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- 向田邦子さんからの宿題…女を超えて生きるということ
「ハルメク」でエッセイ講座などを担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、脚本家で作家の「向田邦子」さんです。向田さんの存在から感じる「女としての美学」「女を楽しみ、女を超える生き方」とは…。
好きな先輩「向田邦子(むこうだ・くにこ)」さん
1929-1981年 脚本家・作家
東京生まれ。TVドラマ「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など数多くの脚本を執筆。80年『思い出トランプ』に収録の「花の名前」他2作で直木賞受賞。鋭い人間観察に基づく描写で、作家としても高い評価を得た。
1981年夏、突然の別れに悲しみ、虚ろな気持ちに
わたしには、いちごという名の黒猫の家族がありました。子どもがみつけて連れ帰ったのがはじまりで17年いっしょに暮らしました。
いま思うと、あれも、向田邦子の影響のひとつではなかったでしょうか。随筆のなかに幾度も登場する猫たち、ことにさいごの飼い猫となったマミオを、読者は皆、羨みながら愛していました。
「偏食・好色・内弁慶・小心・テレ屋・甘ったれ・新しもの好き・体裁屋・嘘つき・凝り性・怠け者・女房自慢・癇癪持ち・自信過剰・健忘症・医者嫌い・風呂嫌い・尊大・気まぐれ・オッチョコチョイ……。きりがないからやめますが、貴男はまことに男の中の男であります。私はそこに惚れているのです」(『眠る杯』所収)
これです!生まれてから30年、猫という生き物に興味を持たなかったわたしに、てのひらに乗るくらいちっちゃな黒猫と暮らそうと決めさせたのは、たぶんこれです。
1981年夏、台湾旅行中に起きた飛行機事故が向田邦子を攫(さら)ってゆきました。ドラマ、小説、随筆などの作品を愛し、目力のあるうつくしい面差し、暮らし方に惹きつけられていた多くのひとが悲しみ、虚ろな気持ちになったのです。
何事も人のせいにせず、勇ましく生きる
あのころのわたしはと云(い)えば、虚ろになりはしたものの、向田邦子の存在からはっきりと〈女の美学〉というものを、突きつけられていました。女と生まれたからには、女をたのしみ、一方、女を超えて生きなければと思わずにはいられませんでした。
女をたのしむには、暮らし、料理、あらゆる拵(こしら)えに関心を持ち、腕を磨く必要があります。女を超えるというのは、何事もひとのせいにせず、勇ましく!ということになりましょうか。向田邦子というひとは、そんな置き土産とも宿題とも呼べそうなものをわたしに残していきました。
宿題は途中であります。ときどき怠けることも白状しなければなりません。けれど忘れることはなく、宿題はいつも頭の隅っこでわたしをじっと観ています。
さてつい先日のこと、ある編集者から「向田邦子の作品で、好きなものをひとつ挙げるとしたら」と訊かれました。不意打ちでしたが、「消しゴム」とわたしは答えていました。書き出しはたしかこうです。「軀(むくろ)の上に大きな消しゴムが乗っかっている」(『眠る杯』所収)
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2017年9月号を再編集し、掲載しています。
>>「向田邦子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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