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- 作家ミープ・ヒース「誰かのためにできることをする」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載。今回は、作家の「ミープ・ヒース」さん。ナチス時代にユダヤ人をかくまい、助けた彼女から「誰かにとって必要なことをする決意」の大切さを教えられます。
好きな先輩「ミープ・ヒース」さん
1909-2010年 作家
ウィーン生まれ。1922年にオランダに移住、後にアンネの父親の会社に勤務。42~44年、隠れ家で暮らす一家に食料などを運ぶ。アンネの連行後、散乱したノートなどを保存、『アンネの日記』の出版につながった。
特別なことではない「できるだけのことをする」
いつのころからか、「匿(かくま)う」ということばがわたしのなかに棲み着きました。
きっかけはミープ・ヒース。アンネ・フランクの一家と、同じ隠れ家に同居するひとたちを助けつづけた女性です。アンネ・フランクにばかり注いでいたわたしの視線が、支援者に向いたのがはじまりでした。
さて1939年、第二次世界大戦がはじまり、翌年には占領下のオランダでユダヤ人に対する迫害は本格的になってゆきました。夫と暮らしていたミープ・ヒースの家には2人分の食糧しか配給されないというのに、どうやって隠れ家の8人を養えたのでしょう。
彼女のまわりに「匿う」気持ちが取り囲んでいたからでした。パン屋さん、肉屋さん、それから八百屋さんも。
見て見ぬふりをするというかたちで匿ったひともあったわけですが、それとて大変な支援でした。当時およそ2万人のオランダ人が、ナチスの目を逃れねばならなかったユダヤ人(およびその他の人びと)を匿い、助けました。
支援の記録がほとんど残らなかったのは、支援者たちが特別なことをしたとは考えなかったからではないでしょうか。
誰かにとって必要なことをする決意
ミープ・ヒースはなぜ、何10万もいるオランダ人のなかの、勇気ある2万人の列のほうに連なったのか。それをあらためて調べてみました(『思い出のアンネ・フランク』ミープ・ヒース/文春文庫)。
すると、ミープ・ヒースがウィーンの生まれであることがわかりました。第一次世界大戦後の大不況のさなか、ウィーンから連れてこられ、オランダ人の里親のもとで育ったのです(そしてこの家族の一員になりました)。
この子ども時代の経験が、後年の勇気ある選択につながっているのではないか、とわたしは考えました。
と同時に、こうも思いました。ひとを匿ったりかばったり、若いひとに力を貸したり、そんな事ごとに尻込みするわたしは、気づかぬうち自らのまわりに塀をめぐらしているからかもしれない、と。
わたしは、すすんでできるだけのことをした。夫も同じことをした。(中略)わたしは決して特別な人間ではない
とミープ・ヒースは書いていますが、このことばの裏側には、そのときどきにおいて、できること、しなければならないこと、誰かにとって必要なことをする決意が静かに力強く存在するのですね。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2019年7月号を再編集し、掲載しています。
※ユダヤ系ドイツ人の家系で、ドイツに住んでいたアンネ・フランクの一家は、1933年オランダへ移る。ヒトラーがドイツの首相の座につき、ユダヤ人への迫害に乗り出した年でもある。
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