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- 愛情深く仕事も家庭も両立させた翻訳家・村岡花子さん
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、翻訳家・児童文学者の「村岡花子」さん。まるで物語の主人公の方から「私を訳して」と村岡さんの元にやってくるような愛情あふれるひとです。
好きな先輩「村岡花子(むらおか・はなこ)」さん
1893-1968年 翻訳家・児童文学者
甲府生まれ。1913年、東洋英和女学校を卒業。英語教師を経て編集者に。19年に結婚。26年、最愛の長男が病死し、翌年に『王子と乞食』を翻訳出版。以後、外国の家庭文学の翻訳家として活躍した。
翻訳者の村岡花子のつくりあげた世界
子どものころから本が好きでした。父が読み聞かせてくれた本、自ら夢中になって読んだ児童書――ルパン(モーリス・ルブラン)や少年探偵団(江戸川乱歩の明智小五郎シリーズ)も含まれています――どの本も何度も何度も読みました。
中学に上がると、それまで両親の宛行扶持(あてがいぶち)だった本を、月々のこづかいから自分で買うようになります。
中学1年の夏休み、『赤毛のアン』を読んだときのことは忘れられません。
主人公のアン・シャーリーはたしかに魅力的な人物で、物語にすぐと引きこまれてゆきましたが、それだけではなかった……。個性的な文体につよく惹かれていたのです。
そしてこの文体はわたしの細胞に刻みこまれました。文章を書く仕事をするようになってから、自分が『赤毛のアン』の文体に影響を受けていることに気がつきました。
もちろんこの物語にはモンゴメリという原作者が存在するわけですが、文体に関しては翻訳者の村岡花子のつくりあげた世界です。
悲しみのなかでも女性と子どたちのために本を作りつづける
この大切な先輩がわたしのこころをとらえたのは、『可愛いエミリー』(モンゴメリ/このシリーズも大好きです!)を読んだ日のこと。翻訳者のあとがきに「1964年2月6日、東京、大森の夫亡き淋しい家で、村岡花子」という一文があったのです。
はっとしました。悲しみのなかにも仕事をつづけた村岡花子というひとに俄然興味が湧いたのでした。
調べてみると、子どもの時分から使命感にあふれた女性であったことがわかりました。
英語の本との出合い。ミッション・スクールでの日々。孤児院での日曜学校の活動。若き日の花子は気質も愛情深さも、好奇心の有り様(よう)も、アン・シャーリーと似ています。
大人になってからも関東大震災、長男の死、第二次世界大戦を乗り越えながら、花子は女性と子どもたちのための本づくり、翻訳の仕事をつづけました。家庭と仕事の両方を大切にする生き方を貫いたひとでもあります。
村岡花子が数々の名作と出合い、翻訳することになったのは決して偶然ではなかったのだと感じます。
アンもエミリーもパレアナも「わたしを訳して」と花子のもとにやってきたのではなかったでしょうか。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年8月号を再編集し、掲載しています。
>>「村岡花子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
「だから、好きな先輩」は、雑誌「ハルメク」で毎月好評連載中! 最新情報もあわせてチェックしてくださいね。
※ハルメク365では、雑誌「ハルメク」の電子版アーカイブを12か月分見ることができます。詳しくは電子版ハルメクのサイトをご確認ください。
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