日本の「マインドフルネス瞑想」の先駆者

禅僧で精神科医、川野泰周さんが説く「心の平穏」とは

公開日:2022/02/22

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「今、この瞬間に意識を向ける」。長引くコロナ禍で、「マインドフルネス瞑想」が注目されています。日本でいち早く、誰にでもわかりやすく、取り入れやすい形で普及に努め、多くの人から信頼を集めているのが、禅僧で精神科医の川野泰周さんです。

川野泰周さん

医師を諦め、禅修行で体感した心得とは

神奈川県横浜市にある臨済宗建長寺派の禅寺院「林香寺」の、19代目住職を務めている川野泰周さん。その傍ら、精神科医として、都内や横浜市内のクリニックで診療に従事しています。

「寺の一人息子として生まれ、いずれは跡を継ぐつもりでいましたが、人の心に関する意識が高まり、大学の医学部へ進学。卒業後は、精神科医として病院勤務をしていました。

当時は精神医療といえば薬物療法が主流で、心理療法は補助的な位置づけだったのですが、私はこの薬物療法中心の治療に違和感を感じていました。

もっと患者さんの心と体に寄り添った治療ができないだろうか――、そう思い悩み、私自身が精神医学へのモチベーションを保てず、悩みを抱えて過ごした時期もありました」と川野さん。

川野泰周さん

医師としての生き方を手放した川野さんは、30歳のとき、実家である林香寺の跡を継ぐために、鎌倉にある大本山建長寺専門道場(建長僧堂)に入門。約3年半の修行に入りました。修行中は、ひたすら坐禅、読経、托鉢、作務、掃除などの繰り返しだったと言います。

「睡眠時間が3時間足らずな日もあり、厳しい自己鍛錬の日々に、心身ともに疲れ切っていました。 

修行とは、目の前にあることに没頭して行うこと。年月を重ねるうちに、今ここにいる自分を見つめ、今の状態をただ受け入れることが修行の目的だったと実感したのです。

この仏教の世界における禅修行を体験したことで、私自身、自分を見つめ『今ここ』に集中できる“マインドフルネス”を少しばかり身につけられたのだと思います」

医師と僧侶を両立。マインドフルネス瞑想で心に寄り添う治療を

川野泰周さん

禅修行を終え、2014年34歳で林香寺の19代目住職となった川野さん。と同時に、精神医療に向けて再開の道を歩き始めます。

きっかけは、禅修行で自らが体験した坐禅を源流とする治療法、“マインドフルネス瞑想”が海外で盛んに用いられていると知ったことでした。

「マインドフルネス瞑想には、心が整い、自己肯定感が上がり、何が起きてもしなやかに受け入れられるようになる効果があります。これを心理療法として取り入れれば、もっと患者さんの心に寄り添う治療ができるかもしれない。薬による一時的な改善だけではなく、長く効果のある画期的な治療の選択肢になるのではないか。

自分なりに工夫して日本でも取り入れやすい形で提供できれば、きっと役立つはずだ、と思うようになりました」。

そこで、住職を務めるかたわら、都内や横浜市内のクリニックで外来診療を再開。禅僧と精神科医という二足のわらじを履いた生活が始まります。

診療にマインドフルネス瞑想を取り入れると、患者さんにも少しずつ、いい効果が表れ始め、自身も目の前の患者さんの気持ちを理解しやすくなったと言います。

普段の暮らしに取り入れやすい「マインドフルネス瞑想」

マインドフルネス瞑想

「昨今話題になっているマインドフルネスは、欧米やビジネスの場では上昇志向の人たちが自分を高めるための手段として使われることが多いですよね。

ですが、本来は“ありのままの自分を認める、受け止められる”ようになるためのもの。自己肯定感に課題を持っている人が多いとされる日本においてこそ、有効な手段なのです」と川野さん。

そこで川野さんは、一般の方にもマインドフルネス瞑想を伝える機会があればもっと心穏やかに生きられる人が増えるのではないかという思いから、マインドフルネスや禅に関する著書を多数執筆するほか、講座やメディア出演など、多岐にわたって活動しています。

「できるだけわかりやすく、取り入れやすい形をと考え、普段の暮らしの中で気軽に実践できる瞑想法や心の整え方のヒントを伝えています」

ただし、瞑想法は、間違ったやり方をすると逆に自分の心を苦しめてしまうことがある、と川野さんは注意を促しています。
そこで次回は、正しい「瞑想法」と注意点をご紹介します。

■もっと知りたい■

 

長倉志乃

ながくら・しの  ハルメク編集部兼文化事業室所属。ハルメクに入社する前は、暮らしや住まいの雑誌の編集部に在籍。のんびりお茶を飲み、おいしいごはんを食べ、世界中を旅するのが大好き。現在、本誌編集と同時に、ハルメクの旅や講座、動画コンテンツを企画する新たな仕事に挑戦中。
 

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