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- 政治哲学者ハンナ・アーレントの「問い続ける力」
「ハルメク」でエッセイ講座などを担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回はドイツ出身の思想家で政治哲学者であるハンナ・アーレント。山本さんが感じる、大切で身近な死者との読書と通じての対話とは。
好きな先輩「ハンナ・アーレント」さん
1906-1975年 政治哲学者
ドイツ生まれ。社会民主主義者のユダヤ人家庭で育つ。ハイデッガー、フッサール、ヤスパースに哲学を師事。ナチスの迫害を逃れ、33年パリ、41年米国に亡命。全体主義を生み出した大衆社会を考察し続けた。
「読書(よむ)」ことで感じる、愛おしい死者の存在
2014年、あの世へと旅立った父は、わたしにとってもっとも関係の近い死者です。この世ではなぜか喧嘩になりやすいお互いでしたが、書きこみのある父の蔵書を通して、いまは穏やかな対話がつづいています。
父のほかにもわたしには愛しい死者、尊敬してやまない死者の存在があります。そして、その存在をとらえるための頼りになる手段が〈読む〉ではないかと考えています。
ハンナ・アーレントとの出会いも、〈読む〉でした。矢野久美子(やの・くみこ)という研究者による『ハンナ・アーレント――「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(中公新書)がもたらしてくれたのです。
さてここで、アイヒマン裁判に触れておかなければなりません。アドルフ・アイヒマンは元ナチ官僚。ドイツおよびドイツが占領した地域のユダヤ人たちを強制収容所や絶滅収容所に移送する指揮をとった人物です。
終戦後15年間も潜伏、逃亡して、ブエノスアイレスで暮らしていたところをイスラエルの諜報機関によって逮捕、連行されました。
そしてイェルサレムでの裁判です。アーレントはドイツでユダヤ人として生まれたあと、若き日、パリに亡命したため、ナチの全体主義をじかには体験していなかった。このアイヒマン裁判の法廷を見て考えることが過去に対する自分の責任だと考えました。
こうして『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』は『ニューヨーカー』誌に連載されることになります。
単純ではないこの世において、世界を保全するものとは…
雑誌掲載直後から、アーレントは激しい非難と攻撃を浴びました。なぜか。理由はいくつかありますが、アイヒマンが怪物的な悪の権化ではなく、自分の目にはただ思考力の欠如した凡庸な男に見えたと書いたことが攻撃の的になったのでした。
ハンナ・アーレントは、あらゆる全体主義との対決の姿勢を決して崩さず、20世紀を生き抜きました。アーレントはいまやわたしに近しい死者となり、自分の行っていることについて、行おうとしていることについて考えよ、とささやきます。
わたしはいま、この世において多様性を認める生き方、単純でない世界を保全するものの見方とはどんなものであるかを考えさせられています。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2016年12月号を再編集し、掲載しています。
>>「ハンナ・アーレント」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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