頻尿のタイプ別治療法と手術方法を解説

教えてもらった人

亀田総合病院ウロギネコロジー センター長 野村昌良さん

 

亀田総合病院ウロギネコロジー センター長
野村昌良さん

のむら・まさよし 専門はウロギネコロジー(尿失禁、骨盤臓器脱の手術)。産業医科大学卒業。産業医科大学泌尿器科助教などを経て、2014年から同職。欧米で骨盤臓器脱腹腔鏡手術の研修を受け、技術を研鑽。女性骨盤底医学会幹事。

2つのタイプがある「尿トラブル」

   

腹圧性尿失禁タイプと切迫性尿失禁の違い

尿漏れと頻尿といった尿トラブルは、大きく2つのタイプに分けられます。

50歳以上の女性に目立つのは、くしゃみをしたときなど、腹圧がかかったときに尿がもれる「腹圧性尿失禁」タイプ。出産や加齢で、尿道が緩み、閉まらない水道の蛇口のようになっていることが原因です。もう一つは、急に尿意をもよおし、尿をもらしてしまう「切迫性尿失禁」タイプです。

尿もれ治療のスペシャリスト、亀田総合病院ウロギネコロジーセンター長で、泌尿器科医の野村昌良(のむら・まさよし)さんは、「腹圧性尿失禁タイプで、週に数回尿がもれる場合は、医療機関を受診します。症状が重度になり日常生活に支障をきたしている場合は、手術を検討しましょう。切迫性尿失禁タイプの場合は、薬治療が中心。まずはお薬で治療します」と話します。

「治療は、1枚50円程度の尿もれパッドが不要になる経済的メリットも大きいはず。生理用ナプキンを使う人もいますが、尿の吸収が悪いので衛生的な観点からおすすめしません」と野村さん。

腹圧性尿失禁の手術にはTVTとTOTの2種類があり、どちらも骨盤内にメッシュ状のテープを入れて尿道を支えます。違うのはテープを通す場所です。

腹圧性尿失禁の手術方法2種とその違い

TVT手術

●TVT手術

TVT(Tension-free Vaginal Tape)手術では、局所麻酔をし、下腹部の左右2か所(各3mm)と、膣壁を1cm切開。膣壁からメッシュテープを入れて、尿道の下を通して足の付け根から出し、尿道を支えます。手術時間は20分程度。医療保険の対象。

TOT手術

●TOT手術

 TOT(Trans-Obturator Tape)手術では、局所麻酔をし、足の内股付け根の左右2か所(各3mm)と膣壁を1cm切開。骨盤の骨の穴(閉鎖孔)から坐骨の裏にメッシュテープを通し、尿道を支えます。手術時間は20分程度。医療保険の対象。

一般的に、TOTの方がテープを通す場所に臓器がないため安全性が高いとされます。しかし手術をする医師の技量の差が大きく、野村さんによると数パーセントの確率で、おなかに外陰部に重い痛みが残る後遺症が出る報告もあります。「重症な人は、尿道を支える力が強いTVTの方がよいともいわれています」(野村さん)

どちらの手術を選ぶかは、症状や執刀医の技術によるところがありますので、主治医と話し合い、自分に合った手術法を選択しましょう。

骨盤臓器脱の治療法

骨盤底筋の緩みが進行すると、膀胱や子宮、直腸などの臓器が支えきれなくなり、膣から臓器がはみ出る「骨盤臓器脱」を招きます。

膣のあたりに違和感がある、膣からピンポン玉のようなものが出てきた、下着に何かが触れて出血するなどの場合は、「骨盤臓器脱」が疑われます。放置すると、下がった臓器によって尿が出にくいなどの尿トラブルを引き起こすことも。

軽度の骨盤臓器脱なら、リングという装具を自身で着脱し骨盤底筋トレーニングをしっかり行えば、症状は改善します。しかし重症なら手術が必要です。

骨盤臓器脱の最も標準的な手術は、TVMと呼ばれるハンモック状のメッシュシートを骨盤底筋の上に敷く手術。再発率が3~5%と低いのが特徴です。

最近はTVMに代わり、膣を切らない最新式の腹腔鏡手術が人気です。「再発率も1%以下で効果的な手術です。私は約2000例の手術を経験しましたが、最も体に優しい治療といわれています」(野村さん)

野村さんは「肥満解消が尿もれや骨盤臓器脱の症状を軽くすることもあります。手術前にダイエットを実践するのも有効でしょう」と話します。

骨盤臓器脱の手術方法

TVM手術

●TVM手術

TVM(Tension-free Varginal Mesh)手術は、骨盤底筋の内部にメッシュシートをハンモック状に敷いて、臓器を支えます。膀胱瘤は膣の前に、子宮脱や直腸瘤は膣の後ろにメッシュシートを敷きます。手術時間は1時間半程度。医療保険の対象。

腹腔鏡手術

●腹腔鏡手術

「腹腔鏡手術」は、膣を切らない骨盤臓器脱の治療法として注目を集めています。全身麻酔をし、腹部に4か所、5mmの小さな穴を開けます。そこから腹腔鏡という小さなカメラ付きの医療用器具を入れます。腹腔鏡で直腸と膣壁の間をはがし、メッシュシートで子宮を包みます。そのメッシュシートを吊り上げて、背中の骨である仙骨の最適な位置に固定します。手術時間は2時間程度。2014年から医療保険の対象手術になっています。詳細は下部の亀田総合病院の電話・メール・ファクス相談へ。

ウロギネコロジーとは?

医者

ウロギネコロジーは、泌尿器と婦人科系、直腸肛門などの女性のデリケート部の悩みを総合的に診療する診療科のこと。泌尿器科の英語、ウロロジーと、婦人科のギネコロジー、直腸肛門外科のコロレクタルサージェリーを合わせた造語で、亀田総合病院の他にも、徐々に設置が進んでいます。インターネットで検索してみましょう。

●亀田総合病院の電話・メール・ファクス相談
尿もれや骨盤臓器脱の一般的な悩みや手術などの相談に応じてくれます。
☎ 04-7099-2344
相談日時はUrogyneネット/ウロギネねっと(http://urogynenet.com)で随時、更新。野村さんに、メール(soudan@urogynenet.com)やファクス(04-7099-1198)で直接相談もできます。

●排泄の困りごと110番
NPO法人日本コンチネンス協会が、尿もれや便失禁など排泄全般に関する悩み、受診先などの相談に応じてくれます。
☎ 050-3786-1145
日・木 10:00~16:00

取材・文=清水麻子 イラストレーション=日の友太 ※この記事は、雑誌「ハルメク」の記事を再編集(2020年2月公開)しています

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