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- ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンの温かな世界
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、画家・児童文学作家の「トーベ・ヤンソン」さん。山本さんが9歳のとき出会った物語「ムーミン」の世界から感じる温もりとは……。
好きな先輩「トーベ・ヤンソン」さん
1914-2001年 画家・児童文学作家
ヘルシンキ生まれのスウェーデン語系フィンランド人。芸術一家に生まれ、15歳で雑誌の挿絵画家としてデビュー。31歳から「ムーミン」シリーズを発表し始め、各国語に翻訳されて世界的にヒット。66年に国際アンデルセン賞受賞。
こころがくたびれた日に逃げ込める世界
手元にある『ムーミン谷の仲間たち』の本の見返しには、「1968年夏休み。はじめましてムーミントロール」と、子どものわたしの字で記してあります。
ムーミン谷の住人たちと当時9歳だったわたしとの出会いでした。
調べてみると日本で製作されたアニメーションの「ムーミン」の放送開始は、この翌年(1969年)のことですから、わたしは本を先に読んでいたことになります。
初めて足を踏み入れたムーミン谷の印象は忘れられません。その不思議さ、あとからあとからやってくる登場人物(架空の生物)の個性を前に、途方に暮れましたっけ。
出会いはそんなふうでしたが、9歳の年から半世紀ものあいだ、折に触れてわたしはこの世界を旅してきました。子どものころは病気で学校を休んだ日、大人になってからはこころがくたびれ果てた日、気がつくと、ここに逃げこんでいるのです。
ムーミンの文章世界のみならず挿絵も描いているのは、フィンランドの女流作家トーベ・ヤンソンです。どうやらスウェーデン系のひとであるらしく、原作はスウェーデン語で書かれています。
高名な彫刻家の父、美術家の母のもとで育ったヤンソンは、はじめは画家志望で、フィンランドやパリの美術学校で絵の勉強をしていました。
他者との違いを認め、大切にしながら生きていく
彼女の名前を世界じゅうに知らしめたのは、ムーミン谷の童話でした。
フィンランドの自然を愛し、苛酷な風土を生きる生物と向き合い、濃(こま)やかに観察する姿勢のなかで、ムーミンたちは生まれ、育まれたものと思われます。
ムーミンママ、ムーミンパパ、ムーミントロールたちは、どんなときにも他者とのちがいを認め、大切にしながら、仲よくやってゆこうとする存在です。
だからでしょうね、こころが疲れたとき、ムーミン谷の日常生活のなかに逃げこんで、しばらく過ごしたくなるのは。
思いやりを深くする。
他者も自分もともに愛する。
ムーミンたちの、この生き方に、わたしは抱きとめられてきたのです。
9歳の日、初めて読んだ『ムーミン谷の仲間たち』はシリーズ唯一の短編集です。あらためて読んでみて、いまの年齢になってわかるせつなさ、ユーモア、おもしろみを噛み締めたことでした。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年7月号を再編集し、掲載しています。
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